第30話 一二歳は兄の昇進
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第30話 一二歳は兄の昇進
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僕とフィーデリアはアルフィール湖の屋敷でクリスマスを過ごし、プレゼント交換をした。
今年もフィーデリアからのプレゼントは、リストバンドなどの運動グッズだった。
たしかに筋トレは嫌いじゃない。むしろ、好きかもしれない。でも、プレゼントはそこから離れてほしいと、ちょっとだけ思う僕だった。
皇都に帰ると、すぐに年が明けた。
ゲルミナス家に新年の挨拶に伺ったのだけど、当主のゲルミナス卿は不在だった。仕事が忙しいのかな?
あとは毎日フィーデリアがうちにやってきて、僕の身の回りの世話をしてくれる。掃除は侍女がしてくれるのだけど、最近はフィーデリアがしてくれる。貴族のお嬢様がそんなことと、僕も母も兄も侍女たちも言うのだけど、フィーデリアは魔法一つでやってしまうので、大した労力ではないと言い張る。そうじゃなくて、立場というものをと皆が言うのだけど、好きでやっていると聞いてくれないのだ。
冬季休暇が終わればそういうこともなくなるだろう、と好きにさせることにした。
そして学園が始まった。
僕とフィーデリアは三年生になったのだ。
三年生からは、魔物討伐の授業のほかに、対人戦の授業も始まる。もちろん、政務科の僕はそういった荒事の授業はない。
そんな政務科の生徒が増えた。彼ら彼女らは魔物との戦いに挫折した生徒だ。魔物討伐の授業についていけなくなり、政務科に転科することになったのである。
戦えると思っていたけど戦えなかった、または親に科を決められてしまい結局無理だった、という生徒たちだね。
そんな生徒たちと真逆なのが、フィーデリアだ。フィーデリアは魔物討伐も対人戦も圧倒的で、教師でも講師(騎士団や宮廷魔法使い)でも瞬時に無力化してしまう。
おかげで、三年生が始まって一〇日もすると、フィーデリアの戦闘系授業は免除された。教師や講師に教えることができないのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
まあ、フィーデリアが教師より弱かったら、魔王などと呼ばれてはいないだろう。そんなわけで、戦闘系授業の免除も納得だよね。
僕はというと、毎日魔法陣の分析に時間を費やしている。
新しく魔法言語の意味を発見すると、それはもう嬉しいのだ。
「デルクは本当に熱心ね」
「あ、ごめん、フィーデリア。君がいるのに、魔法陣にかかりっきりで……」
「いいの。魔法陣に向き合っているデルクの顔を見るのが私は好きだから」
「つまらない顔だよ?」
イケメンならともかく、僕はそこまで美形じゃないからね。
「そんなことないわ。デルクはとても可愛らしい顔をしているもの」
「そ、そうかな……」
可愛らしいと言われて素直に喜べないんですが……。
そんなこんなで、学園から帰ってきたら魔法陣の分析をする毎日を過ごしていた。
そして僕が一二歳の誕生日を迎えて数日後のことだった。兄パテリアスが昇進して薬事製錬局の参事官になったらしい。
参事官は局長と局次長に次ぐ役職だ。
「兄上、おめでとうございます」
「ありがとう、デルク」
ささやかながら、家族でお祝いをした。
今のナグラー家は子爵なので、このまま昇進すれば父の局次長を超えて局長になれるかもしれない。
それから数日後には、三兄クライスが宮廷魔法使いの隊長に昇進した。
まさかのW昇進で、ナグラー家はお祭り騒ぎだ。
「おそらく、私の昇進もクライスの昇進も、フィーデリア嬢のおかげだろう。そう考えるほうが納得できる」
もうすぐ夏季休暇という頃に、パテリアス兄上がそんなことを言い出した。
「兄上たちの実力だと思いますよ」
「そんなことはない。私もクライスも城では腫れ物に触るような対応だ。大臣でさえ、私たちに道を譲るほどにな」
「えぇぇぇ……」
大臣が道を譲るとか、あり得ない……あり得るのか? 魔王フィーデリアの陰(恐怖)が、大臣をそうさせているのか? 可能性はない、とは言えないか。
「だが、私は思うのだ。たとえフィーデリア嬢のおかげであろうと、昇れるなら昇り切ってやろうと。私は今年で四二歳だ。数年で局次長、そして五十歳には局長になれるかもしれない。フィーデリア嬢の陰は拭えないだろう、だったら拭わずに利用して昇りきってみせようとな」
子爵家が昇ることができるのは、局長までだ。でも、どんなことにも特例はある。
子爵でも局長より上の役職に就けることがあり、過去に副大臣に昇った子爵もいる。
パテリアス兄上も伯爵の役職である錬金省の副大臣の椅子を狙っているのかもしれない。
このグライデン皇国では、侯爵が五家、伯爵が一六家あり、大臣と副大臣の椅子を分け合っている。
伯爵だと基本は副大臣が上限なのだけど、侯爵家の当主が急死したり、まだ若かったりすると伯爵が大臣の椅子に座ることがある。だから、伯爵で大臣になることは、それほど珍しくない。
だけど、子爵が副大臣の椅子に座るのは、かなり珍しいことだ。それほど子爵と伯爵の間に差があるということだね。
パテリアス兄上は慢心しているのではなく、向上心を持って上にいこうとしているように見える。そのために使えるものは、なんでも使うという意志表示なのだろう。
「僕も応援しますので、昇れるだけ昇ってください」
「ああ、デルクの後押しがあれば、フィーデリア嬢の後押しがあるのと同義だ。そうさせてもらう」
僕にはなんの力もないけど、僕の婚約者のフィーデリアには国を動かす力がある。僕もそれくらいは分かっているつもりだ。




