世界樹の実を食べよう
世界樹からの景色をひとしきり堪能した僕は、世界樹の実を手に地上に戻って来ていた。行きと同じく帰りも椅子に座っていただけで、僕は何もしていないんだけどね。
それと、世界樹の実を貰ったのはいいけど、これはそのまま齧って食べるのが正解なのかな。ナイフなんて便利な物は当然持ち合わせていないし、石を加工して作ったりする技術もないし……
「そういえば魔法が使えるようになってたんだっけ」
色々思考しているうちに、エルフに転生した際に得た知識として、魔法が使えるようになっていた事を思い出した。
転生直後に色々あったせいで忘れてたけど、ここで生きていく上では使いこなせるようになっておかないとダメだよね。
日本で生きていた記憶と同じように、違和感なく僕の中に存在しているエルフとしての記憶。その中にある魔法の使い方に従う形で、自分の内側に存在している魔力を練る。
練った魔力を、今度は現象として具現化させる事を意識して、地面の上に置かれた世界樹の実に向けて手を翳す。
体の内側から魔力が少し持っていかれる感覚と共に風を切る音が鳴り……翳していた手を除けると、そこには僕のイメージしていた通りに十字に斬れた世界樹の実が転がっていた。
「……おぉ。これが魔法……」
転生して初の魔法。凄い事の筈なのに、エルフとしての当たり前という記憶があるせいで、どうにも感動が薄れてしまっているのが勿体無いね…
それよりも、せっかくカットした世界樹の実を食べてみないと。4つに切り分けられた実を1切れ手に取り、眺めて見たけれど、外見は兎も角中身は普通の林檎みたいに見える。
「とりあえず食べてみるかな……っと。ん……?!」
迷っていっても仕方ないと一口齧り、口の中一杯に広がる濃厚な味、内側から込み上げてくる魔力に驚いて手が止まってしまう。
前世では殆ど病院食、後半は点滴だけだった僕からすると、自然と涙が溢れてくるくらいには美味しい。
そのまま流れるように2つ目を食べ、3つ目を手に取ったところで視線を感じ取り、顔を上げて見るといつの間にか目の前に来ていたのか、30cm程の妖精が不思議そうにこちらを見つめていた。




