ゆき
「ねね、夏休みどこ行こうね?」
「ええ?まだだいぶ先じゃんか」
「だって付き合い始めてはじめての夏休みだよ?念密に計画立てて思いっきり楽しみたいの!」
「うーん、急に言われてもなぁ……」
「そんなこと言ってたらあっというまに夏休みになっちゃうんだからね!」
噂には聞いていたけれども、女子はこうも付き合うということに張り切るものなんだな。
でも、まあ、こんな風にはしゃぐゆきを見ていると、こちらとしても一緒にいろんなことをするのが楽しく思えるのだから、そう悪くない。
そしてなにより、こんな他愛もないやりとりをしている間は、陰気な隕石の話題を忘れる事ができるのが救いだった。
「どこに行きたいかちゃんと考えといてね!」
そう言ってバスを降りたあと、反対方向の駅のホームに向かうゆきを見送って、俺も自宅方面の電車に乗る。
イヤホンを取り出し、スマホで音楽を聴くのが最近の日課となっていた。
こうしていれば、まわりの話し声が耳に入らないから。
音楽を聴きながら歩いていると、程なくして自宅に到着する。
「ただいまー」
「おかえりー。ごはん、もうすぐできるから、着替えたら早くおりてきなさいよ」
「んー」
リビングではテレビが何度も隕石の話題を出すので、あまり居たくなかった。
夕飯を手早く済ませて風呂に入り、風呂から出たらすぐに自室に向かった。
ベッドに横になりスマホを見ると、ゆきからSNSのメッセージが来ていた。
ゆきと付き合い始めてから、夜寝る前に通話をするのが習慣になっている。
このメッセージはその催促だ。
俺はゆきのアイコンから通話ボタンを押す。
すると、すぐにゆきに繋がった。
「もしもーし」
「もしもし」
いつもと同じ、明るいゆきの声を聴いてホッとした。
「夏休み、行きたいところ考えてくれた?」
「さっき話したばっかじゃん。まだわかんねーよ」
「えー!」
「えーって言われてもな……ゆきはどっか行きたいところあるのかよ」
「いっぱいあるよ!プールでしょ、ランドでしょ……あ!あと駅前に最近できたかわいいカフェも行きたい!」
「あーあのいつも並んでるところ。ゆき、ああいうかわいいところ好きそう」
「うん!好きー!あのね、かなえたちがこの前行ったみたいで、パフェがめっちゃ可愛かったって!」
いつものように、楽しそうにゆきが話す。
1日の中で、底抜けに明るいゆきと話しているときだけは心が安らぐ。
まるで隕石の事なんか無かったかのように、いつも通りだからだろう。
もちろん、そのことを抜きにしても彼女の事は好きだが、どんよりとした気分を吹き飛ばしてくれるゆきの存在は、今の俺にとって唯一の心の支えだった。




