確保
「おっと、そこまでだ。」
あの領主の所までたどり着くかと期待していたのだが、闖入者は残念ながら止められてしまったようだ。
「チクショウ、もう少しだったのによお!おっさん、頼むから退いてくれよ!!」
闖入者は話しながらも、隙をみてすり抜けようとしている。本当に抜け目のない奴だ。
「ま、そうしてやりたいのも山々なんだがな。残念ながら、ここを通すとおっさんの頸が冷たくなっちまう。悪く思うなよ!」
男はそう言うと、闖入者を捕まえて、抱えあげた。体格に似合った膂力というべきであろう。
「離せよ、おっさん!武士の情けって奴だ!
頼むよ!!」
闖入者は聞きなれない言葉を使ってまで、想いを遂げようとしていた。最後まで諦めるつもりはないらしい。見上げた根性だな。
「いやいや、それは無理な相談ってやつだ。おっさんもお仕事しないと、こわーい主にお仕置きされちまう。」
そう言って男はこちらを見やる。なんだ、その失礼な言い種は。ここは一つ注意をくれてやらないといけないな。
「赤種亥よ、離していいぞ。おそらく領主が悪そうだしな。それに、そっちの方が面白そうだ。」
そう言って領主を見やると、闖入者の殺気に当てられた上、衝撃的な出来事に腰が抜けたらしい。こっちを見てはいるが、呆けていて話が耳に入ってないようだ。
「若様、なに仰ってんですか!父上の耳に入ったらまた、どやされますよ!」
「あぁ、そうだな。言葉には気をつける事にしよう。」
肩を竦めて私は答えた。確かに父上に聞こえたら、説教では済まなさそうだ。
ちなみに私の名は「魏万有」、この弱小星間国家「ブリッグ」の元首の息子だ。
そして、この赤種亥は私の護衛である。2メートルを越える背丈に、それに見あった体格をしているが、顔は昔地球にいたという「虎」という動物そのものであった。
―これに関しては何とも言い難い歴史がある。その昔まだ人類が地球にしがみついていた頃、遺伝子の分野が歪んだ発展を遂げていた。そのなかで動物の外観を司る遺伝子が見つかり、人間へ遺伝子レベルで移植する実験を行うため、希望を募ったらしい。
今にしてみれば、何でそんなことをしたのかと理解に苦しむが、その時代は地球での生活が切羽詰まった時代であったようだ。人間が様々な環境に適応できるかを試さざるを得ない、苦汁の決断だったのだが、何故か「日本」という国と、世界の一部の人々が熱狂的に実験に参加したのだ。その結果、男性は「熊」や「虎」「ライオン」「狼」といった毛皮の多い肉食の種族を好み、女性は「犬」や「猫」といった愛玩動物の系統を選んだという。特に女性は「耳」と「尻尾」にこだわったらしいが、その時代独特の風習があったのだろうか。また、女性の極一部は「パンダ」とかいう動物を選んだらしい。
遺伝子レベルでの変化だけに、その子孫にも特徴は受け継がれた。その後様々な紆余曲折があるのだが、ここでは関係ないので割愛させてもらおう。彼らは古い文献から「獣人」と呼ばれ、人類の一定数を有することとなった。
ちなみにこの成功で、一部の科学者が暴走した結果、様々な種族が誕生するのだが、こちらもまた別の機会に。―
閑話休題
さて、闖入者を捕らえたは良いが、これからどうするか…
「若、とりあえず、こいつどうします?」
「そうだな、ともかく私たちが捕まえた事にして、どこかに保護しよう。地下牢だと人目につくから、死刑囚用の特別房に入れておこう。このままだと、この男、良くて処刑、悪ければ拷問の末、闇に葬られるぞ。」
「けっ、今さらそんなことでびびるかよ!こっちはとっくに腹括ってんだ。あいつの命とらねえと、落とし前がつけられねぇんだよ!」
激昂するその男に私はそっと耳打ちした。
「まあまあ、とにかくあいつの悪行を私に話せ。悪いようにはしないから。お前も一思いにあいつをやるより、じわじわ苦しめた方が楽しいだろう?」
そう言って、思い切り人の悪い笑顔をしてやった。
「…」
闖入者は、その時はじめて口を閉じ、得体の知れない物を見るような目付きで私を見た。
「あいつの悪い噂はこちらにも届いているからな。できたら弱味を握りたかったんだよ。」
それに、酔客たちも今の騒動で目を覚ましかけている。遠くから聞こえる足音は、応援の兵達だろう。このまま、ここにいても本懐は果たせない以上、ここに留まるのは自殺行為だ―
私は男にそう告げて、ここから去る道を薦めた。
「…、わぁったよ。とりあえずお前についてくよ。言っとくけどな、あいつの事は絶対許さねぇからな!」
「こら、若に「お前」呼ばわりとはなんだ!」赤種亥がそう咎めるが、男は悪びれた様子もない。そうであろう、と私は思い赤種亥に、
「ここはとりあえず早く立ち去ろう」
とだけ告げて、三人で足早にその場をあとにした。
「それで一体何があったんだ。命を懸けてまであいつの首が欲しかったからには、相当な理由があるんだろう?」
連行している体を装いながら、私は男に尋ねた。
「…裏切られたんだよ。ダチが俺に命を託してまで遺してくれた、手柄を全部奪われたんだよ!」
男はそう言うと、涙を流し始める。…なるほど、あの手柄はそういう事だったのか。
その後私たちは、何となく無言になって特別房へと向かって行くのであった。




