双子の戦い方、暗殺者(2)
良く眠れました。
(あれ?リーファウスが居ない?)
昨日の事は夢だったのだろうか?
私は起き上がり寝惚けながら周りを見渡していた。
「か、花凜!起きたか!」
「リーファウスおはよー」
夢では無かったらしい…
私は眠い目を擦りぼーっとしている。
昨日は疲れたので、体が睡眠を欲するのは仕方がないだろう。
(おやすみなさい…)
「また寝るのか!今日はやる事が多いんだろう?早く起きて、準備せねばならんだろう!とりあえず朝ご飯を…ぐ!」
リーファウスが小言を言ってくるので、キノコベッドに引きずり込む…私はリーファウスを同罪にしようとしたのだ。
(時計が無い世界って良いね)
「花凜、朝ごはんはまだか?」
リオンとミーが部屋の中に入って来た。
どうやらここまでのようである…
「リオーン」
「…」
往生際悪くリオンに抱きつこうとしたが、軽く躱されてしまった。
私は起き上がり、着替えてみんなで食堂に向かったのだが、リーファウスは顔が真っ赤になっていた…どうしたのだろうか?
「コクヨウ朝ごはんなーに?」
「今日はキノコ粥、スープ、クロワッサン、サラダ、ソーセージ、卵焼き、焼き魚、フルーツジュースから御選び下さい」
私はクロワッサン、サラダ、フルーツジュースを選択した。
「全部だ」
もちろんリオンである。
「花凜、おはよう!」(ロナウド)
「花凜さんおはよう」(エル)
「花凜様!おはようございます!」(ドク)
エルも、少しずつ調子を取り戻してるみたいで、少し安心する。
私が何かをしなくても、エルなら自分でどうにかするかもしれない。
「そうだ、今日もリオンさんの手を借りてもいいか?
商人会と、うなぎの取り引きをしようと思うんだが、リオンさんが居てくれた方が、取り引きがスムーズなんだ」(ロナウド)
「あー、なんかわかる気がする」(花凜)
「私は構わないぞ?ロナウドといると、人の常識を色々と知る事ができるしな」(リオン)
「ありがとうリオンさん」(ロナウド)
「ドクちゃんとミーちゃんとエルには、家でリーファウスの護衛をしてほしいんだけど、頼んでいい?」(花凜)
「「はい!」」(ドク、ミー)
「わかった!」(エル)
朝食を終えて、コートと弓を装備した。
鏡の前で回ってみると、やはりこのコートは素晴らしい。
「花凜よ、1人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ、リーファウスも気を付けてね」
リーファウスやみんなに見送られて、私は絆の宿に向かった。
みんなの不安気な表情を見ていると、初めてのおつかいで送り出される子供のような気分になる。
私の頭の中には、その時に流されるメロディーが聞こえていた。
絆の宿に到着すると、見知った職員さんに挨拶をする。
すぐに2階に上がると、ミミックの部屋の前に到着した。
ミミックに1人で会うのは初めてなので、声をかけるのも緊急する。
「あ、あの〜」
「その声は!入ってくれ!」
後から扉をノックすれば良かったなと気付いた…我ながらテンパりすぎ…
「今日はできるだけ依頼をやってしまおう!今日はずっと2人きりだぞ!」
「…ミミックさん…自分の仕事は?」
「あっはっはっは!花凜さんより大事な事なんてあるものか!」
「…そうですか…」
相変わらずの暑苦しさ!コミュ力の低い私は、対応に困ってしまうのだ。
見上げる程大きなミミックには、やはり事務仕事は似合わないと思う。
「依頼は全部で86件あるんだが、片っ端から歩いて行こう」
「はい、よろしくお願いします」
依頼はミミックの助けもあり、順調に済ませていくことが出来た。
私は依頼書が読めないので、ついてきてくれて良かったかもしれない。
午前中だけで30件の依頼が終わり、お昼休憩に喫茶店風のオープンテラスに寄り道している。
「ミミックさん…私、見られてます…」
「…どこからだ?数は?」
私は不穏な視線を感じて、ミミックに報告する。
ミミックはすぐに状況を把握するが、表情も反応も変化させない…今は事務仕事だが、流石に元ナンバー冒険者だ。
「多分2人ですが、小物かと思います」
「警戒はしておこう」
私は目を閉じて気配を探る。
目が無かった時は、これしか出来なかったので、気配を探るのはお手のものだ。
「ミミックさんから見て、この街は住みやすいですか?」
「そうだなぁ…税金は平均的で、美味い魚が食える。
貧富の差も激しくないし、みんな生き生きしてるように見えるな…
問題はほとんど無いと言えるだろう…」
私にもそう見える…そこまでの統治をする人間が、リーファウスを狙うだろうか?
事態はそんなに単純じゃないのかもしれない…
リーファウスの昨日の反応から、王宮は住みにくいのかもと私は思う…
お姉さんとして守ってやらねば!
「この国は奴隷を禁止していると聞きましたが、他の国は奴隷いるの?」
「ああ、居るぞ…この大陸で、奴隷が居ないのはラグホームだけだ…
クレイ王国もグラシアン王国も奴隷制度がある。
グラシアンの奴隷は期間があるが、クレイでは死ぬまで奴隷だそうだ…
クレイは魔道具で首を縛り、逆らうと締め付けられる。
グラシアンは契約魔法を使って自由を支配されるが、人殺しや自分が死ぬかもしれない命令は拒否できる」
クレイ王国怖い…魔道具屋のお婆さんの手紙は持ってるけど、そんなに怖い国なら行かない方がいいよね?
「実はな、ドクとミーはクレイから逃げて来たんだよ…
仲間がたくさん捕まって、助けようと思ったが、既に奴隷の首輪を付けられた後だった…
この街で他に黒狼族なんか他に見ないだろう?
あの子達が冒険者を頑張ってたのは、仲間を買い戻すためだ!
親も捕まってて、毎日必死だった…」
ミミックのいきなりの言葉に、私は狼狽えた。
「そんな!あの子達何も言ってくれなかった!」
「そんな事言ってどうなる?相手は王国だぞ?
それにな、クレイの魔道兵器は凄まじい…」
「そんなの関係ない!」
「まてまて、あの2人は金を貯めて仲間を買う事にしたんだ!
もう10年も前の事だ…
あの子達は6歳の頃からずっと頑張ってきたんだよ!
俺もそれを知ったのは、この街で支部長になった時だったんだ…あの子達が一言でも弱音を言ったか?」
私は何も言えなかった…涙が出てとまらなくなる。
どうしてそんなに強いのか…もし私なら、死んだとしてもクレイに挑んだと思う…
ドクとミーの立場で考えると、大切な人達が、今も苦しんでいると思うと、すぐにでも動かなければ、私なら気が狂ってしまうだろう…
しかしドクとミーは、時間がかかっても、確実に仲間を助けるために、今も頑張っているのだ…
その決意のほどはわからない…
私はクレイを許さない…何があってもドクとミーの仲間は取り戻す。
「わかった…話してくれてありがとう…」
「いいや、あの子達は弱音は言わない…でも妖精王リーダーの君は、知らなければならないだろう。
もし何かあったら助けてやってくれ!」
「もちろん!クレイ王国には、絶対に行く理由が出来たよ…とりあえず今日で依頼は全部やっちゃうからね!」
「え?残り56件全部か?」
「うん!」
私は少し冷静さを取り戻し、再び2人の立場になり考える。
ドクちゃんとミーちゃんの強さの理由、それは私に無いもの…
冒険者を続ければ、死ぬような思いは何度もしたはずだ…あの2人にとって、自分の命より大事なものってなんだろう?
私には想像する事しか出来ない、自分の命より大事なもの…それは仲間と一緒に過ごす時間だろうか?
もし私が全て奪われて、抵抗出来ない力の差があったらどうするだろうか?
10年も不安を抱えたまま、頑張り続ける事が出来ただろうか?
2人の家族や仲間を取り戻す事が出来たら、聞いてみよう!
今後の事も考えると、私は今の力の限界を知らなければならないだろう…
(これがドクちゃんとミーちゃんの力を求める理由か…)
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わいわいがやがやと、楽しそうな話し声が飛び交っている。
2階建ての立派なお店で、階下には沢山の人達がいた。
私とミミックは、2階のテーブルに案内された。
丸い木製のテーブルを囲むように、4つの簡素な木製の椅子がセットされている。
私が先に椅子に座ると、ミミックは対面ではなく右側に座った。
「今日はありがとうございました」
「本当にやりきってしまうとはな…」
依頼を全部終わらせて、ミミックと夕食を食べる事にしたのだった。
私は文字が読めないので、メニュー表らしき板を見ても良くわからない…
ミミックに好きな物を頼んでもらう事にした。
「しかし、花凜さんの魔力は凄いな…体は疲れてないか?」
「大丈夫!治すだけならそんなに魔力いらないから」
「簡単に言うけどな…その治すだけが難しいんだよ」
生命力の強化をして体を治すのは、創造生命魔法の初歩と言っても良いだろう。
1から生命を作るより、弱った体を癒す方がかなり楽なのだ。
そうこうしているうちに、ミミックが注文した料理が運ばれてくる。
今日の夕飯は、海老と野菜が煮込まれたピリ辛スープ、サラダ、なんだかよくわからない魚のアクアパッツァ、なんだかよくわからない果物、メインになんだかよくわからない鳥の丸焼きだ。
今日の案内をしてくれたミミックに、御礼も兼ねて私の奢りで高そうな店に入ったのだ。
「ミミックさん、お酒はいかがですか?」
「もちろんいただくよ!」
ミミックがあまりにも美味しそうに飲んでいるので、私も試しにお酒を飲んでみる事にした。
日本に居た頃は、医者にアルコールを禁止されていたのだが、そもそもお酒を飲んで良い年齢でも無かったのだ。
ミミックが頼んでいたお酒は、濃い茶色の液体が注がれている。
「ミミックさん、1口ちょうだい」
「大丈夫か?これかなりきついぞ?」
ミミックからお酒を受け取ると、まずは香りを楽しむ…テレビでお酒のウンチクを語っていた人が、そんな事を言っていた気がするのだ。
しかし、香りを楽しむと言っても、お酒の匂いだな…くらいの感想しか出てこなかった…
(本当に美味しいのかな?)
少し緊張しながら、ちょびっと口に含んでみる。
(まずい…苦い?良くわからない変な味…)
「美味しくないよ?」
「花凜さんにはまだ早かったようだな」
何だか子供扱いされたような気分だ…
ミミックにお酒を返すと、私は食べる事に専念する。
結局今日私の事を見ていた2人は襲って来なかった…
「あーー、上手い!」
ミミックはお酒をどんどんお代わりしていく…ジュースのように飲んでいるのだが、帰りは大丈夫だろうか?
準備が整ったらラグホーム王国へ行くので、ミミックからも情報をもらっておこう。
「ラグホーム王国まで歩いたら、どれくらいで着きますか?」
「歩くとなるとー…んー、そうだなー…砂漠に慣れた者が真っ直ぐ向かっても10日くらいはかかるんじゃないか?ソリ馬車とか使わないのか?」
なるほど…ならリオンの背中に乗っていけば1日かからないっぽい?
「真っ直ぐ向かって待ち伏せされないかな?」
「もう襲われない可能性もあるけどな…」
「どういう事?」
「……いや、普通に考えてもみろよ…リオンさんが居るんだぞ?」
「あ、そうだね…暗殺者の1人がリオンに片腕を消し飛ばされてた…私なら諦めるかも」
「安心は出来ない、もしかしたらの話だ…どうしても殺らなきゃならないなら来るさ…
しかし、もう1度来たなら、注意しなければならないだろう!
どんな卑怯な手を使うかわからないからな」
「うん、気をつける…」
その後もミミックに沢山お酒を飲ませた。
凄く満足してくれたようなので、私も嬉しい。
こうして今日のお仕事は終了した。
ミミックと別れ、家路を急ぐ…
(もし私なら、このタイミングしかないんだよね…)
私は生きて戻れるだろうか?
まだまだわからない事が沢山ある…
それは相手も同じ事だけど、圧倒的に情報が無いのはこっちだ。
今日は星が綺麗に出ているな…どうでもいい事まで頭の中に浮かぶが、それも仕方ないだろう。
「……やっぱり来たのね…」
「気配は隠してたつもりだが…」
私も考えていた…もし私が暗殺者なら、まず私を殺さないと意味が無いからだ。
私は背中の鈍器が何時でも抜けるように手をかけた。
「まあ待てよ…俺は勝てない勝負はしない主義なんだ」
「今日の昼前から見てたよね?貴方の手下なのかな?」
「……化け物め…妖精王花凜、リーファウスの護衛を降りてくれないか?」
私から暗殺者の姿は見えないが、何処にいるのかはわかる。
「何でリーファウスを狙うの?」
「暗殺者が金以外で動くわけないだろ?」
「お金に困ってるようには見えないけどね…」
「これしか生きる道がないんだよ」
「嘘ばっかり…それで?私が降りなきゃどうするの?」
「わかっているだろう?俺は勝てない勝負はしない主義なんだ」
「…」
暗殺者が何をするのかが何となくわかる…
(怖い…帰りたい…)
『リオン、絶対帰るから…心配しないでね…』
『花凜!どうした?』
「転移の魔道具!使わせてもらうぜ!」
――――グニャ――――
視界が歪む…上下がわからない…水の中を漂うような感覚が、体を一瞬襲った…
「砂漠…ね…そんなに遠くじゃないのかしら?」
何らかの手段を使い、私を何処かへ運ぶとは思っていたが、まさか魔道具を使うとは…
見渡す限り、どこまでも砂漠が広がっている。
(帰り道わからないよ…本当にどうしよう)
「余裕じゃないか!今回はあいつの時とは違うぜ?」
暗殺者の男が姿を現した。
今回は黒布を纏っていないようだ。
見た目は身長180センチくらいで、白い肌に黒い髪…青い瞳、額に15センチくらいの角が1本生えている。
どう見ても人間じゃないみたいだ…
「貴方はリーダーなのかな?」
「この部隊ではリーダーだな」
「部隊なんて見えないけど、何処にいるのかな?」
「すぐにわかるさ」
「私を街へ帰して!」
「悪いな、転移の魔道具は使い捨てだ!もう持ってない」
暗殺者の男は不敵に笑った…
私は弓をイナズマ型のまま、一角鬼に向ける。
「貴方の名前は?」
「悪いな、名前も使い捨てなんだ」
私は…逃げる!!逃げるが勝ちよって言うよね!ほんと同意…
私は一目散に、一角鬼の反対方向に逃げ出した。
「は?ちょっと待てよ!」
絶対に嫌!
私の今出来る身体強化で、何処まで逃げれるだろうか?
とりあえず全力で走る事にする!
「待てって言ってるだろ?」
私の目の前に、炎の壁が出現した…この鬼はやっぱり人間じゃないみたいだ。
リオンの炎バージョンの何かかな?
私はそのまま炎の壁に突っ込んだ。
全属性耐性のコートだからできる事だ…
コートが耐性無かったら、鞄にしまってから、やはり突っ込んだであろう。
「無茶苦茶するなよ…」
鬼は呆れ顔みたい…だって怖いでしょ?逃げるでしょ?当たり前じゃないのよ!
私は炎の壁を越え、さらに走ったが、軽く先回りされてしまった…
「速いよ!逃げさせてよ!」
「姿を見られたんだ…逃がすわけないだろ?」
「あーあーあー、私なーにも見てません!」
「耳を塞いでどうするよ?」
(少しは戦いますか…)
私は試しに、イナズマ型の弓で殴りかかった。
鬼は刀を抜いて、片手で正眼に構えた。
多分軽く受け止める気でいるのだろう…
――――ズドン――――
しかし私の弓は、鬼にとって予想外の威力であろう…
重量と私の腕力で、鬼を力で押しつぶす。
「なん…だよ!それは!」
「鈍器だよ!」
焦る表情の鬼は、ぎりぎりで私の鈍器を逸らしたようだ。
よろめく私の首目掛けて、刀を斜めに振り下ろしてきた!
私は腕を上げて、コートの袖で防御する。
――――ガギン――――
強烈な衝撃音と弾ける火花!
「そのコートもおかしいだろ…」
「あげないよ?コートは渡さない!」
鬼の魔力が膨れ上がる…何をする気なんだろうか?
鬼の魔力は炎に変わり、火の玉が辺りを覆い尽くした。
私はイナズマ型の弓に魔力を注ぎ、本来の姿に変形させる。
私は何かされる前にやるつもりだ。
(創造生命魔法!)
私の右手が青白く光り、特製の矢が完成する。
弓を鬼に向けるが、私より鬼の方が早かった…
「燃え尽きろ」
火の玉が次々と打ち出されてきた。
魔獣の森にいた狼と少し似ているかもしれない…狼は氷だったが、こちらは炎だ。
様々な角度から飛んできた火の玉の速度は速く、避けるのはとても難しい…
私の体に着弾すると、内包された魔力が弾けるように爆発する。
次々に襲ってくる爆発に、私は吹き飛ばされて、地面を転がった。
ダメージは?
「………何がしたいのよ?」
「なんだと!何故何処も燃えていない?」
なんだかよくわからないが、とりあえず私の準備は完了した。
「単純に火力不足じゃないの?」
「なら物理攻撃だ」
私が走り回ってたのは、地面にイバラを仕込むためだ。
私の周りから、無数のイバラが溢れ出す。
とりあえずイバラの後ろに隠れ、鬼の言っていた物理攻撃の対策とした。
「誰かに向けて放つのは初めてだけど…気をつけてね?」
安全が確保出来たので、落ち着いて狙う事が出来る。
イバラの後ろから、男に向かって矢を放った。
――――バァン――――
衝撃波と共に放たれたその矢は、戦慄を覚えるような一撃であろう。
私放った黒い矢は、夜はとても見えずらいはずだ…
しかし鬼は、難なくそれを躱したのだ。
微動だにせずに躱したので、まるで私が外したみたいに見える!
「何処を狙ってるんだ!」
私が外したらしい…要練習…今後の課題にしよう。
気を取り直し、鬼を見据えた…
(帰して欲しいな…)
「本気で私を倒せると思ってるの?」
「…」
「私だって、私と戦えと言われたら、まず逃げるわよ?だって私だもの!
ん?だったら私は、私なんだから、私が逃げるかな?私だものね!」
「お前は………いや、もういい!」
鬼は手に魔力を集中していく…
あの魔力はヤバそうだ!
ドクの自在の黒爪や、リオンの魔眼みたいな切り札かもしれない…
何が来るのかわからないので、私は守りを強化する事にした。
「ウッドゴーレム!」
盾役のとして、ウッドゴーレムを作る。
「穿て!薙ぎ払え!蒼炎の大鷲!」
鬼は、炎で作った巨大な大鷲を放つ!
(物理じゃないよね?それ)
蒼く美しい大鷲からは、強烈な熱波が押し寄せてくる。
熱波だけなのに、ウッドゴーレムは一緒で消し飛び、イバラも焼かれてしまった。
(みんな!ごめん…後で治すからね)
大鷲はそのまま私の前まで飛翔するが、私は右に横飛びして避ける。
さっきまで私が居た場所は、砂が溶岩のように溶けている。
大鷲はそれで終わりではなかった!
鬼の魔力の、ほとんどが注ぎ込まれているのかもしれない…
私は矢の無い弓の弦を引いて弾く!衝撃波だけを大鷲に放つが、大鷲は霧散する事はなかった。
「ただの炎じゃないのね」
「俺の切り札の1つだ!」
(まともに当たればこんがり焼けそうだよ…)
今度は矢を作り大鷲に放った。
――――ジュ――――
矢は大鷲まで届かないで、燃え尽きてしまう!
相当火力が強いらしい…
また大鷲が突っ込んできたので、同じようにまた右に飛び避けたが、少し近過ぎたようで、熱波で私の体は弾き飛ばされた…
どうしよう…
「もくちゃんハウス!」
私は引き篭る事を決意する。
もくちゃんハウスの芽が出て、一気に伸び始めた…
しかし私は、もくちゃんハウスが完成まで少し時間がかかるのを忘れていた。
もくちゃんハウスは、完成前に焼き消されてしまったのだ…
『神樹様!今こそ力をお使い下さい!』
『え?まさかドリちゃん?』
『はい!すっかり元気になりました!』
再び迫る大鷲に、私は手も足も出ない…
ドリちゃんがいきなり力を使えと言うが、ドリアードの使い方なんてわからない…
私はドリちゃんが居るお腹を摩ってみた。
『ドリちゃん!わかった!いくよ!』
『はい!まずは魔力をためて』
『てやーーー!』
『え?ちょっと待って!』
とりあえず、弓を鈍器として、大鷲に殴りかかる。
そのまますり抜けて、暗殺者の鬼の所に行こうと思ったのだが、私は大鷲の蒼炎に包まれて出れなくなってしまった。
「ふはははははは!遂に捕らえたぞ!
そのまま燃え尽きるまで離しはしない!
灰になれ!」
「あーーーーー!熱い熱い熱い!」
本当に熱い!ヤバい!
「熱いよ!」
「はっはっはっは!逃げられまい!」
「ヤバいって…コート燃えちゃうよ!
ああああ!靴が燃えちゃう!
買ったばかりの革靴じゃなくて良かった…」
「ははは…」
「あ!コートは大丈夫っぽい!焦った〜」
「…」
「うぅ…燃え尽きるまで、ここから出れないんだよね?
どうしよう…ヤバい…この後どうなっちゃうの?」
「…」
「そうよね…敵に情報を無闇に渡したりしないわ…
私だって言わないもの!あ、喉乾いた!
確か魔法鞄の中に…あった!水!」
私は水を飲むが、その水はすぐに沸騰してしまった!
お湯は飲みたくない!なんて卑劣な攻撃だ!
「水を沸騰させるなんて卑怯だよ!
ここから出して!この人でなし!鬼!」
「…」
「何とか言ったらどうよ?」
「…」
「はぁ…熱い…もうやだ…寝る事にする…夜だし」
「何で!そんなに!元気!なんだよ!!!!」
何で怒ってるの?怒るのは私じゃないの?
『ドリちゃん、この人おかしいよ…』
『…』
『ドリちゃん?』
『神樹様…体は大丈夫なんですか?』
『ダメ!熱い…本当に早く帰りたい…消せなくてこのままずっと体燃えてたら、皆から心配されそう…』
(何とか脱出しないと…)
相手から見たら、私は余裕に見えるだろう…
でもこの炎の中で、私の魔力はガリガリ削られているのだ!
常に最前を考え、敵に自分の底は見せてはいけない。
攻撃するなら即座に決める。
無駄な攻撃は無意味、相手の底は大体知れた。
魔法を切り札とする場合、勝負を決めるのは力ではない!
リオンは言っていたのだ…私達と魔物の違いを!
『ドリちゃんは、どんな力を持っているの?あいつを倒せるような攻撃できる?』
『私の力は行きたい場所へ導く力…直接攻撃をするような力ではありません…』
『つまり…あー、そゆことね』
私は、ドリちゃんの力の使い方を理解した。
神樹になって初めて魔法を使った感覚に似ている…
「観念したのか?随分大人しいじゃないか」
まだあいつの部隊というものは見ていない…楽観視はできないけど多分大丈夫だろう。
「私は乞う!繋ぐ力!」
「うぉぉぉあ」
蒼炎の大鷲の中から出れないので、コルローの腕輪を使い、暗殺者の鬼を引き寄せる!
急な私の行動に、鬼はびっくりして、声を上げた。
「捕まえた♪」
「な!離せ!ぐあ!」
私は男の右腕を掴み、ついでに握り潰す。
鬼は、やはり自分の魔法では燃えないらしい…
イメージして溜めていた魔力を、繋ぐ力へ変える…
空間が歪み、私達は転移した。
「魔獣の森最深部へようこそ♪」
「なんだと!」
鬼は額に汗を浮かべ、唖然として周りを見ている。
私も、もう一度ここに来る事になるなんて思わなかった。
ドリアードの力は、私の友のいる場所まで、私と私の触れている者を導き、空間を繋げる力だった。
ついでに蒼炎の大鷲は置いてきた…無事炎から解放されて嬉しく思う。
「あなたなら、全力で逃げれば森から出れるんじゃないかな?」
握り潰した右腕から、鬼の生命力を吸い上げる。
暗殺者の鬼は焦りの表情を浮かべ、私の手を強引に蹴り解き、素早く距離をとった。
私が魔獣の森を選んだ理由は、沢山ある…
表情を真剣な物に変え、私は鬼を睨む。
「昔ここにいた頃とは、私の考え方もかなり変わったかもね…
私には大事な物が沢山増えた。
絶対に手出しなんかさせるもんか!」
「お前は何者なんだ!」
「何を言っているの?私は花凜…妖精王の花凜」
首を傾げると、私は魔力の遮断を解いた。
私の魔力の放出を直に浴びて、平常心を保てる者は少ない…私の知る限りリオンだけだ。
ドクとミーですら、立っているのがやっとになる。
敵意を含んだ私の魔力は、森全体に広がった。
「全ての森よ聞け、この男は私の敵だ」
静かな声だが明確に、殺意を込めて鬼を見る。
森全体から殺気が溢れ出す…私の敵、それだけ言えば充分なのだ。
夜の魔獣の森は、様相を一変する…
虫の声は消え、毒の霧が全体を覆った。
木々は不快な音を立てて、ミシミシと姿を変える。
狼や虎、巨大なムカデや蜘蛛などに形態変化して、暗殺者の鬼に襲いかかった。
「く、来るな!来るなー!」
全力の炎で抵抗する鬼、毒もどんどん体に回り、鬼は足がふらふらしている。
即効性の強い麻痺毒が、森全体を満たしているのだ。
鬼に、砂漠での余裕の様子は一切無い…
あの砂漠はこの鬼が用意したフィールドで、部隊のリーダーと言っていた。
伏兵がいるかもしれない中で、私は魔力の全力解放をする事を躊躇っていたのだ。
ここに来れば伏兵の心配は無いだろう、街も近くないので私も全力を出せる。
それに元々世界樹があった森なので、魔力を解放してもなんら不思議じゃないだろう。
「化け物め!お前は、そんな魔力出鱈目だ!人智を超えている!」
鬼は、まだ喋る余裕があるらしい。
「………化け物…ね、人智を超えている?いつ私が人間だと言った?貴方も人間じゃないでしょ?」
「……ここまでか…」
一角鬼は観念した様子だ…
私は矢を作る…矢1本にリオンの全魔力ほどありそうな量の魔力を篭めた。
その矢は槍の様に大きく、不思議な波動を発している。
虹色に輝き、これが解き放たれた時の、矢の威力は、想像も出来ないものになる筈だ。
「最後に聞きたい…お前の本当の姿はなんだ?」
「…秘密」
「そうか…」
私は弓を構え、鬼に狙いを定める。
暗殺者は苦い顔をして、歯を食いしばった。
「あー、もうやめだやめだ!転移の魔道具!」
「え!ちょっと待ってよ!」
鬼は消えてしまった…




