うなぎと魔道具屋さん!
「よく来たな!」
ミミックはそう言うと、沢山の紙の束を持ってきた。
何故かとても機嫌が良さそうに見える。
ミミックは部屋の中にあるソファーに座ると、私達にも座るように促してきた。
私とリオンはソファーに座り、他のみんなは後ろに立っている。
テーブルの上には見たこともないお菓子が並んでいて、少し興味が湧いてきた。
「これは全て花凜さんへの名指し依頼なんだよ…この量には流石に俺も驚いたぜ!」
ミミックがそう言うと、紙束をペンペンしている。
「昨日花凜さんに言われた条件で絞ったんだが、もの凄く多い…Sランク冒険者に名指し依頼するのは、値段が高いんだけどな」
私はお菓子から目を離し、ミミックの顔を見ると、少し目の下にクマがあるようだ。
多分昨日私達が帰った後で、住民の対応に忙しかったのだろう…
今日は予定が詰まってるので、私もゆっくりはしていられないのだ。
「今すぐに行かないと、命が危ない人は居ますか?」(花凜)
「それは俺にはわからないさ…でも、そうだな…
依頼には病状も書いてあるんだが、全く動けない程に酷い状態の人も多いんだよ…んー、まあ急な依頼としては1人だな!
海の魔物の毒にやられて、漁師の意識が戻らないらしい…この人だけは優先した方がいいだろう」(ミミック)
「わかりました。
その人だけ依頼をすぐ終わらせるね。
その後買い物片付けてから教会の人待つ予定なので」(花凜)
「ああ、そうだったな…忙しいのにありがとう。
それで、値段はどうする?Sランク冒険者の名指し依頼だから、最低金貨20枚だと伝えてあるのだが」(ミミック)
「私は無料でいいと思うのだけど…」(花凜)
ミミックは困った顔をしている…私は困っている人を助けてあげたいだけなので、別にお金が欲しい訳ではない。
自由に動けない事と同じくらいに、家族に負担をかける申し訳ない気持ちを抱えて生きるのはとても辛い…
みんな生きているからには、誰かの役に立ちたいのだ。
「花凜、無料はダメだな…他の回復魔法を生業にしている術士が廃業になる。
それと金が安すぎても同じ事だ…
正当な報酬は受け取るべきであろうな」(リオン)
私はそこまで考えてはいなかったのだ…確かに私が無料で癒して歩いたら、回復魔法を依頼する人が居なくなってしまうだろう…
「善意は有難い、だがリオンさんの言った事も考慮しなければならない…俺は冒険者を護る立場にあるから、どうしても冒険者寄りの考え方になってしまうかもしれない。
しかしお金が無くて、依頼を諦めるしかない者も居るだろう…」(ミミック)
「それならば後払いで良い事にしたらどうだ?」(ロナウド)
ソファーの後ろに立っていたロナウドが口を開いた。
「理由は、そうだなー…病状の完治が確認されて、何も問題ないと判断したら絆の宿に支払うという条件だ。
ついでに分割払いと、現在支払い能力が無い者も許可したらいい…
必ず支払うという約束付きでな!絆の宿の依頼報酬は、どの街でも受け取れるのだろう?」(ロナウド)
「まあそれなら大丈夫だな…
報酬の受け取りはどの街でも可能だ、ソルを出ていくつもりなのか?」(ミミック)
「うん!準備して、依頼終わらせたら出発するよ」(花凜)
「今日はその挨拶も兼ねてここに来たのだ…
エルの事では世話になったな!
本当に感謝している…ありがとうミミック」(ロナウド)
ロナウドはミミックに深々と頭を下げた…エルの事で色々無理を聞いてもらった事に感謝を伝える。
ロナウドは全ての資産を使い、お金が足りなくて仕事道具まで売り払ってしまったのだ…
エルを助けるためにいつも真剣だったロナウドを、ミミックは尊敬しているようであった。
ミミックはロナウドの言った提案を可能にするため、何やら書類を作り始めた。
「たいした事はしていないさ…後払いや分割払いでも良いと住民には伝えておこう。
それで、花凜さん達のチーム名は決まったのか?」(ミミック)
そういえばすっかり忘れていたのだ…
何も考えていなかったわけではないが、みんなと話し合う時間はとれていない…
「私は何でもいいぞ」(リオン)
「私達も任せるよ」(ミー)
「うん、花凜様が決めて下さい」(ドク)
ドクとミーは笑顔で頷いた。
みんな私に任せてくれるみたいだ。
ここで少し前から考えていたとっておきのチーム名を披露するしかない!
「それじゃあお言葉に甘えて…!
わんにゃんパラダイスで!」(花凜)←真顔
「「「ダメ!(だ)」」」(ドク、ミー、リオン)
ドクとミーは笑顔で首を振った…
(なんで〜…異世界の価値観はわからないよね?ね?
む、難しい…悩むな〜…全ては妖精王の日記から始まったから…)
「じゃあ…魔法の日記は?」(花凜)
「何か弱そうだな〜」(ドク)
「うぅ…じゃあ妖精王は?」(花凜)
「そのまんま過ぎる気もするが…」(リオン)
「……よいではないか!
消えた妖精王の変わりに、皆の希望になりそうな名前だな!」(ミミック)
「異議なし!花凜様なら名前負けしないもんね!」(ミー)
「では今日から君達はチーム妖精王だ!」(ミミック)
なんでもいいって言ってたのに、私は納得がいかない気分になった…
こうしてチーム妖精王の名前は、絆の宿に登録されたのだ。
「君達はすぐにナンバーをもらう事になるだろうな!トップ冒険者になって自慢させてくれ!」
ミミックがにこやかに微笑む…そして書き上げた書類を私に渡してきた。
多分これにサインをしろと言う事なのだろう…
私はまだ文字がわからないので、事情を知るロナウドが書類に手を伸ばし判子を押す。
「良し!これで大丈夫だ!では早めに出発しよう…市場は少し遠いからな」
この後みんなが、用事を済ませに四散する事になった。
ミーは私の付き添いで、ミミックと一緒に漁師の元へ行ってくれる。
ドクは2人分の荷物を取りに宿へ向かい、リオンはロナウドの付き添いで商人会に出発した。
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「うわ〜…凄い…人いっぱい」
「朝はいつもいっぱいだよ」
魚を焼く美味しそうな香りが辺りを満たし、他にも肉串や果物の屋台が沢山並んでいる。
私とミーは海沿いの市場を、ミミックに案内されて歩いていた。
「こんなに活気があるんだね」
「朝は街の中心部より、市場の方が賑わうんだよ」
ミーもソルの街には詳しいのだが、ミミックが案内をすると言ってきたので、断る事はしなかったのだ。
ミーは私の反応に対応してくれていて、私が驚く度に笑顔を浮かべていた。
市場に来てみると、男の仕事場のようなむさくるしいイメージは無く、オレンジ色の石畳にシンプルなクリーム色の高い壁で囲われていた。
きっと観光客向けにデザインされているのだろう…
波音が近づいて来るのがわかり、私は期待に気持ちが急いでしまう。
きっとこの壁の向こう側にあるのだろう。
「うわー…うーーーーーみだーーー♪」
「海です」
潮風でちょっと肌がベタつく…陽の光を受けて、海はエメラルドグリーンに透き通って見えた。
時間が出来たら海で泳いでみたいので、水着を見かけたら買わないといけない。
私を止める医者は、この世界には居ないのだ!
白い砂浜がキラキラ輝いていて、そこにはゴミ1つ落ちていない。
広大な海に見惚れながら歩いていると、遠くに人が沢山集まっているのが見える。
近づくにつれだんだんと大きくなる座喚きや、慌ただしい声…そして怒鳴り声のような焦った声が聞こえてきた。
「パパ元気ないの?」(子供)
「あなた…」(若い女性)
「…」(瀕死の男性)
「もう毒消しはないのか!」(片腕の男性)
瀕死の男性の妻だろうか?男の手を握り祈るように顔の前に抱えている…その顔は涙に濡れていた。
子供は訳がわからない様子で、横たわる父親を眺めている。
片腕の男性は白いターバンを頭に巻いて、インドの民族衣装のような物を着ていた。
「依頼人のトッポさんですね?」
ミミックは片腕の男性に話しかけた。
トッポと呼ばれた片腕の男性は、ミミックを見ると駆け寄ってくる。
「た、頼む!あれは私の…」(トッポ)
「ええ、わかっていますよ!
冒険者チーム、妖精王の花凜さんを連れてきました。」(ミミック)
「うわ、酷い…」(ミー)
私はすぐに瀕死の男性に近寄り、状態を把握する。
男性の手を握る女の人に、自分の母親の姿を重ねてしまった…
(ちょっと待っててね!すぐに治すから!)
この場所は日を遮るように屋根があり、普段一般人の出入りは無い所なのだろう。
石畳の上に布を敷き、瀕死の男性はその上に横たえさせられていた。
男性の周りには大量の空き瓶が散乱しており、色々な薬を大量に使ったのだろうと思う。
男性は腹が抉れていて、左脚が千切れそうな程損壊している。
沢山血が流れたようで、顔色が悪い…私は手を握る女性の、反対側に跪いた。
男性の胸に手を置き、すぐに魔力を注ぎ込んでいく。
私の魔力を注がれて、男性の体は淡く輝きを放った。
怪我は一瞬で回復した…その体には傷1つ無く完璧に元通りにする事ができた。
男性の顔には赤みがさし、生気も戻ってきている。
(これで安心かな♪)
「もう大丈夫…終わったよ!」
「え?あなた!うわあああ…」
若い女性は、そのまま泣き出してしまった。
子供はお母さんにつられて、泣いてしまったようだ…
男性は目を覚ました…そのまま暫く寝てしまうと思ったのだが、意思の力で目を開けたようだ。
現状に理解出来ない様子を見せる男性…
助かった事はわかったようだが、すぐに険しい表情になった。
「うなぎだ!うなぎが来るぞ」
「何だと!!すぐに大砲の準備だ!」
男性は近くの漁師にうなぎの接近を告げた。
それを聞いた他の漁師は、弾かれたように行動に移している。
(うなぎ?うなぎ…うなぎ?)
私には状況がわからなかった…
「とりあえず依頼完了だな!しかしうなぎとは…」(ミミック)
「助かった!ありがとう!だがゆっくり礼を言っている暇は無いようだ…本当にありがとう」(トッポ)
「いーえ」(花凜)
「うなぎか〜」(ミー)
瀕死だった男性は、うなぎの接近を知らせる事が出来て安心した顔になった。
泣いている母子を抱き寄せると、すぐにそのまま眠ってしまった。
「まずいな…うなぎなんて、ここの武装じゃ相手にならない…どうしたらいいのだ!」(ミミック)
「私も今武器無いんだけど…花凜さんいける?」(ミー)
「わ、私…うなぎが何かわからない…もしかしてにゅるにゅるしてる蛇みたいなやつ?」(花凜)
「うん!そうだよ…強力な電気を出してくるし、皮膚も強靭で滑るの…厄介な魔物よ!」(ミー)
電気うなぎの魔物バージョンなのかな?
「倒せるとは思うんだけど…まずは見てみないとね」(花凜)
「本当か!討伐したらかなりの財産になる。
よろしく頼む!」(ミミック)
ミミックは海沿いから漁師や住民に退避をするように指示を出した。
そして市場を歩いていた冒険者に事情を話し、Bクラスの冒険者チームを2チーム呼んできてもらう。
何処にうなぎが現れても良いように、広い海沿いを巡回させるのだろう。
私達は、街に面した海沿いの中止地点に移動して、すぐに動けるように待機している。
波の音を聞きながら、綺麗な海を眺めている…ただそれだけの事なのに、とても贅沢な気分になる。
「前回うなぎが討伐されたのは、30年くらい前らしい…物凄く美味だと言われているが、知る者は30過ぎの大人だけだ…
倒したら是非冒険者の宿にも肉を卸して欲しい!」(ミミック)
「ふふふ〜、ど〜しよっかなー」(ミー)
「おおー…リオンが喜びそうだなー」(花凜)
ミーもとても楽しそうだった。
うなぎという魔物は、この世界では有名らしい…討伐出来たのは30年も前の話だと言うのに、うなぎを誰もが知っているみたいだ…
しかしリオンが見ていないところでの戦闘は初めてなので、私はちょっと緊張している。
「来たぞ〜!少し南の海岸だ!」(索敵班)
「来たか…2人共、無理するなよ?」(ミミック)
「うん!」(花凜)
「武器無いけど、私も頑張るよ」(ミー)
「増援を連れて行くから、それまで持ち堪えてくれ」(ミミック)
私とミーはすぐに走り出した。
私が全力の身体強化で走ると、ミーとの距離がぐんぐん開いて行く。
これには少し驚いたが、ミーも驚いているのかもしれない。
ミーが遅い訳ではないが、私は規格外のリオンに鍛えられたので、スピードには自信がある。
うなぎの被害が出たらいけないので、私はミーを置いて先に向かった。
(うなぎ…いた!…確かにうなぎだね…)
うなぎは海から頭を出している。
物凄い魔力を感じるがリオン程ではない。
「大きいな〜…」
「キシャアアア!!!!」
うなぎが恐竜のように吠えて威嚇してくる。
恐竜を見た事はないので、あくまで想像の中の恐竜だ。
ソルの街を壊されないように、私は街を背に間に割り込んで通せんぼする。
私を見てうなぎの魔力が膨れ上がった。
「何する気なの?」
うなぎの頭は横幅5メートルくらいあって、体全体の長さは想像も出来なかった。
うなぎの頭の周りに、巨大なプラズマ球が出現する。
プラズマ球は直径約1メートルはありそうで、かなりのエネルギーを感じる。
(危ない!)
「竹林の壁!」
――――バリバリ――――
街を護るように、私は魔法で竹藪を出現させた。
絶縁体である竹は、電気には強いのである。
しかしうなぎのプラズマ球は、普通の電気とは違い、竹林を弾け飛ばしていく!
そしてプラズマは、竹を伝い砂浜を焼き焦がした…
魔法で出来た物は、普通ではないらしい。
それは私の竹林も同じで、燃やされた竹はみるみる再生していく。
「キシャアアア!」
(ううぅぅぅ、…よし海から攻撃しよう!)
私は砂浜から魔力を流しこんだ。
海の方へ伝わった魔力が、海藻に染み込んでゆき、意思を持った生物に生まれ変わる。
0から創り出した竹とは違い、この世界に存在する植物を媒介にした方が、魔力の消費が抑えられる。
海藻達は近くの仲間と手を取り合って(手かどうかはわからないが…)、合体し始めた…瞬く間に100体近い合体海藻兵が誕生する。
海藻兵はうなぎをボコボコ殴るが、全然効いている様子は無い…身体全体がぬるぬるだったのだ…
私はぬるぬるにぬるぬるをぶつけてみたのだ!
結果は…ぬるぬる滑るだけ…
「キシャアアア!!!!ガー!!」
海藻兵達はうなぎを締め上げようとした。
うなぎは怒った…どんどんその身体を海から上陸させてくる。
体の周りをもぞもぞされるのが癇に障ったのだろう。
「ネッシーみたい!身体がある…」
頭はうなぎだが、全体を見ればネッシーみたいだった。
ここまでは上手く戦えていると思う…そんな時、ミーがやっと私に追いついてきた。
「花凜様足速すぎー…あれ?こんな場所に…何の木?」
見知った場所に知らない木が生えていたので、ミーは疑問に思ったようだ。
「それは竹だよ♪」
「全部が緑色の木なんて珍しいね」
「私の国では珍しくなかったんだけどね」
私とミーが話をしている間にも、うなぎはどんどん砂浜に上陸してきている。
遠巻きに様子を見ていた人は、うなぎの接近に少し焦っているかもしれない…
私は逆に、うなぎが上陸するのを待っていたのだ…
しかしその大きさに驚く事になる。
(40メートルくらいあるかな?)
私はうなぎを引き上げるのは重いかな?って考えていたので、陸地に自分で来てくれるまで待っていたのだが、こんなに大きいとは思っていなかったのだ。
「そろそろいくよ!うなネッシー!」
(とっつげきー)
魔力遮断が出来る範囲で、体を限界まで強化する。
私の踏み込みで、地面は爆発したように砂を巻き上げた。
高速接近する私を、うなぎは目視すら出来ないはずだ!
私はとりあえず殴ってみようと思い、拳を握りしめた。
――――べち――――
結果は…踏まれました…
うなぎの前足に踏まれ、私は呆気なく地面に埋没している…
前足の動きはかなり速いみたいだ…
「えーーーー!」
ミーは今の一部始終を見ていたので、心配そうにそわそわしている。
「あ、危なかった〜!セーフ!」(花凜)
「いや!踏まれてましたよね?アウトですよね?」(ミー)
(セーフだと思ったのに!)
私の体は砂浜に埋められてしまったので、首だけが外に出ている状況だ。
体をもぞもぞ動かして、すぐに脱出しようと思ったのだが、私が逃げるより早くうなぎが動いた。
――――パク――――
(たーべーらーれーたー!)
「………花凜様ーーーーー!」(ミー)
ミーは今武器を持っていないので、外であたふたしているかもしれない…
うなぎの体の中から、ミーの魔力が高まるのを感じた。
何か危険な事をされる前に、ミーを安心させてあげようと思う。
『セーフ!危なかったね~!』(花凜)
『念話!いえ花凜様…アウトですよね?アウトですよね?』(ミー)
ミーは大事な事だから2回言ったみたい…
私はミーを心配させるために念話したのだ…ミーの魔力が小さくなっていくのを感じたので、とりあえず一安心する。
「グガアアーン…ウウゥアア」
うなぎに生命力ドレインを体内から使う。
うなぎは世界で1番食べてはいけない物を口にしたのだ…
生命力は命の源なので、これが無くなればお終いなのだ。
「ゴ、グゥゥゥゥン…」
――――ズズーン――――
最後の鳴き声は実に弱々しい…うなぎの首が地面に倒れたようで、その衝撃が伝わってきた。
このうなぎも、生きるために必死で戦ったのだろう。
私は目を閉じて、うなぎに祈りを捧げた。
ミーの魔力が急いで近づいて来るのがわかる。
(早く出よう)
うなぎが倒れたので、私を探しに来てくれたのだろう。
私は魔力を遮断しているので、きっとミーは心配しているはずだ…うなぎの喉を通り、閉まっていた口を豪快に開いた。
「やば!」(ミー)
「私だよ?」(花凜)
「…はぁ…びっくりしたー…まだうなぎが生きていたのかと思いました」(ミー)
「びっくりさせてごめんね」(花凜)
私はうなぎを倒すことに成功した。
「中で何をやったんですか?」(ミー)
「直接中から生命力を奪ったんだよ」(花凜)
「私にも出来るようになるかなー?」(ミー)
「んー…多分許容以上の魔力を大幅に吸うと、身体がパンクしちゃうんじゃないかな?」(花凜)
生命力に干渉する事が出来るのは多分私だけなので、ミーが真似するとしたら魔力を吸い上げる事じゃないだろうか。
思ったより早めにうなぎを討伐する事が出来たので、このまま予定通り買い物に行けるだろう。
「おーーい!」
遠くからミミックの声が聞こえる。
ミミックが武装した冒険者を従えてやって来たのだ。
折角来てもらったのだが、残念ながらもう戦闘は終わっている。
「ちょっと待ってくれよ…早すぎだろう?」(ミミック)
ミミックは苦笑いを浮かべて、横たわるうなぎを眺めていた。
「これだけ大きいと困るよね…食べきれるかな?」(花凜)
「絆の宿はどれくらいうなぎを買い取ってくれるの?」(ミー)
「うーん…皮や牙や毒袋などは、全部使いたいので買い取らせてもらうよ。
うなぎの肉は頑張っても1トンくらいかな…」(ミミック)
「解体作業をお願いしてもいいかな?」(花凜)
「ああ、もちろんそのつもりだぜ?」(ミミック)
「これは…伝説を見てるようだ…俺達Bランクの冒険者とは住む世界が違うんだな…」(冒険者の男)
「新しい冒険者チーム妖精王の花凜さん…流石Sランクなのね…さあさあ!私達も花凜さん目指して頑張るぞー!」(冒険者の女)
さっき決まったチーム名だが、広まるのがやけに早い気がする。
多分ミミックが、色々な所で私達の名前を出しているのだろう。
正直それは少し困るのである。
有名人になってしまったら、平穏な生活が出来ないかもしれない…それに私は世界樹で、正体がバレれば追われる立場になってしまうのだ。
(あ、そうじゃないのかも?逆かな?)
有名になればなるほど、私に手を出しずらくなるのではないだろうか?
ただ人に紛れてコソコソ生活するよりも、人の味方になって仲間を沢山作った方がいいと思ったのだ。
冒険者として有名になれば、それだけ私達に手を出すのに大義名分が必要になるだろう。
(ミミックさん、ありがとう)
私とミーは、ミミックに後を任せる事にした。
「行こっかミーちゃん♪」
「はい、花凜様」
その場を去ろうとしたが、冒険者の人達に囲まれてしまった。
(え?何?)
「あ、あの!」(冒険者の男)
「はい…?」(花凜)
「握手して下さい!」(冒険者の男)
「えっと…は、はい」(花凜)
私とミーは握手を求められて、立ち去るまでに少し時間がかかった。
様子を見ていたミミックが、何故か自分も握手を求めてきたので、とりあえず断っておく。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「花凜様!あそこの果物美味しそう」
「花凜でいいよーミーちゃん♪」
「じゃあ花凜ちゃんって呼ぶね」
様をつけられるのは慣れていないので、呼ばれる度にずっと気になっていた。
ミーと2人きりになるのは初めてなので、この際呼び方を柔らかくしてもらいたかったのだ。
ソルの街を歩いていたら、美味しそうな果物が目に止まった。
見ていたらだんだん食べたくなってきて、色々な物が美味しそうに見える。
「魔法鞄買ったら色々見ようね」(ミー)
「うん!今買っても持てないもんね」(花凜)
ミーに道を案内されて、目的の魔法道具屋に到着する。
時間もそんなにないので、私達はすぐに店内に入る事にした。
中に入ると、様々な魔道具が並んでいた。
見ただけでは、何に使う物なのかわからない…
ゆっくり見ていきたい気もするが、それはまた今度にしようと思う。
「すいません、魔法鞄はありますか?」(ミー)
「ああ、あるよ」(お婆さん)
お婆さんが、魔法鞄の置いてある場所に案内してくれた。
魔法鞄は当然ながら魔道具なのだ…ファッションを着こなすみたいに、種類が沢山あるわけではないらしい…この店に魔法鞄は3種類しかなかった。
ミーとドクは上位の冒険者だったので、長旅用に魔法鞄を1個ずつ持っているらしい。
私も今後のためを考えると、魔法鞄が欲しいのだ。
「この大きいのが1番沢山入るよ…魔道具の本場の、クレイ王国から取り寄せたもんだ」(お婆さん)
肩掛け鞄のような見た目だが、装飾に宝石がはめ込まれているようで、とても豪華な印象を受ける。
クレイ王国の名前が出た時に、ミーは少し変な顔をしていた。
「お宅らは商人かえ?もし沢山運びたいのなら、魔法箱の方が沢山入るだろう。
よかったら見ていくかい?」(お婆さん)
「うん!見せて〜」(花凜)
「ほっほ、魔法箱は高いからの…容量の制限は気にしないぐらい入るが、金貨3000枚もするんじゃよ…商人の憧れじゃな…」(お婆さん)
魔法箱はシンプルに宝箱のような形をしていた。
白い革が張られていて、留め具は金でできているようだった。
魔法箱の右下に、見た事のある文字が入っていた…
「お婆さんこれは?」(花凜)
「あぁ、気付いちまったかい?
実はな…それは金に困った商人から買い取ったもんなんだ…名前も刺繍されておって、縁起も悪いからなかなか売れなくてねぇ…
金貨3000枚って言うのは、買い取った時の値段と同じなんじゃよ…
これ以上安くは出来ないから値引きは勘弁しておくれ…」(お婆さん)
「さっきの鞄はいくらなの?」(花凜)
「さっきの鞄は…そうだなぁ、その箱を買ってくれたら、おまけしてもいいぞ?」(お婆さん)
私は迷わなかった!もちろん買うのだ!
刺繍してあった文字には見覚えがある…先程ロナウドが使った判子と同じ文字だったので、ロナウドの名前で間違いないはずだ。
まだ殆ど文字は読めないが、これからも少しずつ覚えていこう。
(パパにプレゼントが出来た!)
「買います♪」(花凜)
「ええ?今すぐにかい?」(お婆さん)
「うん!はい、お金!」(花凜)
私は小さな魔法鞄から、金貨の袋を6個取り出した。
お婆さんは、金貨の袋を見て驚いている。
「あんたら冒険者なのかい?…まさか!昨日の昼過ぎに、演習場で戦ったと噂になっていた女の子?」(お婆さん)
「うん?そうかも?」(花凜)
「実は頼みがあるんじゃが…腰が痛くて、寝たきりの爺さんの世話も限界なんじゃよ…見てくれんかの?この通りじゃ」(お婆さん)
お婆さんは深々と頭を下げる…私は単純なので、助けてあげたい気持ちになった…さっきリオンとミミックに、無料はダメだと言われたばかりなのだ。
正式な依頼ではないので、ここでお婆さんとお爺さんを治してもバレる事は無いとは思うんだけど…
私がミーの様子を伺うと、ミーは頷いてくれた。
(ありがとうミーちゃん)
「うん、お爺さんはこの奥?」(花凜)
「爺さんもみてくれるのかい?爺さんは下半身が動かなくなっちまってから、元気が無くてな…
教会に頼んでも無理じゃったんじゃよ」(お婆さん)
私達はお婆さんに案内されて、普段お客さんを入れる事の無いであろう部屋の奥へ入って行った。
「誰だい?若い娘が2人も…婆さんが半分に別れたのか?」(お爺さん)
「なーに馬鹿な事言ってるんだい…」(お婆さん)
「こんにちは!お爺さん、ちょっと見せてね!」(花凜)
お爺さんは、ベッドで横になっていた。
この部屋は4畳半くらいで広くはない…お爺さんとお婆さんの寝室になっているみたいだ。
私はお爺さんの体に目を向けて、生命力をチェックする。
元気を取り戻すように、お爺さんの胸に手を置いて早速魔力を流し込んだ。
「はい!おしまい!」(花凜)
「何をしたんだ!?身体から力が漲るが…」(お爺さん)
「元気になったんだよ♪次はお婆さんね!」(花凜)
次は椅子に腰掛けていたお婆さんの肩に手を起き、すぐに魔力を流し込んだ…
ちょっと注ぎ過ぎたかもしれない…
大丈夫かな?お婆さんが10歳は若返ってみえる。
「これで2人とも大丈夫だよ」
私が笑顔でそう言うと、お婆さんが立ち上がる。
不思議そうな表情を浮かべ、体を捻ったり屈んで調子を確かめているようだ。
「なんて事だい!腰が全く痛くない!背筋も伸びる!爺さん、早く立って」(お婆さん)
「なーに馬鹿な事言ってるんだ!立てるわけが……立てたよ…まさかこっちも!?」(お爺さん)
まさかって?
「老眼も治ってるみたいさ…よーーく見える。
生きる希望が湧いてきたよ!ありがとうお嬢ちゃん」(お婆さん)
「気にしないで大丈夫だよ!急に回復したからすぐ眠くなっちゃうと思うの…私達が帰ったらちゃんと戸締りしてね」(花凜)
長生きはいい事だ、自由に動けない事はとても辛いのだ…人生元気が1番である。
お婆さん達の悩みは解決されたので、すぐにでもお店を出て行こうと思った。
私が買った魔法箱をどうやって運ぼうか考えていると、ミーが魔法鞄の使い方を教えてくれる。
「ここをこーやって、こうするとぎゅーんってなるんだよ」
「おおおおおー」
ミーが魔法鞄の口を引っ張ったら、口がとても大きくなった。
魔法箱に上から魔法鞄を被せるようにして、中に収納する。
ミーの鞄の説明が可愛くて、私はついつい和んでしまった。
「お婆さんまたね」(ミー)
「またねー」(花凜)
私とミーはお婆さんに手を振る。
「ちょっと待っておくれ!」(お婆さん)
お婆さんに引き止められて振り返ると、お婆さんが申し訳なさそうな顔をしていた。
「実はね、その魔法箱は金貨2000枚で買い取ったんじゃ…だから金貨1000枚持って行っておくれ」
事情はわかったが、それが悪い事だとは思わない。
お婆さんは商売をしているのだから、利益を求めるのは当たり前であろう。
「それが事実でも嘘でも、私には関係ないよ。
私は例えこの魔法箱が、金貨1万枚だったとしても買ったと思う…私にはそれだけの価値がある物なんだよ。
だからありがとうね、お婆さん」(花凜)
「なら他の魔法鞄も持って行っておくれ!この中サイズの3つ、旧型だが、性能は悪くないはずさ」(お婆さん)
「いらな…はむぅ…」(花凜)
「ありがとう!」(ミー)
私も頑固だがお婆さんも譲らなそうなのを見て、ミーは私の口を手で塞いだ。
(ミーちゃんって意外と大胆な行動するのね)
ここは私も大人になるべきであろう。
私達は鞄を受け取ると、すぐに店を出たのだった。
何故かお婆さんも急いで店から出て来て、私に手紙を渡してきた。
「お婆さんこれは?」
封筒に何か書いてあるが、この文字はまだ私の知らないやつだったので、とりあえず聞いてみた。
「もしクレイ王国に行く事があったら、それを魔道具屋に持って行けば安くしてくれる。
世話になったよ、ありがとうお嬢ちゃん…名前を教えてくれないか?」(お婆さん)
「喜んでくれるだけで、私も嬉しいからいいの!私の名前は花凜だよ」(花凜)
「花凜お嬢ちゃんか、しっかり覚えたよ。
また何時でもおいで」(お婆さん)
「ありがとー、またね」(花凜)
「またねー」(ミー)
まだ買い物が残っているので、サクサク行くとする。
魔道具屋のお婆さんとは仲良くなる事が出来たので、今度は1人で来ても大丈夫だ。
ミーと街を歩いていたら、気になる物が目に入ったので、すぐにそのお店へ飛び込む事にした。
「いらっしゃいませー」(女店主)
私がお店の扉を開くと、扉の内側に付けられていた軽やかな鈴の音が聞こえてくる。
その音を聞いた店主がすぐに挨拶をしてくれた。
中は高級感溢れる内装で、店の外には珍しいショーウィンドウがあったのだ。
ショーウィンドウには革の凝ったデザインの物が多く、私は少しワクワクしている。
店内は明るくキラキラしていて、白い壁には汚れ1つ無かったのだ。
床には赤い絨毯が敷かれていて、土足で入って良いのか少し気になった。
ミーは何も気にしていない様子で入って行ったので、私もそれに習い入店する。
外からも見えていたが、ここは旅用品や防具を取り扱っているお店で間違いない。
ドクとミーは自分の装備を持っているので、私も防具を買おうと思っていた。
リオンは本気で戦闘をしようと思えば、元の姿に戻るであろう。
「こんにちは!」(花凜)
「今日はどんな物をお探しで…え?双黒の風のミー様?」(女店主)
「私は今は双黒の風じゃないよ、今は妖精王に所属してるの」(ミー)
「妖精王!さっきうなぎを倒したチームですよね?すぐに報せが来たので、うちが皮を買い取る予定なんですよ」(女店主)
女店主は嬉しそうにミーとお話している。
きっとドクとミーの大ファンなのだろう…買い物したいのは私なのに、ほったらかされてしまった…
1人で店の奥に行くと、エメラルドグリーンの鮮やかなコートを見つけた…
店の外から見えていたコートで、中からじっくり見ようと思い入店したのだ。
(かっこいい!オシャレだし…金の刺繍もしてある…なんでこれだけ厳重に保管されてるのかな?)
コートを見つめてると、女店主が気付いて近寄ってきた。
「そのコートは観賞用なんです…こちらのコートはいかがですか?」(女店主)
「どうしてこれはダメなの?」(花凜)
店主に問いただすと、逆にえ?っていう表情をされた。
「え〜と…実はそのコートはドワーフが作った物なの…
皮に見えるんですが、特殊な鉱石とミスリルで編み込まれていて、重さが60キロもあるんです…
全属性に対応されているんですけど、魔力の消費が激しいらしく、5分も着ていられません…
ドワーフの王が昔魔王に贈った物らしく、質はともかく使い手が居ないのです」(女店主)
「買います!」(花凜)
直感でこのコートが欲しくなったのだ…買うと言ったら買うんです!
「お待ち下さい…本当に着れませんよ?」(女店主)
「大丈夫だよ〜、多分ね」(花凜)
渋々といった表情で、女店主はガラスケースを開いてくれた。
私はコートを着て、ガラスに映った自分の姿を確認した。
その場でクルクル廻ってみたり、違和感が無いかどうかチェックをする。
サイズもピッタリで、まるで私用に作られたコートのようだ。
(やっぱり可愛い♪これにしよ!)
「大丈夫そうです、これ買います」(花凜)
「ええ?何で?何で平気なの?あ、有り得ないわ…」(女店主)
「花凜ちゃんなら大丈夫だよ!妖精王のリーダーで、魔力の量は桁違いなんだからね」(ミー)
店主はとても渋っている様子を見せたが、私の自然な着こなしを見て、仕方が無いと諦めたようだった…




