山名を名乗る者
こんにちは尼子詮久です。
準備も出来たので、いよいよ備後攻めです。
天文6年春
「殿!殿!」
戦の準備で忙しいというのに白露が騒がしい。
「おかけになった番号はただいま電話に出ることが出来ません、ピーっという発信音の後に……のごわぁ……」
言い終わる前に白露の飛び膝蹴りが飛んできた。まともに食らって小一時間気を失う羽目に……。
「……の……殿!いい加減起きてくださいまし!」
かなり乱暴に揺すられておちおち気を失っていられなくなった。
「……何か言うことはないか?」
不機嫌そうにそう言うと白露はさらに不機嫌そうな表情で言い返してきた。
「殿が居留守を使うのがいけないのですわ……それもこの時代であんなこと言ったら……」
暫く関係ない文句の嵐が続いた……その間に回復しないと……なにせあの一撃でHPはかなり削られたからな。うん、あと一回食らったらマジで死んでたと思う。
「……って、そんなことどうでもいいの。殿、備後の山名理興殿が参られておりますの」
やっと本題に入ったようだ。
「備後の山名?」
「ええ、山名理興殿」
「あいつ杉原じゃなかったっけ?」
山名理興……またの名を杉原理興。後の備後神辺城主。通説では天文7年に備後山名氏を追い出して山名氏を自称する……はずだが……。
「いえ、伯耆山名氏ですよ、あの方は」
「まぁ、いいや、それで、大内方のそいつが何用だと?」
「御目通り願いたいと言っているだけで用件は述べておりませんでしたわね」
「わかった、会おう」
そう言うと白露は家臣に取り次いで大広間に呼ぶように計らった。
「山名殿、大儀でござる。備後から態々出向かれるとは何用であろうか?」
上座に座り用向きを尋ねる。
「風の噂で尼子殿は備後攻めをなさると聞き及びまして……」
「ほぅ、それで?貴殿は大内方……それは安穏としておられぬであろうな……」
「何をおっしゃいますかな?某は大内方ではござらぬよ」
何?どういうことだろうか?奴は大内方であるはず……。
「某の在所は備後山名の治める地でござったが……いまや某が治めております」
「ほぅ、同族で討ち合ったと?」
「そうですな……。無能な親戚を排しただけ……そして、時流に乗らんとしたのみ」
どうもこいつは機先を制し、時流に乗って尼子方に与して備後南部の既得権を確保しようという腹であるらしい。
だが、こいつが備後南部、特に良港を抱える福山周辺を確保しているという状況はこちらにとって都合が良いとは思えないが……。
「では、尼子方に与し、備後平定に協力すると?」
「左様でございますな……ただし……」
やはり要求してくるか?
「備後南部は某にお任せ願いたい……」
「それはちと困るな……それでは我らにとって利益とならぬ……」
奴は少し不満げな様子だ。
「特に鞆の浦などの良港を抑えられないのでは備後に兵を出す意味がないではないか、違うか?」
「……むぅ……しかし、それでは某にとっては甚だ利がないではござらぬか?」
まぁ、当然だな。与しようと言っているのに既得権を認めないなんてこの時代では有り得ない話だ。
「では、こうしよう。小早川領と交換ではどうだろうか……安芸の竹原なども良港であると思うが?」
「本領安堵は約していただけぬと?」
「そうであるな……小早川領を平らげてから後に転封、もちろん、加増も約束しよう……これではどうだ?」
「……考えせてくだされ……」
奴はそう言うと退出しようとした。
「まぁ、待て。暫く、我が城で滞在されると良い。その間に結論を出してくれればよい……城下の様子も良く観察されると良いだろう……誰か、山名殿に屋敷を都合せよ……」
「では、お言葉に甘えて……」
山名理興に小姓が付き添い退出していった。
――奴がどちらに付こうが構わんが、経済格差を見ればどうするべきか判断出来るだろう。




