番外 悪役令嬢は『聖女』なので乙女ゲームに挑戦します
気が付いたとき、カテリナは真っ暗な部屋にいた。薄明りさえない、漆黒の闇だった。
焦り、戸惑いながらも、彼女は光の精霊の加護で【光】を灯した。
「まるで迷宮に戻ったみたいだわ」
つぶやくカテリナの目に映るのは、無機質な石の壁と床と天井、そして壁の一面にかかるガラス板と二つの箱だった。あとはやたらと体にフィットしそうな背もたれ付きの椅子が一つだけ。扉も窓もない。
「クックック、お目覚めかね、カテリナ・アーモニア」
二つの黒い箱から声が聞こえた。
「誰!?」
「わたしはゲームマスター。キミにはゲームに挑戦してもらう。クリアできれば解放しよう」
「クリアできなければ?」
「クリアできるまで挑戦してもらう」
カテリナは一瞬呆然とした。
「……は? そこは死んでもらうとか、そういうのではなくて?」
「死ぬとかそーゆーこと簡単に言わないの! 命、大事に!」
急に親身になる声に、カテリナは理解した。
「……メモリ、いったいなんの真似?」
「わ、わわわたしはメモリなんて者じゃないよ! ゲームマスターだから!」
「ハァ……」カテリナはため息を吐いた。
「……はいはい、ゲームマスターさん。わたしにどんなゲームをやらせたいわけ?」
「クックック、話が早いな! おまえがプレイするのはこれだ!」
ガラス板が輝き、絵が浮かび上がる。同時に二つの箱から優美な音楽が流れはじめた。その後、何やら文字らしき物が左右から流れ出てきて、中央で止まった。
「……ニホン語よね? 読めないわ」
「あー、ごめん! オプションから言語を選択して、ホワイトウッド語に変更っと……。どうだ!」
「『あなたに光の花束を』? これってあなたが言ってたゲームの名前じゃない」
「わたしは言ってないって! その『メモリ』とかやらが言ったかもしんないけど!」
カテリナは面倒くさくなってツッコまなかった。
「……で、これをプレイすればいいのね?」
「そうそう! 誰でもいいからエンディングまで辿りついたら終わり! 本当はカテリナ=レナード・エンドを観て欲しいとこだけど、難しいから慣れてからね」
「次はないわよ!」
「じゃ、スタートね。操作はこっちでやるから行動だけ決めてくれればいいよ。まず名前はデフォルトのノエルでいいよね。生年月日は新星歴1468年5月12日だっけ。レッドの次の日で、カティーの二日前! ちなみに殿下は6月4日だよね」
「あなたもう、隠す気ないでしょ?」
『カティー』ことカテリナは頭が痛い。
「あ、とりあえず立ってると辛いでしょ? その椅子に座って。わたし愛用のゲーミング・チェアを運んでおいたから」
「げーみんぐ……?」
恐るおそる座ってみると、体がすっぽりと埋まり、楽になった。それに、人の香りがする。これがメモリ――九重叶――の匂いなのだろうと思った。
画面が切り替わり、ノエルがホワイトウッド学院に入学するまでのあらすじが流れた。以前メモリに聴いたとおり、平民のノエルは『聖女』として認められ、特別に入学を許された。学院は貴族だけのものではなく、平民でも特別な力や学力があれば入学できるようだ。もっとも、階級にうるさい貴族の子弟には、それが気に入らない。
「まぁ、そうでしょうね。そういう人は多いわ」
そんな感想を漏らす合間に、歌が流れ、登場人物の絵が次々と流れていく。主人公のノエルに、スヴェン王太子、レナード・ブレイズ伯爵令息、ブレイン・グラス伯爵令息、グリンブル・ロックランド子爵令息、ユービー・ディアス男爵令息、そして金扇を口もとにあてほくそ笑むカテリナ・アーモニア公爵令嬢。なぜか背後に稲妻が走っている。
「こんな趣味の悪い扇など持っていませんわ!」
「アッハッハッハ!」
カテリナがツッコむと、黒箱の声が爆笑した。
「メモリ!!!」
「ごめーん。でもこれ、ゲームだから! ゲームの中の『カテリナ』っていうキャラクターのことだから!」
「あなたの私のイメージはこれだったのね!」
「うん、そう」
「悪意を感じるわ……!」
「そーゆー役回りだからね。でもこれ、序の口だよ」
「~~~っ」
オープニングが終わると、入学式のシーンへ。新学院生代表としてスヴェンが登壇し、挨拶を述べる。女子学院生がコソコソと盛り上がっている風景まで映っていた。
「ずいぶん爽やかね。本物はもっと硬質だわ」
「そう? 本物も外面だけはよかったんじゃないの?」
「まぁ、そうね。外交面の問題もあるし、王太子という立場をわきまえてはいたわね」
「さて、入学式が終わると教室に移動するんだけど、ここでライバル登場だよ」
「ライバル?」
『?』を浮かべるカテリナの目に、もう一人の自分が映った。
???『お待ちなさい、そこの平民』
「ぶっ」
カテリナは噴きだした。
ノエル『わたし、ですか?』
???『ここにいる平民はあなただけでしょう? 自分の立場もわからないのかしら』
「な……、なに、これ……」
「学院の制服は、平民は一律黄土色なんだよ。だから遠目でも一発でわかるんだよ」
「そうではなく、なんでこの……このコはこんなに傲慢なのかってことよ。平民だとしても、初対面の相手にいきなり蔑むような発言はないでしょう」
カテリナは名前を出すのがイヤすぎて、画面を指さして言った。
「カティーだってわたし……じゃない、メモリというかわいい女の子を初見で蝿呼ばわりしたと聞いている」
「あれは蔑んだわけではなくて反感からよ。いきなり頭の中でわけのわからない叫び声をあげるわ、意味不明な話はするわ、あげく人をゲームの駒扱い。どこに優しく接する理由があるの」
「……まぁ、それはそうかも」
ゲームマスターは相手の言い分を認めた。
「対して『彼女』は、何ら問題も起こしていない相手を初対面で攻撃しているのよ? おかしいでしょう」
「だって『カテリナ』だし」
「名前を呼ばないで!」
「『カテリナ』はカティーと違って質素な生活をしてきた令嬢じゃないしね。お金も権威も名声もある、まさに大貴族の御令嬢だもん。周囲がチヤホヤするのは当然で、『カテリナ』ももてはやされるのが当然のように育ったんだよ。そしたらこうもなるんじゃない?」
「……育ちの違う『もう一人の私』というわけね。30年前の事件がなければ、私もこうなっていた可能性があったのね」
カテリナは画面に映る『自分』を複雑な表情で見つめた。
???『平民が「聖女」ですって? 有り得ないわ。「聖女」というのは貴族しかなれない特別なものなのよ。いずれ化けの皮を剥いでやりますわ』
『カテリナ』は大笑いして退場。
ノエル『……なんだったのかしら』
呆然とするノエル。
「本当に何だったの!? 名乗りもしないし!」
「まぁ、出会いイベントはこんなもんだよ。さて、ゲーム本編の開始だよ。能力を上げてノエルを成長させるのがメインになるの。その能力の数値が条件を満たすとイベント発生って流れだね。最初の一年は能力あげに集中していこう」
「能力って、この上に表示されている『体力』『学力』『武力』『魔力』『容姿』『話術』『作法』『名声』『疲労』ね?」
「そうそう。気を付けるのが『疲労』で、休まずがんばりすぎると病気やケガをするよ。そうなると完治するまで『強制休息』で他の能力を上げられなくなっちゃうからね。『体力』が高いと『疲労』しても病気になる確率は減るから、序盤は『体力』上げがお勧め。ただ、イベントによっては病気にならないと観られないのがあるから、コンプを目指すなら調整が必要だよ」
「別にどうでもいいので『体力』上げをするわ」
「おっけー。で、『体力』を上げるにもいくつか方法があって、例えばジョギングとか、ウェイト・トレーニングとか、武道の練習、学院の活動なんかがあるよ。それによって『体力』だけじゃなくて『武力』や『魔力』も上がったりするから、複合的に考える楽しみがあるの」
「なるほどね。複数に影響するものは、そのぶん『疲労』も上がるのね」
「そう。メインで上げたい能力の項目を選ぶと、さらに具体的な行動選択になるよ。影響する能力のガイドがついてるから参考にして。青い上向き矢印が上昇、赤い下向き矢印が下降。二つとか三つ矢印があるのは、そのぶん大きく変動する」
さらにゲームマスターは大切な要素として、一週間が3フェーズに分かれていると説明した。平日の五日間と土曜日・日曜日である。土曜日と日曜日は学院は休みで、習い事やアルバイト、デートなどの特殊行動ができる日となっている。
「ともかくやってみましょう」
こうしてゲーム時間の二ヶ月が過ぎた。能力が全体的に低いので、イベントは発生していない。
「……カティーの好きなようにやってもらえたらいいんだけど、一番高いパラメータが『体力』と『武力』って、なんか違わない?」
「なぜ? ノエルはアーモニア流護身術の達人級よ? 私とも渡り合えるくらい強いわ。当然じゃない」
「そーいえばそうだった!」
「手を合わせた同士ですもの。その絆は血よりも濃いわ。血も濃いけれど」
「それで迷宮まで行って助けようとしたんだもんなー。もうそれレッドより脳筋だよ」
呆れるゲームマスターに、カテリナは「それだけが理由じゃないわ」と言い返した。
???『よぉ、おまえが最近ウワサの「聖女」サマか。イメージとまるで違うな』
画面の向こうに赤髪の若い男が現れた。
「それこそ噂をすればレッド登場……」
「なぜ制服の袖がないの?」
「脳筋だから」
「不思議と納得してしまったわ」
ノエル『あなたは?』
???『オレはレナード。またの名を『炎刃』のレッド』
「自分で二つ名を名乗るのね……」
「レッドだけね。あとの人は自分からは言わない」
「そうよね、そうであって欲しいわ」
レナード『おまえ、なかなか強そうだな。武闘会を楽しみにしてるぜ』
「武闘会?」
「季節イベントの一つだよ。9月の第二月曜日に行われるの。決勝までいければレッドの好感度が爆上がりするよ」
「決勝の相手はレナード様になりそうね。勝てるの?」
「三年間『武力』を中心に育成しても勝てないらしいよ。『かなり運が良ければ勝てなくもない』と公式が言ってるけど、倒した人を聞いたことがない。わたしはレッドに興味ないから挑戦すらしたことない」
「では、勝つのを目標にしましょう」
「え、だから勝てないんだってば!」
「やるからには勝つわ。悔しいじゃない」
メラメラと燃えるカテリナの前で、フェードアウトした『レナード』にかわり、『カテリナ』が出てきた。
カテリナ『レナード様もお暇ね。こんな平民にかまうなんて。あなた、大怪我をする前にさっさと退学なさい。平民がレナード様と戦うなど恐れ多いことよ』
「……このコのほうがよっぽどヒマではなくて?」
「うん、みんなそう言う。そしてノエルも――」
ノエル『あの人、ヒマなのかな』
『カテリナ』を見送りながらノエルが言った。
「ブふっ」
「面白いでしょ?」
「面白くないわよ!」
さらに時間が過ぎ、6月末。学期末試験がはじまる。
「ちょ、ちょっと待って! 6月は年度末ではなくて? というか、4月からスタートしたわよね? どういうこと?」
「あー、日本の学校に合わせてるからだよ。日本では4月が年度のスタートなの」
「そうなの!? ……まぁ、異世界のゲームで現実の常識を押し付けても仕方ないわね」
「そうそう。で、試験期間中はすることないよ。今までの成果を見るだけ」
ゲームマスターが倍速にする。筆記試験やら魔術テスト、組手などの絵が動いて流れていく。そして結果発表。
「ありえないわ! なぜ私が300人中272位なの!?」
「だって『武力』一辺倒なんだもん。『武力』部門ではダントツ一位だけど、あとは赤点だし」
「ノエルって残念な子だったのね……」
「カティーがそうしたんだからね!? うまくやれば総合80位には入るんだから!」
「それでも80位なの!? 可哀想な子……」
「そういうゲームなの! 三年目には一位にもなれるよ!」
憮然とするカテリナにかまわずゲームを進めると、不意に画面が揺れた。
ノエル『きゃっ!』
???『失礼、人ごみに押されてしまった。大丈夫かい?』
画面に銀髪の少年が現れた。
「きゃー、ブレイン・グラス様ぁ!」
「あなたが声を上げてどうするのよ」
「わたしの第2推しなんだよー! 結局、王都では本物に会えなかったし、それだけが心残りで……!」
「泣かない! こう言っては失礼だけれど、あの方、あまり性格はよろしくないわよ?」
「知ってるよ。頭はいいけど頑固で融通きかなくてバカが嫌いで自己中心的なんでしょ」
「……それのどこに推す要素があるのかしら」
「カティーには永遠にわからないだろうね」
「わかりたくないわ」
ブレイン『ん? キミは、聖女認定されたノエルだね。僕はブレイン・グラスだ』
ブレイン『……ふむ、キミ、成績は芳しくないようだね』
「え、なにこのセリフ! こんなメッセあったんだ!」
「なんであなたが知らないのよ」
「だって、普通にプレイしてたらこんな成績にならないもん! 乙女ゲームで武力一辺倒プレイする乙女はいない!」
ブレイン『聖女とやらに興味があったんだ。よければ、話を聞かせて欲しいね』
ブレイン『今度、勉強を見てあげるよ。そのときキミの話も聞きたいな』
「うはぁ、また隠しメッセだぁ!」
「本物はこんな親切じゃないわ」
「そのギャップを楽しむんだよ! ともかくこれで、土・日にブルーに会うコマンドが出るよ。会うとデートができて、『学力』に追加ボーナスがもらえる。レッドを選べば『武力』が上がるよ」
「休日は休養したいわ」
「どうするかはカティーが決めればいいよ。それとここから終業式までに、今まで出てこなかった攻略キャラもぜんぶ登場するから、選択の幅がぐっと増えるよ」
「あと出ていないのはグリンブル・ロックランド様とユービー・ディアス様ね。どちらともあまり親交がないのだけれど……」
「カティーのリアルは関係ないよ。ノエルの人生なんだから」
「そうね。ノエルになりきって遊ぶのが正解ね」
「そうそう。でもカティーの『ノエル』は聖女のイメージじゃないよね」
「そもそも、このゲームの聖女はどんな役割なの? 具体的に何も言われてないわ」
「光魔法を使える希少な人だよ。具体的には癒しとか闇の浄化が得意。魔物特効能力者だね」
「それで、その力で何をするの? 魔王を倒すのは特殊なルートのみよね?」
カテリナは以前メモリから聴いたゲームの話を思い出していた。ゲームの『カテリナ』が、自らをいけにえに魔神を召喚するルートだ。何がどうしたらそんなことをするのかまったく理解できない話だった。
「魔王登場ルートはそうだね。他のルートでもイベント戦闘で回復や光攻撃ができるけど、それ以外では単なる称号かな。珍しい力を持つ平民が貴族令息たちをたらしこむのがゲームの根幹だし」
「言い方! まるで悪女よ!?」
「冷静にみるとそうでしょ? ゲームだから許されるわけで。ゲームの『カテリナ』だって、婚約者の白殿下にちょっかいかけられたから怒るわけだし」
ゲームマスターの発言にカテリナはうなずいた。
「そうね、そのとおりだわ。貴族同士の婚約に平民が割り込めば面白くはないわね」
「その仕返しが常識や道理をわきまえたものじゃなかったから『悪役令嬢』になっちゃうんだよ。けどそうじゃないとゲームにならないわけで」
「でも、他の方とのルートでも出てくるのよね?」
「能力値……特に『魔力』が高まると、成績や魔法に自信のあった『カテリナ』は嫉妬から突っかかって来るんだよ。平民に負けるかって。これがだいたい追放ルートにつながる」
「わからないでもないわね。例えば私がメモリに魔術で負けようものなら何をするか……!」
「怖いこと言わないで! ちなみに斬首ルートは殿下と魔力の両方が起点だよ。がんばって!」
「斬首に向けてがんばるものですか!」
そんなこんなでグリンブル・ロックランドとユービー・ディアスとの出会いイベントもこなし、夏季休暇へ。その間もゲームの進行は変わらない。平日は能力値上げ、土曜日・日曜日はデートなどができる日である。
「……カティー、また『武者修行』? 夏休みをそれで潰す気?」
「当然よ、レナード様を倒すためだもの」
『武力』がある程度あがると選択できる項目に、『武者修行』がある。ダンジョンに入り、魔物との実戦を積むのである。ときおり宝も出現し、お金や武具が手に入ることもあった。ハードなため、『疲労』はハンパないが、カテリナの『ノエル』は『体力』も高いので土曜日か日曜日の『休息』コマンドで完全回復である。ちなみにダンジョンは実際に迷路や遺跡を歩いて回るのではなく、平日の五日間を魔物と戦い、勝つと『武力』や『魔力』が上がる単純構造だ。
「やったわ、ダンジョンを初めてノーミスクリアしたわ! あら、『名声』が上がったわよ?」
「ダンジョンを最高評価で終わると上がるんだよ。次からはもっと失敗しにくくなるけど、『名声』は初回ほど増えなくなる。同じダンジョンを二回最高評価クリアすると、次のダンジョンが出るんじゃなかったかな。10段階くらいあったはず」
「面白くなってきたわね!」
「もう乙女ゲームじゃない……」
目を輝かせるカテリナに、ゲームマスターはガックリした。
武闘大会当日。
レナード『よぉ、来たな。正々堂々戦おう!』
ノエル『は、はい! お手柔らかに……』
「なぜこんなに自信がないのかしら? 第3迷宮に進むほどの力があるのに」
「ゲームだから! そんな細かいデータなんて見てないよ!」
「残念ね。本物の三日兄様ならたぎる気迫にきっと気が付くわ」
「カティー、脳筋が進んでない?」
試合は進み、危なげなく決勝へ。
レナード『まさか本当に決勝まで来るとはな。おまえの力、見せてもらおう』
ノエル『よ、よろしくお願いしま~す』
「あ、メモリ、決勝の操作はこっちでやりたいわ。だいたい見てわかったし、戦闘はタイミング押しが必要でしょ? 他人に任せたくないの」
「……椅子の脇のポケットに予備のコントローラーが入ってる。真ん中のボタンを長押しすれば使えるようになるよ」
「これね」
カテリナはゲームマスターの指示に従い、ワイヤレス・コントローラーを取り出して無線接続した。
試合開始。
「さすがレナード様、アタックタイミング・ゲージのジャスト・ポイントが狭いわ。それに速い。ですが!」
レナード『ぐわっ!』
クリティカル・ヒット! しかもダンジョン武器『ポイズン・ハルバート』の効果で毒に犯される。その効果は毎ターン、現HPの5%のダメージを受ける。しかもレナードは【解毒】魔法は使えないので、5ターン持続が確定だった。
「ヒド……」
「勝てばいいのよ! 次はレナード様のターンね。……ジャスト・ガード!」
レナード『なに!? 避けたのか!?』
「当然よ。こんなの見切りにもならないわ」
「わたしでも速く感じるんだけど……」
「修行が足りないようね」
カテリナ操る『ノエル』は着実に攻撃を当て、反撃を避ける。無傷であと一撃のところまで追い込んでいた。
「さすがカティー。でもね、ゲームはそんなに甘くないよ。レッドの敗北直前の攻撃は必ず必殺技で、喰らえば即死なんだから」
レナード『オレをここまで追いつめたのは褒めてやる。だが、ここまでだ! 必殺ブレイブ・バーニング・スラッシュ!』
ガードのジャスト・ポイント幅はわずか1ドット。速さはそれまでの4倍はある。
「何よこれ、余裕じゃない」
カテリナは無造作にボタンを押す。ジャスト・ガードが発動した。
レナード『なに!? 避けたのか!?』
「なにぃ! 避けたのかァ!!!」
「同じことを言わないで。どこが運しだいなのよ。見極めれば余裕じゃない」
レナード『クッ、オレの負けだ……。おまえ、強いな』
けたたましく効果音が鳴る。
「……おめでとう。これもう確実にレナード・ルートだよ」
「え、イヤよ。『ノエル』は殿下と結ばれるのが現実だわ」
「それを目指すプレイにはまったく思えないんだけど。でもまだ1年の半分程度だから、間に合うかな」
「この武闘会って毎年あるのよね?」
「ん? うん、あるよ」
「来年はレナード様も強くなるのかしら?」
「どうだろ。もともと勝てるパラメータではなかったし、変わらないと思うけど」
「でも、もし能力が上がっていたら負けるかもしれないわね。『武者修行』続行ね」
「だからそれ、レナード・ルートになっちゃうってば!」
「好感度が上がっても、親密度が上がらないとダメなのではなくて? 『秘密の相性』ステータスを見るとそんな感じに思えるのだけれど」
「え、うん。そう……だね。親密度はデートでしか上がらないから、デートしなければいい、けど……」
「それなら問題ないわね。三年間、三日兄様を叩き伏せるわ!」
「カティー、レッドに何か恨みでもあるの……?」
「うふふふ。長い付き合いの裏にはいろいろあるものなのよ、メモリさん」
「……」
ゲームマスターは深追いをやめた。
12月24日、王城で国王の誕生パーティーが催される。主だった貴族に招待状が届くが、ノエルは平民のため通常では参加できない。
レナード『よぉ、オレのパートナーとして陛下の生誕会に参加してくれないか』
ノエル『わたしがですか? いいのかな……』
レナード『もちろん……。……ん~、すまん、ちょっとマズそうだな。忘れてくれ。じゃ!』
ノエル『行っちゃった……。容姿と作法に力を入れないとダメかな』
「そりゃそうでしょ。毎日ダンジョンに籠ってるような女の子が王族主催パーティーに出られるわけないじゃん!」
「……」カテリナの手は震えていた。
???『突然の来訪、お許しください』
「え、なにこれ? 王国騎士が来た……」
「そういうイベントではなくて?」
「わたし知らないよ!」
騎士『ノエル殿、あなたの勇名は王宮にも伝わっております。どうか陛下の御前で冒険譚をお聞かせ願いませんでしょうか』
ノエル『わたし、貴族ではないのですが……』
騎士『問題ありません。陛下は冒険話がお好きで、冒険者の方もよくお招き致しております。ましてやあなたほどの勇者であれば、陛下もきっと歓迎致しましょう』
ノエル『わかりました。行きます』
こうしてノエルは国王の誕生パーティーに参加した。
「……」
「さすが『ノエル』ね! 聖女なんて肩書すら必要なかったのよ!」
それからもカテリナの『ノエル』は、『武力』と『名声』を武器に、王国に知らぬ者なしの有名人となっていった。
そして新星歴1487年3月。学院卒業の日――
ノエル『今日で卒業か……。長いようで、短い三年間だったな……』
卒業式の壇上では、ホワイトウッド国王が卒業生たちに祝辞を送っていた。
「これで終わり?」
「……そーだね」
「どうしたの、メモリ。不機嫌そうじゃない」
「だって、結局一度もデートしないで終わってさ、誰ともエンディングを向かえないのが確定じゃん。それに『武力』以外が低すぎて、『カテリナ』に敵視されないから出番もない。まったくもってツマンナイぃ!」
「私は満足よ。三年連続武闘会優勝という前人未到を達成したのだもの」
「聖女じゃない、聖女じゃないよぉ……」
「泣かない!」
国王『……最後に、この場を借りて報告がある』
「……え? なにこれ? また隠しメッセージだ」
国王『この国に、建国王以来の『勇者』が現れた。その者は国の脅威であった10のダンジョンを攻略し、平和の世を造り上げた。我が王家すらが成し遂げられなかった快挙である。余は、その者こそ次代の王にふさわしいと一つの決意をした。まだ若いその者の成長を見届け、より王の資質に目覚めしときは、その者を次の王とする!』
「な、なんだってー!!!」
ゲームマスターの驚きは、画面の向こうでも起きていた。
国王『大聖女にして勇者ノエルよ、ここへ』
ノエル『わ、わたしですか!?』
国王『そなたしかおらぬ。さぁ、皆の前へ』
登壇するノエル。
国王『大聖霊よ照覧あれ! この者、ノエルこそが新たなホワイトウッドを造るであろう!』
グッド・エンディングの歌が流れる。
「……」
呆然とするゲームマスターに対して、カテリナは大満足の笑みを浮かべた。
「なかなか面白いゲームだったわ。聖女どころか女王陛下とは、さすがノエルね」
「乙女ゲームが『プリンセス・メーカー』になっちゃったよ……。こんなエンディング、わたし知らない……」
「さて、これでゲームはおしまいね。私は帰るわ」
椅子から立ち上がるカテリナ。
「納得いかないー! もっかい、もっかいだけやろうよ! ね、ね、ねー!!」
その後、カテリナとゲームマスターがどうなったのかは、誰も知らない。
〈了〉




