第23話
和気あいあいと戯れていると、ガサガサ……と森の奥から4匹の黒い狼が姿を現した。
「なんだっ!?」
マサが一瞬魔力を集中させた。
「待て!」
ガルが手を上げて制止した。
彼女は低く、魔界語で呼びかけた。
「グラヴォルク・シュタム……クヴェル・ダウン!」
狼たちは耳をピンと立て、ガルの声に反応した。
赤い瞳を静かに伏せ、ゆっくりと近づいてくる。
貯水池の前にスッと整列し、地面に腹を付けて伏せた。
尻尾を軽く振りながら、穏やかな息づかいだけを響かせている。
ぱちゃぱちゃと水を飲み始めた。
尻尾を軽く振って、警戒心が解けていった。
ガルが説明した。
「あいつらは魔界狼だ。知能が高くて言語体系もある。番犬としても優秀なんだ」
マサが感心した。
「そうなのか」
狼たちは貯水池をぐるりと回り、静かにマサの近くに寄ってきた。
再び地面に伏せたが、今度は明らかに様子が違う。
一頭が鼻をヒクヒクと鳴らし、マサの足元を熱心に嗅ぎ始めた。
別の狼は瞳を上目遣いに上げ、クゥン……と小さく甘えたような鳴き声を漏らした。
尻尾がゆっくりと左右に振り始め、口の端から透明なよだれが一筋、ポタリと地面に落ちた。
残りの狼たちも次々と同じ仕草を真似し始めた。
物欲しそうな――いや、はっきり言って「ちょうだい」と訴えるような目でマサをじーっと見つめている。
耳を少し後ろに倒し、期待に満ちた息づかいが荒く、舌をチロチロと出しては引っ込める。
マサが首を傾げた。
「ええと、これは?」
ガルが狼たちに視線を移した。
「マサの体から香辛料の香りがするからな。餌が欲しいんだろうな」
ガルはくすっと笑い、狼たちに向き直った。
彼女は再び魔界語を紡いだ。
「ヴォルク・ヤグド……セルプ・ブリャト!」
狼たちは耳をピクッと動かし、一斉に立ち上がった。
尻尾を軽く一振りして――
森の奥へと駆け去っていった。
木々がサワサワと揺れる音だけが、しばらく残った。
マサが目を丸くして、ガルを振り返った。
「……今のは?」
「餌が欲しけりゃ獲物は取ってこい」
マサは感心したように息を吐いた。
「物分かりがいいんだな」
「あいつらの群れの長はもうマサだぞ?」
「えっ、そうなのか?」
「マサの魔力を見て、腹見せない魔獣はいないぜ?」
サチが言った。
「いい加減自覚して下さい」




