第一話 死にました。転生しました。領主様に惚れました。
俺の名前は、安藤 六太。今年で22歳の新卒会社員だ!!
と、言いたいところだが、絶賛ニートである。
理由は簡単だ。俺は資産運用と投資が上手だった。以上!
よって、俺は働かずして、納税し、大金を手にし、悠々自適に生きているのだ。
とも言いたいのだが、実際は違う。
確かに、資産運用と投資が成功し、大金を手に入れ、納税もちゃんとしている。
が、悠々自適な生活ではない。家では肩身が狭い思いをしている。なぜなら、両親と兄は、真面目にせっせと働いているからだ。だから、俺がうらやましいし、憎いのだ。
顔もよくないスタイルもよくない。おまけに、デブでどうしようもないクソニートの風貌なのに、成功している俺と、自分たちを比べて、勝手に惨めになっているのだ。
俺はちゃんと働いてる方がすごいと思うし、自分がいい意味でも悪い意味でも特別なのは心得ている。しかし、そのことを言っても、彼らは聞き入れてくれなかった。
なのでこうして、誰にも迷惑をかけないように、今日もまたパソコンの前に鎮座して、株価や資産に目を光らせているわけだ。
そんなある日、俺は、久々に買い物に出た。
近くのコンビニまでエナドリとカロリーメイトを買いに行くのだ。時間は夜で、両親は寝静まった後だ。兄は一人暮らしなので、実家暮らしの俺とはめったに合わない。
「さて、帰ろ」
買い物を手早く済ませ、家に帰る途中だった。
まえから、黒いスーツを着た男性が歩いてくる。気にも留めずに、俺たちはすれ違った。
————あれ?お腹が熱いな……。
俺は、腹に熱湯のような感覚を覚え、ふと、腹を触る。すると、
左わき腹が切られていた。
あまりのショックに声も出ない。徐々に意識も遠のく。
————うそだろ?うそだろ?こんなことある?通り魔?それとも、まさか俺の資産を狙った刺客!?
ぐるぐる思考を巡らせるが、やはり、分からない。そうしているうちに、体は傾いて倒れていた。
死の直前は聴覚が残ると聞いたが、本当だ。犯人が誰かと連絡を取っているのが良く聞こえる。
「ああ。対象は処理した。じゃあ、指定の口座にちゃんと依頼料振り込んでおけよ……。なに?死体の確認?ああ。今するよ」
男はこっちに寄ってきて、俺の隣にしゃがんだ。
「あんたも災難だな。実の兄に刺客を送られるなんてな……」
ブツッ……
そこで、意識は途切れる。
あっけない死だ。
最期に感じたのはそんなことだった。
・・・
謎の転落感。落ちる、落ちる!?!?
「………うわぁ!!はぁはぁはぁはぁ……ん?ここは?」
えっと、何だろう?体が動く。妙に軽いな。ここはあの世か?いや、あれ、?この手は誰のだ?あ、感覚がある。ここは……ベット?それに、木でできた家。隣の棚の上には花瓶。なにより、
「消毒液のにおい……?病院か?ここ」
状況を整理しよう。俺は兄からの刺客に刺されて死んだ。んで気づいたら病院。しかも、現代の病院ではない……となると、考えられるのは…………
「マジかよ。異世界転生してるじゃん……」
バタンッ!!!
突然、俺の病室(?)の扉が開いた。
「何事……え?起きてる?生きてる!?すぐに先生に連絡を!!」
村民A、というのが似つかわしいおっさんが、俺を見てそう言った。そしてすぐ、どこかへ駆けていった。数秒後、複数の足音が、こちらに向かって来た。
「生きてる!?しかも目が覚めているなんて!そんなバカな!?」
医者とみられる格好の人 (これまたおっさん) が俺に向かって叫んでいる。
「えっと、説明お願いできますか?」
これが俺、安藤 六太改め、アルベルト ロンドの目覚めであった。
・・・
よくよく話を聞くと、俺は村を襲った魔物に呪いをかけられて、昏睡状態だったとか。そして、徐々に死んでいく最中だったらしい。しかし、そんな時、俺(安藤 六太)という魂がこの体に入ったことによって、呪いが解け、復活したということだ。あ、ちなみに、俺が転生者であることは包み隠さず伝えた。隠すの面倒だし。
「ああ、アルベルト……」
医者や看護師の後ろから、一組の夫婦が姿を見せた。魂は違えど、記憶はある。安藤 六太の記憶はもちろんのこと、なぜかアルベルト ロンドの記憶もある。だから、この人たちが俺の両親であることは、一目見てわかった。
「父さん、母さん……」
俺たちは少しの間抱擁を交わした。
「おにーちゃん……?」
そして、そのまた後ろから、中学生くらいの女の子が顔を見せた。
彼女の名はクリス ロンド。俺 (アルベルト ロンド) の妹だ。
「一応、おにーちゃんってことでいいんだよね?」
「そうだな。俺はアルベルト ロンドだ。転生前の記憶も持っているが、この世界では、アルベルトだな」
そう俺が言うと、クリスは抱き着いてきた。
「おにーちゃん!!おにーちゃぁぁぁん!!うわぁぁぁん!!」
大号泣である。
「3年も目を覚まさなかったんだよ?おにーちゃん」
「さ、3年!?」
呪いってどんだけ強力なんだよ……?
しかし、その衝撃以上に俺はうれしかった。この世界では、俺は家族に愛されている。本当にそれだけがうれしかった。
思わず、涙がこぼれるほどに。
・・・
さて、いろいろあったが、俺は無事、社会復帰に成功した。俺の仕事は農作物の売人。要するに農家だ。時間の流れというものは早いもので、転生からもう一か月が経とうとしていた。
「アルベルト!ちょっとこっちに来てくれ」
父さんに呼ばれ、俺は駆け寄る。
「どうしたの父さん?」
「言い忘れておったが、今日は領主様が視察に来られる。礼儀作法は覚えているね?」
領主様?ああ、記憶にある髭の長いおっさんか。礼儀作法なら、敬礼ぐらいなら覚えている。ちゃんとこっちの世界のものだ。
「うん。覚えているよ。でもなんで領主様が?」
「領主様はここの野菜を気に入っていてね。度々買いに来るんだよ。村の視察も兼ねてね。ほんとの理由は、この村が一番、魔の森に近いからなんだが。」
魔の森。「魔物が多くいる危険な森だ」と呼ばれる、何ともありきたりな森が意外と近くにある。
「それと、2年ほど前に新しい領主様になったから、アルベルトは会うのは初めてだね。くれぐれも、失礼のないようにね」
すると、少し地響きがしてきた。
「ん?」
父さんは村道の方を向くと、
「どうやら来たみたいだね」
確かに道の向こうから馬車が来る。そして、畑の目の前で止まった。
扉が開き、中から人が出て来た。
「ロンドさん、お久しぶりです」
鮮やかな金髪に、豪華かつ優雅な服装。きれいな所作。整った顔立ちに、抜群のスタイル。
「お久しぶりです。領主様」
父さんは、右手を左胸に当てながら、深々と頭を下げた。
「ところでロンドさん、そちらの方は?」
あ、こっち見た……きれいな人だな……。
「紹介します。我が息子、アルベルトです」
「ご、ご紹介にあずかりました!アルベルトです。よろしくお願いいたします」
俺も父さんと同様に頭を下げる。
「見たところ、歳は私とほぼ変わらないのかしら?」
「そうですね。今年で17です」
父が代弁する。ああ、そうだった。俺17歳なんだった。
「まぁ!私は今年で18よ。一つ下の子なんてこの村では珍しいわね。大体みんな小さい子供たちばかりなのに」
「実は3年前から、昏睡状態でして、一カ月前に目覚めたばかりなのです」
領主様がたいそう驚かれている中、俺は一人、領主様に見惚れていた。
めっちゃかわいい……
「アルベルトさん?どうかしました?」
領主様がこちらの顔を覗き込んだ。
「うわっ!え、えっと……何でもありません!」
俺はのけぞってしまった。
「そ、そんなに驚かなくても……」
「すみません!すみません!」
俺が何度も頭を下げると、領主様はくすっと笑い。
「焦りすぎです。もっと肩の力を抜いてください」
「あ、あの!」
俺は、
「一つお聞きしてもいいですか?」
口が勝手に動いていた。
「あなたの……」
確実にこの時から、
「お名前は、何というのですか?」
彼女に惚れていたんだ。
「名前ですか?ベルナ グランディオです。改めて、よろしくお願いします。アルベルトくん」
そのはじける笑顔に、俺は夢中になった。
「結婚してくれませんか?」と、口走って、その場を凍り付かせるぐらいには、夢中になっていた。
続く
本作を読むんでいただきありがとうございます!
全10話を計画していますが、上振れ下振れあると思いますのでご容赦ください。
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それでは、次回もお楽しみに!
次回
プロポーズしました。振られました。結婚しました。




