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第九話 尻取り

 おっさんが翌日の朝のギルド会議の冒頭で、攻略が想定以上に順調なことから、今日からは攻略組の皆さんのサポートの為、ギルドの仕事をメインに活動することにします。と宣言した。

 おっさんが攻略組に限定参加すると告知していたこともあり、昨日のダンジョン攻略を考えると何とかなりそうだと考えたのか、特に問題なく承諾された。


 なので今日は攻略組は十九人となってしまったのだが、居残り組な人たちもオレ達からダンジョンのことを聞いて、ちょっと参加してみようか? といった雰囲気にはなりつつある。


 そうして今日のダンジョン攻略は、五階層への階段を発見したところで終了となったのだが、攻略組が獲得した金貨は昨日よりも多い百七十枚だった。

 昨日同様、パーティー単位で一旦全額をギルドに渡し、三食分と宿泊費の合計四枚がギルドを通して全員に支給された後、残った金貨の相応分がパーティー単位で返却されることになった。


 今のところダンジョン攻略が特に危険もなく行われているためか、攻略組のなかで今の金貨の配分方法に不満を持っている人は居ないようだ。



 晴れて名実共にギルドマスターとなったおっさんに夕食の時、今日はどんなことをしていたのか? と聞いてみたら、店舗の調査の取りまとめとか、ダンジョン攻略日誌のひな形作りなどを山田さん、渡辺さんたちと行っていたようだ。


 あとは昼食時に見張り組のハンバーガーショップ転移の女子高生、伊藤さんと山本さんに手持ちのカードを貸与たいよして、カードバトルのルールを教えていたらしく、「いやあ彼女たちは覚えが早いし、なかなか筋かいい」と、べためである。


 ちなみにダストシュート前に積み重ねられた段ボールの束を置き、その上に胡座あぐら座りでデュエルに興じる二人は、小供の頃に映画で見た昭和の博徒のようで、なかなかさまになっていましたよ。とのことである。



転移六日目、攻略開始から四日目 攻略階層五階


 オレ達は五階層の攻略を開始した。

 一昨日おとといそして昨日のダンジョン攻略で得た経験によって、上階への階段を出来るだけ早く発見するために、攻略組のダンジョン攻略は枝分かれ探索方式が採用されていた。


 まずは五パーティーの皆が集団行動をして、一階から攻略階層までのダンジョン内を移動し、攻略階層到達後もそのまま集団で移動、そこから分かれ道があると、中村係長のパーティーをその場に残し、二つに別れる。

 次の分岐点があった場合は、再度別れてパーティー単位での行動になる。そこからまた分岐があった場合や行き止まりだった場合は引き返して、最初の分岐点で待機している中村係長に報告を行い、その指示に従って行動する。


 中村係長がこのレイドチームの指揮役となり、指示命令とマップの取りまとめを行い、部下の中島さんが伝令役及び助っ人役となる。


「今日は五階層、これまではなかったけど、罠なんかもあるかも知れないし、ゾンビの上位種や違う種類のモンスターが出るかもだから、充分警戒してね」と、中村係長から事前の注意が入った。


 そして二度目の分岐の後、三人となったオレたちは、いつものトライアングルフォーメーションでマッピングをしつつダンジョンを進む。


 そうしていつしか三人での尻取りが始まっていた。


 佐藤の「ほな、最初はりんごや」に、鈴木が「ごまだんご」とこたえ、オレは「ごま」、佐藤はうれしそうに「まつたけやー」と続き、食べ物縛りとなったようだ。


 佐藤と鈴木がマッピングを行いながらなので、スローペースだ。

 ゾンビが出ても、ぽかりの後、そのまま尻取りは続く。


 鈴木「けーき」、オレ「きのこ」、佐藤「こんにゃく」、鈴木「くりまんじゅう」と来た。


 鈴木の「だんご」と「まんじゅう」及び「けーき」等々の甘味かんみシリーズは、この戦いで戦闘力が高そうだ。場合によってはオレの抽出ひきだしの中身を早々に涸渇こかつさせる可能性があるだろう。


 なのでオレが「うしのにく」と答えたところで、佐藤のクレームが入った。

「うしのにくは牛肉や、ビーフやで、なんや、東京ではビーフステーキのことを、うしのにくステーキちゅうんかい」とのツッコミをいただいたのだ。


 その後の相手をコテンパンにする、えぐるような追撃がない分、甘いと言えば甘いのだろうが、その一撃にはじゃれ合うような軽さがあっても、ツッコミとしてはなかなかのものだ。

 反論どころか、ぐうの音も出ない。


 東京へと越してきて、落剥らくはくしたかのように見えていたが、やはり虎は虎ということか……

 などと感心しつつ「うまいにく」と言ったら、佐藤が即座に「うしも、うまも、うさぎもうーまーいーも禁止や」と言ってきた。ちっ、奴め、往年のかんを取り戻したのか? 舌が、頭が回りやがる。


 オレが仕方なくという感じで「うり」と答えると、続く佐藤が言葉に詰まる。ざまあだ。

 「り、りーやろ、りんごは言うてもうたし、り、り、あ、リーブーロースーやー」と答えた。


 それに対してオレが、「にーくーのーぶーいーってやつおますな? いや佐藤さんはまた随分と物知りさんですなー、京都がサーロインなら、リーブーロースーは、さしずめお隣の神戸さんあたりでっしゃろか? ま、大阪さんはその下の、ホルモンですしなぁー」と、ネットで見掛けた牛肉の部位のイラストと、近畿地方の地図を思い出しつつリンクさせ、似非えせ京都人となって茶々を入れて、佐藤の様子を窺う。


 ダンジョンが薄暗いせいで表情までは分からないが、奴の悔しそうな顔を想像すると愉快だ。


 続いて鈴木が笑いをこらえながら「ストロベリーフラペチーノ、チョコレートソース追加」と答えた。


 ん? チョコレートソース追加って必要なのか?


 鈴木に聞くと、某有名店では無料で追加出来るし、追加したほうが美味しいから必要らしい。


 無料でさらに美味しくなるってことなら、うん、必要か……


 まあ「の」でも「か」でも大した違いはないだろう。オレはちょっと考えてからニヤッと笑って「かめのて」、佐藤が暫し沈黙した後、「て、てっさや」と続いた。


「かめのて」にクレームを入れてきた佐藤を、コテンパンの返り討ちにしてやろうとしていたんだが、スルーされた。奴め、知っていやがったのか……

 そして対抗するかのように罠を仕掛けてきた。佐藤がこっちをうかがうような気配を感じる。残念、わざと変なアクセントで言ってたけど、「ふぐ刺し」って知ってるもんねー


 と、オレは前方にゾンビを発見し、ぽかりする。残念金貨は出なかった。

 ダンジョンは今のところ一本道だ。今日もゾンビはのろくさい。そしてくさい。


 その後も尻取りは続き、鈴木の「さぽじら」との答えに「なんやソレ?」と佐藤の突っ込みが入るが、鈴木曰くジャガイモみたいな外見だけど干し柿みたいに甘い果物で、東南アジアではメジャーな果物らしい。


 この木の樹皮を傷つけるとチューインガムの原料になっていた白い樹液――ラテックス――が染み出てくるらしく、木の和名は「チューインガムノキ」と言うのだそうだ。


 但し現在のガムの原料は石油系合成樹脂に取って代わられたらしい。


 そんなマニアック過ぎる鈴木の話に、オレと佐藤は「ほへー」とうなずく。鈴木が言うなら間違いなく「サポジラ」は存在するはずだ。


 しかし「ら」か……


 オレは佐藤への更なる追撃として「らむのにくー、あ、ちがった、らむにくー」と答えようとして、ならば、行きがけの駄賃で、「らむの、にくの、すてーき」から始めたい衝動に駆られるが、これは少しやり過ぎか……


 ちょっとヒートアップし過ぎだろう。笑いに情緒、「じょうしょ」がない。品がない。これでは暴走した「笑わせ」だ。

 そこで考えを改めて「らざにあ」と答える。



 少しの沈黙の後、佐藤は「あかいぼうしや」とつぶやくように答えた。

 姑息こそくな佐藤は、先程のアクセント変更作戦に上乗せして、つぶやき作戦も実行したようだ。そこでオレは「あか・いぼ・うし」と、しっかりハッキリ脳内で再生する。

 ん? 赤いぼ牛? なんだその「赤べこ」と「イボイノシシ」の交配種みたいな生きものは?


 いや待て、更なる作戦として、語尾の「や」も単語として入っているのかも知れん。


 つまり「赤いぼ牛屋」だ。いやこれはないだろう。あっても変わらんし、意味が更に不明になる。などと考えていると、鈴木までもが「赤いぼ牛」と言う。


 あれ? オレだけ知らないのか?

「赤いぼ牛」って? 何?

 短角和牛とか松坂牛みたいなブランド牛なの? その名前で美味しいの? と思うが、鈴木のアクセントが変だっことに気付いた。平板な発音で、まるで「赤い帽子」とでも言ったようなアクセントだった。


 そこで、佐藤のほうを振り返って見ると、それは確かに居た。「赤い帽子」だ。


 小供の頃、クリスマスパーティーでかぶったような、赤い三角帽子をかぶったゾンビが居たのだ。


 オレたちの後ろに居て、こっそり様子をうかがっていたようだ。佐藤に発見されて固まっていたようだが、背を向けて逃げ出した。


 佐藤は「待たんかいこらー」と追いかける。が、ゾンビが早い。まるでスプリンターのように疾走する。ジグザグに走っているのに佐藤は追いつけない。

 そう言えば赤は三速倍とか聞いたことがあるが、いつものゾンビの十倍どころか、それ以上に速かった。


 オレと鈴木も慌てて佐藤のあとを追う、佐藤がゾンビに続いて通路の角を曲がる。それに続こうとしたら、前を行く佐藤が派手にすっころんだ。


 止まって見れば、通路の床から高さ二十センチくらいのところにロープが渡してある。黒と黄色の工事現場にあるようなロープだ。ダンジョン初の罠である。


 幸い佐藤に怪我などないようだが、精神的なダメージは大きいようで、地団駄じたんだを踏んで悔しがっている。

「カープごときに後れを取るとは、不覚も不覚や、しかもトラロープ? 絶対許さへんでー」などと叫んでいる。

 カープ? こい

 気が立った佐藤が怖いので、そのうち聞こうと思う。


 その後の、佐藤の精力的なダンジョン探索も力及ばず、赤帽子は発見出来なかった。


 オレたちにはそんなハプニングがあって、いつもよりもマップ作りは進んだのだが、この日、攻略組による上階への階段は見つからず、攻略階層は五階層のままで終わってしまった。

 だが順調ではある。五階のマップのほとんどが埋められた状態だ。

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