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第二十六話 終章

 ようやくにして五十階に着いた。上の五十一階が迷宮であればまだ救いがある。オレは階段へと走り、その勢いのまま階段を駆け上り、五十一階のフロアに出た。

 五十階までとは異なり、ダンジョンの天井が明るい。心なしか天井も高いような気がする。

 辺りを見渡すと敵は居ない。ワンフロアを確認する。


「ワンフロアだ」と後ろに向かって叫び、五十二階への階段まで全力ダッシュで走る。階段もダッシュだ。オレの中で過剰にアドレナリンが放出されているのを自覚する。エネルギーの奔流に時間が遅滞する。

 中学の部活で、雨の日の放課後に陸上部がこんなことをしていたような、いや廊下は走っちゃ駄目だから、階段だけだったか……などと、どうでも良いことが思い浮かぶ。


 そして五十二階、やはりワンフロアで敵は居なかった。休むことなく五十三階の階段へと走り、階段を駆け上がる。底意地の悪いことに階段はフロアの端から端だ。太ももが上がらなくなってきた。気持ちだけが先走って足がついてこない。


 五十三階、五十四階もまたワンフロアで、誰も、何も居なかった。危惧は畏れに変わっていた。


 五十五階への階段に辿り着いたところで振り返ると、佐藤と鈴木が階段を登り切ったところだった。おっさんは見えない。

 オレは大きく息を吐き出し、気合いを入れる直す。汗が額を伝い落ち、目に流れてくる。それを手の平で乱暴にぬぐう。


 五十五階にはネコ車戦車の残骸があった。五十六階には、あの黒いリュックがあった。


 次は五十七階、最上階だ。

 手を使いながら四つん這いで階段を這い進む。太ももが堅く固まり、スタミナが涸渇こかつしてしまったように、まるで身体が言うことを聞かない、ゆっくりとしか進めない自分が本当にもどかしい。


 佐藤と鈴木の荒い呼吸音が迫ってきた。オレが、オレが遅いんだ。

 もうどうしようもないほどのこの身体の重さに、涙があふれ出す。


 ふと両肩に二人の手を感じる。手をつかまれて乱暴に引き起こされる。


 二人も苦しそうにあえいでいる。大きく息を吐き出し、つばを飲み込んで、のどを湿らせようとしつつも、それは成功しない。そんな荒く吹きすさぶ呼吸音の嵐のなか――


 鈴木が「ほら、ちゃんと歩いて」と厳しい口調で言い、

 佐藤が「ほら、いくで」と声を掛けてくる。



 オレは大きく頷き、ずるりと足を進める。膝が崩れそうになるのをバランスで誤魔化す。

 オレたち三人は、互いを支え合いながら階段を、その一段一段を進んでいった。



 五十七階への階段を登りきると、白い光のなか、例の奴がダンジョンボスらしきデカいオークと対峙しているのが見えた。


 白い光? そう、

 なんだか此処ここには、光があふれている。最上階には壁に窓があって、朝日が差し込んでいた。ダンジョンの終わりなんだ。


 自分たちの呼吸音しか聞こえない世界で、対峙する二人へと、三人でよろよろと歩み寄っていった。



 ダンジョンボスはゴブリンじゃあなかった。


 あの大男よりも大きかった。


 両者共に深く傷つき、まさに満身創痍まんしんそうい、その激闘はクライマックスを迎えようとしている。


 そして例の奴、大男の大剣による凄まじい連撃に、オークキングが武器を吹き飛ばされて、たまらず膝を付き、あと一撃。という場面になる。


 ヤバい。


 ヤバい。


 オレにはこの状況を打開するための方策が、何も思い浮かばなかった。

 振り返って今登ってきた階段におっさんを探すが、やっと辿り着いたといったていで、苦しそうに身体を折り曲げて、こっちを見てさえいない。駄目だ。ここぞという時は人に頼ってちゃ駄目なんだ。


 ヤバい。


 ヤバい。


 しかし、オークキングはそこでニヤリと笑い、腰のベルトポーチから金色に輝くポーションのようなものを取り出して飲んだ。

 すると、オークキングの身体が光り、みるみるうちにオークキングの身体の傷が塞がってしまった。身体が一回り大きくなったようにすら見える。


 例の奴、大男は今の攻撃が渾身こんしんの一撃だったのか、苦しそうに肩で息をしている。そしてオークキングの復活を見て、絶望したような驚愕の表情だ。

 そのままオークキングの体当たりに吹き飛ばされて、オレたち三人の前まで滑って来た。


 いきなりの逆転劇だ。本来の敵はオークキングなんだろうが、ハーレム志願の大男も危険だ。

 オレはどっちの味方なんだ、どっちを助けたいんだ。と迷う。そして意を決してオークキングの前に立ち塞がった。

 最悪、リスポーンがあるんだ。三人で逃げるという選択もあるのだろうが、そんなことは思い付きもしなかった。


 拾った武器を肩に担いで、オレに近寄ってくるオークキングの偉容に足が震える。オレは武器すら持っていないのだ。それこそ一撃で殺されてしまうのだろう。


 佐藤と鈴木が大男の介抱に入ったようだ。鈴木が「意識をしっかり持って下さい」と、励ます声が聞こえる。

 そして佐藤が「教会行って金貨一枚払えば、自分の怪我どころが、中村のおっさんみたく、身体のどんな悩みも一発解決や、なんだろうが治るんやから、キバらんかい」と叱咤しったしている。


 その佐藤の言葉に、大男が「マジデスカ?」と言ったのが聞こえた。


 オークキングも最上階のダンジョンボスだから、こっちの言葉が分かるのか、立ち止まって「エ? ナニソレ」という顔だ。


 オークキングはエリクサーっぽいポーションで完全復活したように思っていたが、どうやらそうではないようだ。



 そんな、戸惑う様子のオークキングを見て、佐藤が「ホンマやで、吉田のばーさんは歯ーが生えてきよったでー」と叫び、続いて鈴木も、「中村係長もなんや知らんが治っとったでー」と絶叫だ。鈴木、大声だせるやん。


 そんな二人の言葉を聞いて、オークキングが武器の大剣を投げ捨て、オレたちのほうへ近づいて来た。

 そして大男を担ぎ上げると、エレベーターへと歩いて行った。


 オレたちはそれを、呆気あっけにとられて見ていた。



 と、ここでアナウンスだ。

「ラグジュアリー ギャラクシー ラブリー ラブリー トウキョウ」改め、異世界タワーマンション型ダンジョン「ラブリー セルフ トランセンデス イセカイ」、最上階五十七階層ダンジョンボス、ヨメイスウジツナンデスと冒険者の間に、強固な信頼関係が構築されたことが確認されました。これによって当ダンジョンが完全に攻略されたことになります。


 続いて例の電子音のファンファーレだ。


 いつの間にか、オレたちのかたわらに来ていたおっさんが、「デウス・エクス・マキナ」って実際に体験すると、なかなかに感動するものですね。などと言ってくる。

 イヤイヤ、非現実だからこその、「デウス・エクス・マキナ」なんじゃないかなあ。と言いそうになるが、ここは異世界。もともと機械仕掛けの神の居る世界なのだ。

 おっさんの晴れ晴れとした笑顔に考えを改めた。


 まあね、ハッピーエンドには何か魔法のようなものが必要だよね。



 そして自称ダンジョン神と覚しき声がした。

 SDGsの達成目標の達成率が、あちらの世界よりもはるかに高かった、この世界を楽しんで貰えたならば幸いだ。

 売れ残り食品をフードロスと称して、割引き価格以上の購買意欲をかき立てたり、地球環境に配慮してレジ袋を有料化しましたなんて言う、インチキではない本物のSDGsだからな。


 勇者高橋に確認したところ、元の世界への帰還を希望してきた。

 攻略達成が攻略期限よりも早かったことの追加の褒賞ほうしょうとして、教会での治療効果は元の世界に戻っても失われないようにした。全員だ。


 前にも言った通り、こちらでの記憶はそのまま残る。

 しかし、この世界の万物に対する知的財産権を主張するぞ、つまり知的財産権の中に含まれる著作権だ。パソコンやスマホに保存してある写真や動画などは強制的に消去し、転移前の状態に戻す。初期化しても良いんだがね。


 勇者の治療が終了し次第の転移となる。


 また会える日を楽しみにしているぞ。また、な………




 おっと、言い忘れていたが、財産権も主張するぞ、つまりその中の所有権だ。金貨や指輪、ネックレスやマジックバッグなど、この世界で手に入れたものは全て置いていって貰う。ダンジョン攻略の報酬の一つ目は、「記憶は残るがなかったことになる」だ。つまり、五体満足での帰還だ。公約は大事だからな。ガハハハハー。


 と、わざとのように後から付け加えた。



 相変わらずの悪趣味さだ。

 それにしてもガハガハ笑うヤツの存在を、初めて確認したなあと思っていると、エンディングっぽいメロディが流れ始めた。


 あ、和音だ。ちょっとアップグレードしているし、何だかエンディングっぽい無難なメロディーだ。やれば出来るんじゃねーか、などと思っていると、そのメロディーが途中から徐々に、電子的でない生の、オーケストラの楽器の演奏へと変わっていく。予算が余っていたんだろうか?


 オレはひとつ大きなため息をついてから、佐藤と鈴木の二人に向かってニッコリと笑い、「なんだか連載の打ち切りが決まって、作者がヤケクソ気味にエンディングを粗造そぞうしちゃったような感じもするけど、悪くなかったよね?」と言うと、二人は一連のテンションの上げ下げに疲れているのか、ちょっと戸惑ったような顔をして頷いてくれた。



 勇者高橋さんの治療が終わったのか、エンディングのメロディーの音量が徐々に絞られて、アナウンスが始まった。


 勇者及び冒険者の方々、おめでとうございます。

 ぴぴぴぽーんの音で元の世界への転移が始まり終了します。転移直後の状態へ移動しますので、ご注意下さい。アテンションプリーズ。プリーズ。プリーズ。と、相変わらず巫山戯ふざけた調子だ。


 オレはおっさんに向かって、これまでの礼をする。

「いろいろとありましたが、斎藤さん、貴方が居なかったら、絶対に攻略は無理でした。ギルドマスターの役目、本当にお疲れ様でした」と言うと、おっさんは少し照れたように笑った。



 アナウンスのポーンの合図で瞬転した。そして転移時に居たカードショップへと移動していた。

 行きのような暗転はない。倒れる前と同じように普通に立っている。


 見れば佐藤と鈴木も当然のようにそこに居た。転移前と同じ、オレからちょっと離れた場所だ。


 身体に疲れはまったく残ってはいないのだけれど、頭がなんだか少し重たい。

 手でほほに涙の跡を探すが何もない。

 白昼夢ではないのだろうけれど、なんだか夢のような感じに少しぼんやりとしていると、


 佐藤がオレに向かって、「なんや、昔の新喜劇みたいな話やったなー」と感慨深く、つぶやくように言い、

 鈴木もオレに、「やっと帰ってこれたね!」と言う。


 オレが「佐藤、鈴木、ふたりとも、本当にありがとな」と言うと、


 ふたりはオレに向かって、飛び切りの笑顔をくれた。







 了


 お楽しみ頂けたのなら幸いです。

 本文中の※部分の出典を記載したかったのですが、不明です。申し訳ありません。


改変追記(2025.8.30)

 完成時には完璧だと思えたものですが、改めて読み返してみると、誤字もあれば矛盾もありました。

 そこでストーリーは変更せずに改変作業をしてみました。


 ついでに明記しておくと、

 本小説は私の昔の友人、佐藤くん、鈴木さんの子供が読む「なろう小説」という設定で書いたものです。

 二人は残念ながら若くして(別々の)交通事故で死んでしまったので子供は居ませんが、もしも彼、彼女に子供が居たのなら、という想定です。

 なので佐藤くん、鈴木さんの人物設定は基本的に事実に基づいたものになります。




 (c) 馬場 力

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