表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第5章『夢と魔法のエッグポッド』
26/105

『それにしても』


フラップがハルトたちにむかって切り出した。



『こうしておふたりをまた抱いてみて思いましたよ。


お運びできて本当に嬉しいなって。キャンプ場でお見かけした時から、


自分が運ぶならこのふたりだ! と思いましたもの』



「あ~、あの洞窟で出会った時だね。


でもあの時、けっこう暗かったから、


ぼくたちの顔や姿なんてよく分からなかったでしょ?」



『あ、いいえ、洞窟ではないです。


ほら、キャンプ場のそばに川があったでしょう?


あそこで、おふたりが会話しているところを、こっそり聞いちゃったんです」



えっ、あそこを見られたの?


ハルトは、心臓が急にドキン! と弾けるのを感じた。



『素敵でしたよ、ハルトくん。


スズカさんに上着を貸してあげると言ったときのあなたが。


でもまあ、スズカさん。あなたは、なんと言いますか――


あんまり、事実ではないことをとっさに口にしてしまわないように、


気をつけたほうがよいと思いますけども……』



フラップは直球にならないように、


相手を気づかってやんわりとした優しい言い方をしたようだ。


でもスズカは、まるで急に叱られて悲しむ幼稚園児のように、


両手で目をおおってしまった。



『あの……人間は、思わず嘘を言ってしまう生き物なんですよね?』


フラップは続けた。



『先輩の隊員が言っていたことを思い出しました。


人間の嘘は、つく場面をちゃんと選べないと、


そのうちよくない結果が待っているそうですね。それって、本当なんです?


ぼくはまだ若いから、嘘をつくヒトの気持ちが、よく分からないんです』



相手を追いつめるような意志は感じられなかった。


ただの興味本位でたずねてきたに違いない。



しかしスズカは、自分の体を抱いてふるえていた。


何か思い出したくない恐怖に迫られるかのように。



なんなのだろう、あの辛そうな様子は――。


見るに耐えかねて、ハルトは言った。



「フラップ! スズカちゃん、嫌がってるよ……」


『えっ、えっ? ぼく何か、マズイことを言ってしまいましたか!?』



フラップはあたふたと両手をふった。


どうやら、本当にスズカを追いつめる気はなかったらしい。



「フラップったら、自分だって嘘をつくことはあるだろうに。


まるで嘘とは縁がないみたいなこと言っちゃってさ。竜も嘘ぐらいつくんだろ?」



『いえ、つきません』



「えっ?」



『竜は、絶対に嘘をつきません。というか、つけません』



フラップは、堂々と言い切ってみせた。



「……嘘をつけないって、どういうこと?」



『竜の特性なんです。理屈とか、くわしくは分からないんですけど……』



竜の特性? そんな話は聞いたこともない。



フラップは、ふうう、と息を吐くと、


罪悪感に胸を痛めたような声で、こう言った。



『だからスズカさん、本当にごめんなさい……。


こんなぼくが、キミの嘘にたいして口出しする権利なんてなかったよね。


ぼくは、いけない嘘についてまわる辛くて心細い気持ちすら、


味わった経験がありませんから……』



フラップの真剣な言葉に、スズカはそっと顔を上げた。


スズカには彼の言葉の意味が分かっていた。


竜は嘘をつけない――それはつまり、嘘をついた罪悪感にも、


それから逃れるために償おうとする気持ちにも、縁がないということ。


今までも、きっとこれからも。


それって、うらやましいことなのかな。それとも、かわいそうなことなのかな?



――竜のことは何でも知っていたつもりでも、


本当はまだ何も知らないのかもしれない。



『……おわびと言ってはなんですが、


スズカさんのリクエストに、なんでも一つだけお応えします。


なんでしたら、三回まわってワン! と鳴いてみせますので!』



「えええ?


そんな、いくら犬っぽいからって、ここでぐるぐる回るのはカンベンしてよ」


と、ハルトが言った。



『いいえ! 昔から、竜のいけないところは図々しくて、


偉そうなところだってよく言われるんです。


ぼくみたいなオハコビ竜は、犬っぽいところもお見せしないと――』



変な意地を張るフラップに、ふいにスズカが、もじもじした調子でこう言った。



「……さけび、たい」



『はい?』



「め、いっぱい、たの、しく、さけび、たい。


なん、でも、いいの……やって?」



『やってって? あっ、《オハコビ・弾丸コースター》をご希望ですね!


かしこまりました、高速でかっとばしますよ!


ハルトくんも、ね? それでいいよね?』



「ええっ!? あはは……、


べつにいいけど、そんなそんな絶叫マシンっぽいことして怒られない?」



フラップの立場を気づかいつつ、ハルトは楽しみで口もとをゆがませていた。



『ぜんぜん怒られませんよ。れっきとしたサービスの一つですから。


大丈夫、程度はしっかりわきまえているしね』



程度の問題ではないような気がするが、まあいいか、とハルトは思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ