5(挿絵あり)
「それって、白い竜と書く『白竜』のことですか?」
「あ、いい質問だね、ハルトくん!」
モニカさんは、パチンと手を打って答えた。
「そう。その島には、白竜さまが住んでいらっしゃるの。
今回、オハコビ隊で事前にコンタクトをとったところ、
みんなにね、十年に一度の脱皮の様子を、間近で見せてくださるというの。
もう、とっても貴重な光景なんだよ」
おおおー! 子どもたちから歓声がわき上がった。
「まあ、その儀式まで時間があるから、それまでのあいだ、
みんなにはハクリュウ島を自由に探索してもらいたいなって。
あ、ただ一つ注意。
みんなの他にも、儀式を見物しにギャラリーがいっぱいつめかけると思うの。
儀式の会場では迷子にならないよう、フラップくんたちから離れないでね」
なんてことだ。
スカイランドには、オハコビ竜の他にも違う竜がいたなんて。
しかも、オハコビ竜と空を飛ぶだけでなく、未知なる天空島の探索や、
本や映画などの中でしか見たことのない、
白竜の実物まで見られる楽しみまで用意されているのか。
「というわけで、ツアー一日目は、日中、そのハクリュウ島ですごします。
そのあと、夕方ごろにまたこのターミナルに戻ってきて、
オハコビ・インというホテルに移動します。
ツアー中のみんなの宿泊施設として、
最終日まで気持ちよく泊まってもらえるはずだよ」
やっぱり、宿泊ホテルもちゃんと手配されていた。
ハルトとスズカは、地上に残った子どもたちにとても悪い気がした。
でも、ホテル生活なんてめったにできるものじゃない。
しかも、スカイランドのホテルだ。いったいどんなところなんだろう。
「――それでは、そろそろオハコビ竜と空を飛びましょう!
ふたり一組で、竜たちに運んでもらいます。
わたしに名前をよばれた子は、指定したオハコビ竜のところへ移動してね」
モニカさんは、持っていた平たい端末を操作し、名簿リストを読みはじめた。
「川上ツヨシくん。長谷川タイジロウくん。
むかって一番右にいる、
オレンジエッグをかかえた赤色のフリーダくんのところへ。
ほら彼、手をふってくれてるよ」
よばれた二人の男の子は、フリーダのもとへうれしそうにダッシュした。
「徳島ユウナさん。東山レミさん。
フリーダくんの隣にいる、
ピンクエッグをかかえた橙色のフィーナちゃんのところへ、どうぞ」
二人の女の子が、キャッキャと笑いながらフィーナのところへかけていく。
ハルトとスズカは、いつ自分がよばれるかドキドキしながら待っていた。
しかしよく観察すると、よばれた子たちは、
指定された竜たちとすでに親しそうに言葉を交わしているようだった。
どうやら、地上界でのお宝さがしゲームではじめて出会った竜だけでなく、
同じ班の子ともいっしょになるよう、一組ごとにマッチングされているようだ。
その証拠に、そのあとよばれた子たちも同じような様子だ。
ということは――。
「石田マサハルくん。有北リミさん。あそこにいる、
ピンクエッグをかかえたキャラメル色のフレッチェルちゃんのところへ、どうぞ」
――いや、やっぱりどうだろう。
今よばれた子たちは、おたがいにあまりなじみがないように見える。
ふたりとも、きょとんとしてたがいの顔を見ているのがその証拠だ。
きっと、マッチングに手が加えられたのかもしれない。
その時、にわかに激しい危惧に見舞われたのは、スズカだった。
自分はどうなんだろう。もしも、ハルトくんといっしょじゃなかったら……
そばで心配そうにわたしを見ている彼が、もしもいっしょではなくなったら。
わたしは他の子といっしょにいられる自信がない。
『スズカちゃんって、あんなふうに笑うこともあるんだね』
ハルトのあの一言に、スズカはたしかに複雑な気持ちになっていた。
会って間もない男の子が口にする言葉にしては、
急進的で驚かされるものがあった。
だから、本当に心をゆるしていい相手かどうか、分からなくなってしまった。
でも、これ以上、彼に歩みよろうともしなかったら、
きっと何も進歩しないまま終わりを迎えてしまう――。
「あ、の……!」
スズカは、次の名前がよばれる直前に、手を上げてモニカさんをよび止めた。
「――スズカさん? どうしたの?」
スズカは馬鹿みたいな羞恥心に襲われつつも、
気力をふりしぼり、ふるえ声でこう言った。
「……そ、の。わた、し……ハ、ハルト、くんと、いっしょが、いい」
ええっ!?
ハルトは、まさかのセリフに心臓がはね上がった。
モニカさんは、スズカの赤く染まった顔と、
目を丸くしてスズカを見ているハルトの顔を、交互に見た。
そして、わけを理解したようににこやかな顔をして、
「それなら心配いらないよ、スズカさん」
手にもった端末を見ると、こう点呼した。
「風間ハルトくん、美空スズカさん。
中央に立っている、オレンジエッグをかかえたフラップくんのところへ、どうぞ」
「!」
スズカは、声も出ないままハルトの顔を見た。
心の中にあいた冷たいすき間へ、
黄金にかがやく太陽の光が一筋、さしこんだかのような気分だ。
自然と笑顔がこぼれはじめる。
(なあんだ。スズカちゃん、少しナーバスになってただけなんだ)
ハルトは、スズカが急に明るくなった様子にたいして、そう解釈するのだった。
「ハルトくーん。スズカさあん。早く早く~。
ぼくのところに来てくださいよう!」
フラップが、待ちかねたように手招きをしている。
ふたりはにこっとしてから、フラップのもとへかけだした。
全員のペア分けが終わると、モニカさんは最後に大きな声でこう言った。
「フライト中、気分が悪くなったり、
トイレに行きたくなったら、遠慮なくフライターに伝えてね。
ポッド車内ではいつでも通話できる状態だから。
何か聞きたいことがある場合でも、気軽に質問していいからね。
わたしの案内はここまでです。――それじゃあ、みなさん!
鳥になったような、夢のフライト気分を味わってね!」
*
ツアー参加者たちは、
運んでくれるオハコビ竜の案内に耳をかたむけていた。
フラップはゆっくりとしゃがみこみ、ハルトとスズカと目線の高さを合わせた。
彼が話すには、やはりこのマッチングは、
昨日の段階ですでに決められていたものだったらしい。
「やっぱり、スズカさんは、ハルトくんやぼくといっしょが、安心なんだよね?」
「……うん」
スズカは、顔面が溶けそうなくらい赤くなっていたが、
口はかすかに笑っていた。
ハルトも安堵していた。
キャンプ場ではあんなに他の子を避けていた彼女が、
自分にはどうやら距離をちぢめてくれているのは承知している。
その彼女が、もしも他の子とペアになったらと思うと、
まだ友達らしい関係ではなくとも心配にはなってしまうのだ。
「約束しますよ。おふたりを素晴らしい空の旅にお連れしますからね。
――ところで、ハルトくん。スズカさん。
おふたりは、本物の卵の中に入ったことはありますか?」
「えっ、いや、ないから!
いきなり変なこと聞かないでよ。ねえ、スズカちゃん?」
「……う、うん」
「はは、当然ですよね……。エッグポッドは、まさにその状態を体験できる、
シミュレーションマシンでもあるんですよ。温かさとか、安心感とか――
まるで懐かしくなるような『優しいもの』に抱かれて宙に浮かぶ感覚は、
きっと死ぬまで癖になること間違いなしです」
死ぬまで癖になるだなんて、ちょっと怖い。
「百聞は一見にしかず。とりあえず、ポッドに入ってください。
ふたりとも、そこにならんで立って、じっとしていてね。
今から、スモールチャプチャーを開始しまあす」
フラップはすっと立ち上がると、
手首の端末画面からスライド操作で空中パネルをよびだし、何かを入力した。
すると、彼の胸についた卵をいだく機械から虹色の光が出て、
ハルトとスズカの体をスキャンしていく。
目には見えないくすぐったいものが、全身の肌を風のようにかけめぐる。
そして、目の前が真っ白になっていって――。
スィーーーッ!
一瞬にして、体が巨大な掃除機にでもすいよせられたような感じがした。




