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『――エッグポッドをご利用のお客様に、ご案内いたします』
コンコースにしみるような案内音声が、たんたんと降ってくる。
『――エッグポッドは、
これまでになく安全にお客様を遠くへお連れするため、
わたしたちオハコビ隊が五年の歳月をかけて開発し、
今年の春ついに完成いたしました。
見た目は、全長四十八センチの小さなカプセルキャビンとなっています。
ですが、ご安心ください。
スモールチャプチャー・システムという特殊な技術により、
お客様は体が縮んだ状態で、ポッドにご搭乗いただけます。
ポッドに入られましたら、お客様は床に足のつかない浮遊状態となります。
そのため内部にはシート、安全機具は搭載されておりません。
そのかわり、お客様の体は、
《滞空位置制御システム》によって管理されます。
これにより、飛行中でも遠心力による側壁への激突や、
お客様同士の衝突の心配は、いっさいございません。
また、お客様の体は、外界の環境による悪影響をまったく受けず、
完全に隔離された状態となり――』
だだっ広い離陸用デッキのむこうでは、
吸いこまれるような雲海と青空がターミナル利用客たちを待っている。
フロアの五十メートルほど上には、
もう一つ上の層が広がっていたものの、しっかりと明るかった。
個性ゆたかな亜人の利用客たちは、ひとりまたはふたりずつになって、
駅のバスターミナルのような足場のふちにスペースを開けて立ちならび、
オハコビ竜たちに迎えられていた。
竜たちは腕の端末を操作して、
胸の装置についたレンズから特殊な虹色の光を照射し、
利用客たちを小さくしていた。
ひとりの白ウサギ姿の利用客が、その光をあびて小さく縮みながら、
あとかたもなく姿が消えていくのが見える。
胸の装置にある卵の中へ入ったのだ。
こうして利用客を卵に入れて空へ飛び立つ竜と、
ポートに着陸しようとする竜がひっきりなしにすれ違う。
これが、ターミナルにとって日常的な風景になっていた。
*
「――つまり、ぼくたちがかかえているこのエッグポッドはですね、
最高の安心・安全・快適さ、そして空を飛ぶ楽しさを追求して作られた、
オハコビ隊の科学力の結晶なんです」
フラップからエッグポッドについての説明を受けた参加者たちは、
よく見るタマゴ形のカプセルに、とても興味津々だった。
「おれたちも、その、エッグポッドだっけ? 乗るのははじめてだよな!?」
と、ケントが周囲にいたアカネたちに聞いた。
「そうですね。前はぼくたち、小箱のような乗り物に乗せてもらったんですよね。
それを、オハコビ竜が両手に持って飛ぶっていう」
「あたしさ、あれはあれで面白かったけど、
両手がふさがってわずらわしくないかなーって気になってたんだよね」
トキオとアカネがそう語った。
「アカネさんたちが話してくれたのは、
ついこの間まで使用されていた旧世代キャビンモデルのことです」
フラップが初参加者たちに説明した。
「あれは、今でも使用されているところはあるんです。
でも、この春からみんなほとんど最新モデル――
エッグポッドの運用を開始しました。たくさんのお客様に大好評だからね」
大好評、と聞いただけで、子どもたちの胸はおどり、
近くの子たちとにぎやかに言葉をかわした。
つまり、ちょうどすごい業務改正のあとに来られたということ?
そんなにいい卵カプセルなのかな。
だったら早く入ってみたいよね――。
ここでモニカさんが、思い出したように補足しはじめた。
「そうそう、言い忘れていたのだけれど、
エッグポッドで空を飛ぶあいだ、みなさんの姿勢は『うつぶせ』になります」
「「「うつぶせ!?」」」
参加者全員の目が皿になった。
モニカさんは、予想通りの反応が返ってきて、ご満悦な様子だった。
「竜さんたちを見れば分かるとおり、
ポッドは背中ではなくて、お胸についています。
雲がお腹の下に見えるという感覚は、
みんなにとってかなり不慣れなものだと思うけれど、心配しないでね。
エッグポッドがホルダー機器に入っているかぎり、
いきなり雲の下に落下しちゃうことはないからね」
「みなさんの安全は、ぼくたちとエッグポッドがしっかりと保証しまあす!」
と、フラップも元気よく言った。
うつぶせ。それは、要するに鳥になるということだ。
子どもたちの目がキラキラしはじめる。ここにきてお初ずくしだったが、
ここへきてこんなサプライズが待ち受けようとは。
「すみませーん」
浮かれ気分の子どもたちのなかから、タスクがただ一人、手を上げて質問をした。
子どもたちの声は、水を打ったようにピタリと止む。
「ところでツアーの予定はどうなっているんですか?
せめてこれからどこにむかうのか、教えてほしいんですけど……」
するとフラップが、小石を投げられて驚いたような表情をした。
「あれれ、モニカさん? まだみんなに伝えていなかったんですか?」
「ああ、そうだったね! ごめんなさい。
……えっと、みなさんはこれから、ハクリュウ島というところへ行きます。
自然ゆたかで気持ちいい島だよ」
「ハ、ハクリュウ!?」
意外なワードに、思わずハルトは叫んでしまった。




