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【完結!】ぼくらのオハコビ竜-あなたの翼になりましょう-  作者: しろこ
第4章『セントラル・オハコビ・ターミナル』
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『――エッグポッドをご利用のお客様に、ご案内いたします』



コンコースにしみるような案内音声が、たんたんと降ってくる。



『――エッグポッドは、


これまでになく安全にお客様を遠くへお連れするため、


わたしたちオハコビ隊が五年の歳月をかけて開発し、


今年の春ついに完成いたしました。



見た目は、全長四十八センチの小さなカプセルキャビンとなっています。


ですが、ご安心ください。


スモールチャプチャー・システムという特殊な技術により、


お客様は体が縮んだ状態で、ポッドにご搭乗いただけます。



ポッドに入られましたら、お客様は床に足のつかない浮遊状態となります。


そのため内部にはシート、安全機具は搭載されておりません。


そのかわり、お客様の体は、


《滞空位置制御システム》によって管理されます。


これにより、飛行中でも遠心力による側壁への激突や、


お客様同士の衝突の心配は、いっさいございません。



また、お客様の体は、外界の環境による悪影響をまったく受けず、


完全に隔離された状態となり――』



だだっ広い離陸用デッキのむこうでは、


吸いこまれるような雲海と青空がターミナル利用客たちを待っている。


フロアの五十メートルほど上には、


もう一つ上の層が広がっていたものの、しっかりと明るかった。


個性ゆたかな亜人の利用客たちは、ひとりまたはふたりずつになって、


駅のバスターミナルのような足場のふちにスペースを開けて立ちならび、


オハコビ竜たちに迎えられていた。



竜たちは腕の端末を操作して、


胸の装置についたレンズから特殊な虹色の光を照射し、


利用客たちを小さくしていた。


ひとりの白ウサギ姿の利用客が、その光をあびて小さく縮みながら、


あとかたもなく姿が消えていくのが見える。


胸の装置にある卵の中へ入ったのだ。



こうして利用客を卵に入れて空へ飛び立つ竜と、


ポートに着陸しようとする竜がひっきりなしにすれ違う。


これが、ターミナルにとって日常的な風景になっていた。





「――つまり、ぼくたちがかかえているこのエッグポッドはですね、


最高の安心・安全・快適さ、そして空を飛ぶ楽しさを追求して作られた、


オハコビ隊の科学力の結晶なんです」



フラップからエッグポッドについての説明を受けた参加者たちは、


よく見るタマゴ形のカプセルに、とても興味津々だった。



「おれたちも、その、エッグポッドだっけ? 乗るのははじめてだよな!?」


と、ケントが周囲にいたアカネたちに聞いた。



「そうですね。前はぼくたち、小箱のような乗り物に乗せてもらったんですよね。


それを、オハコビ竜が両手に持って飛ぶっていう」



「あたしさ、あれはあれで面白かったけど、


両手がふさがってわずらわしくないかなーって気になってたんだよね」


トキオとアカネがそう語った。



「アカネさんたちが話してくれたのは、


ついこの間まで使用されていた旧世代キャビンモデルのことです」



フラップが初参加者たちに説明した。



「あれは、今でも使用されているところはあるんです。


でも、この春からみんなほとんど最新モデル――


エッグポッドの運用を開始しました。たくさんのお客様に大好評だからね」



大好評、と聞いただけで、子どもたちの胸はおどり、


近くの子たちとにぎやかに言葉をかわした。



つまり、ちょうどすごい業務改正のあとに来られたということ?


そんなにいい卵カプセルなのかな。


だったら早く入ってみたいよね――。



ここでモニカさんが、思い出したように補足しはじめた。



「そうそう、言い忘れていたのだけれど、


エッグポッドで空を飛ぶあいだ、みなさんの姿勢は『うつぶせ』になります」



「「「うつぶせ!?」」」



参加者全員の目が皿になった。



モニカさんは、予想通りの反応が返ってきて、ご満悦な様子だった。



「竜さんたちを見れば分かるとおり、


ポッドは背中ではなくて、お胸についています。


雲がお腹の下に見えるという感覚は、


みんなにとってかなり不慣れなものだと思うけれど、心配しないでね。


エッグポッドがホルダー機器に入っているかぎり、


いきなり雲の下に落下しちゃうことはないからね」



「みなさんの安全は、ぼくたちとエッグポッドがしっかりと保証しまあす!」


と、フラップも元気よく言った。



うつぶせ。それは、要するに鳥になるということだ。


子どもたちの目がキラキラしはじめる。ここにきてお初ずくしだったが、


ここへきてこんなサプライズが待ち受けようとは。



「すみませーん」



浮かれ気分の子どもたちのなかから、タスクがただ一人、手を上げて質問をした。



子どもたちの声は、水を打ったようにピタリと止む。



「ところでツアーの予定はどうなっているんですか?


せめてこれからどこにむかうのか、教えてほしいんですけど……」



するとフラップが、小石を投げられて驚いたような表情をした。



「あれれ、モニカさん? まだみんなに伝えていなかったんですか?」



「ああ、そうだったね! ごめんなさい。


……えっと、みなさんはこれから、ハクリュウ島というところへ行きます。


自然ゆたかで気持ちいい島だよ」



「ハ、ハクリュウ!?」


意外なワードに、思わずハルトは叫んでしまった。


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