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「――あのう、みなさーん?」
モニカさんが、やや困ったような顔で子どもたちに声をかけていた。
「あれ、みんなわたしのことすっかり忘れてる。まあ、しょうがないよね。
こんなすごい場所に来るの、みんなはじめてなんだし……はあ」
彼女のさみしそうなため息に気がついて、ハルトははっとふりむいた。
「あ、ごめんなさい! つい、夢中になって……」
「いいの、いいの。あなたたちは気にしないで。
わたしの説明なんか聞かなくても、
みんなツアーを楽しむうちに、いろいろなことを理解してくると思うから……」
ツアー初参加者たちは、経験者であるケントたち四人組をかこんで、
あれはなに、あそこはなんだ、としきりに質問していた。
ケントたちは、その返答に忙しそうにしている。
ただひとり、スズカはというと、
みんなから離れたところで外の光景をぼんやりとながめていた。
ハルトは言った。「でも、せめてぼくたちには話してよ。
説明すること、あったんでしょ?
してくれないと、分からないことだってあるはずだしさ」
「……そう?」
モニカさんは、コホン! とせきばらいをすると、
ハルトのために、用意してきた説明をはじめた。
「このターミナルは、たくさんの『天空島』をつなぐ中継の役割をしているの。
つまりスカイランドはね、
空に浮かぶさまざまな島によって構成されているんだよ。
他の島へと移動したいヒトは、見てもらった通り毎日たくさんいる。
そのための空の便を提供しているのが、わたしたちオハコビ隊なの」
「ここがその本拠地だって、フラップが言ってたけど?」
「その通り! ターミナルは、オハコビ隊が所有している空港都市。
スカイランドには全部で五つ存在しているけど、
このセントラル・オハコビ・ターミナルは、
オハコビ隊が運営するすべてのターミナル機能がそろった場所なの」
「なんだか……すごすぎだね、オハコビ隊って」
「ふふふ!
オハコビ隊は、実際にヒトを乗せて空を飛ぶオハコビ竜の『フライター』と、
その竜たちの飛行を遠くから支援する、
その他大勢の『サポーター』の二つに分かれているの。
わたしは、クロワキ主任の補佐官だけど、本業はただのサポーター。
わたしといっしょにいた他の引率者のみんなも、
その正体はオハコビ隊のサポーターなんだよ。
ふだんは、ここの最上層にある『サポートタワー』から、
フライターへの遠隔サポートをしてるの」
一度にたくさんの情報をもらったせいで、
ハルトは頭がパンクしかけたものの、ちょっとは理解できた。
オハコビ竜はフライター。それとたくさんのサポーター……。
「ねえねえ、オハコビ隊ってすごいんですか!?」
「タスクくんとトキオくんが話してくれたんですけど!」
「ここみたいなターミナルを、他に四つも持ってるって本当ですかー!?」
「ねえねえモニカさん、教えてよー!」
いつの間にやら、他の参加者たちがモニカさんのまわりをぐるりとかこんでいた。
どうやら、ケントたちの話をにわかには信じ切れず、
モニカさんに証言をもとめているようだ。
ケントたちも、窓のそばからモニカさんに救いをもとめる目をして立っていた。
「おねがーい、モニカさん。あたしたちだけじゃ、ちょっと大変なのー」
と、アカネがどっと疲れた顔で言った。
「うーん、説明してあげたいのもやまやまなんだけどね。
そろそろ到着が近いから、
くわしいことは竜さんに答えてもらってね」
えええー? 参加者たちの残念がる声が見事な和音になった。
リフターは、垂直に伸びるチューブが合流する地点までくると、
一瞬の停止のあとに、上層へむかってみるみる上昇していった。
八、九、十――次々と天井をつらぬき、リフターの階層表示数が上がっていく。
十一、十二、十三、十四……十五!
『――第十五層・一番ポートです』
リフター内にひびく機械音声。
ドアが開き、モニカさんのあとに続いてみんなは外に出る。
その先に見えたのは、天井が何メートルも遠すぎる広大なコンコース。
その亜人でごった返す通り道の前に、
フラップたち十四頭の竜たちが、横一列になって勢ぞろいしていた。
「みなさん、お待ちしていましたよ!」
フラップの元気のいい歓迎の言葉とともに、
他の十一頭もにこにこしながら腕をふった。
彼らの胸には、機械の中に埋めこむように挿入された、
あの橙色や桃色の卵がだかれていた。




