クムラギ見物1
翌朝、辛うじて憶えていた「フィオラパが早口で言った説明事項」を全てタパタイラに伝えた。タパタイラは話の途中で何度も首を捻り、ううむ、と唸った。
「変ですか?」話し終わり訊いてみるとこう答えた。
「うむ。フィオラパが既に貴殿に伝えたとおりの事。貴殿にしか使えぬ事、既に呪文を宿した状態で人に与えられること、全て異例の事。ケイは一度人にもたらされれば魔道師の師から弟子へ継承されてゆくもの……。やはり貴殿は、今という時に必要とされ、定めの爲に来られたとしか私には思えぬ。ただ、少し分らぬのは、自分以外を移動させられぬという事。その術をどう使うのか……」
それはアオイにも疑問だった。他にどんな元素魔法があるのか知らないが、ただ移動するだけの魔法なんて、あまり役には立たない気がする。
ともあれ「印」について教えてもらった。
「元素魔法は元素の力を借りるものながら、魔力を開放する爲には月の力を借りる。
結ぶ印の種類は二種類。月の位置によって使い分ける。
月の軌道「白道」と、太陽の軌道「黄道」が交わる点が空に二つある。それぞれ龍頭点と龍尾点と呼ばれる。
呪文を唱える時、月が龍頭点を通り過ぎ龍尾点へ向かっているならば、龍尾の印を。龍尾点を通り過ぎ龍頭点へ向かっているならば龍首の印を結ぶ。
龍尾の印は、親指を折り、他の指は立てる。龍首の印はその逆。親指を立て、他を折る」
「今はどちらですか?」
「龍首だが……」
それを聞きアオイは立ちあがった。タパタイラとユタ少年に背を向け、大広間の端を睨み附け、身構え、印を結び、唱えた。
「フル……、」
微動だにしなかった。全く何も起こらなかった。慌ててもう一度唱えた。
「フル……、あれれ?」
狐につままれたような気分だった。昨日確かに妖精に会った。魔力の経路とやらも開いてもらった。あれは夢じゃなかった。印を結んでフルと唱えれば跳ぶはずだった。
ふり返るとタパタイラは驚きもせず微笑んでいた。隣りのユタミツキ少年もにこにこ笑っていた。
「何故でしょう……?」
タパタイラは答えた。
「不思議は何もない。ケイを佩び、印を結び、呪文を唱えたからと言って、すぐに誰でも結果が出るものではない。例えば、強力な焔呪を宿したケイを師から授かった弟子が、その焔呪を使えるかと言えばそうではない。もっとも初歩的な焔呪しか使えぬか、または、それすらもままならぬのが普通。
ただ、アオイ殿の場合は跳躍呪が使える事は約束されておる。既に法力の経路も開かれておる。焦らず試みられよ。一度使うことができれば体内に道ができる。されば自在に使えるようになろう」
「うーん……。そうなんですか……」少しがっかりした。少しではなくかなり。それはつまり言ってしまえば、
何時の事やら分らぬ、ということ。
意気消沈、といった感じのアオイに、ユタ少年がにっこり笑って言った。
「さあ、アオイさま。出かける用意をしましょう。リュウのお父さまのリケミチモリ(リケ・道守)さまがご一緒してくださるそうです。クムラギの町を見物して、大河ラーまで行ってみましょう。きっと気分転換になりますよ」




