四、集会
夜になり、俺たちは指定された公園で待っていた。
「それにしても、腹、減ったのう」
マサがお腹を鳴らしながら、そう言った。
「船は・・もう行ってしもうたが・・」
「フク、今日はもう、仕方がないんじゃけの。諦めぇ」
ソラは寝そべりながら、横目でフクにそう言った。
「そがなこと言うて!直ぐに帰る言うたが!」
「ピーピー喚くな。いつまでもガキじゃのぅ。余計に腹が減るが」
マサは少し、イラついていた。
「ガキじゃありゃせん!腹が減るくらい我慢すりゃええが!」
「なあ、フク・・」
そこで俺が口を開いた。
「なんなら、コテツ」
「お前、トラの話、聞いたんじゃろが」
「聞いたけんど、それが、なんなら!」
「お前の父ちゃんのことじゃろが。詳しい話を聞こうと思わんのか」
「そげなこと言うとらん!」
「ほな、黙って待っとったらええが」
「父ちゃん、心配しとる・・」
「そがなこと言うたって、仕方がなかろう?」
「島から出たらあかん言よった!」
「お前な・・」
ソラがため息交じりに呟いた。
「なんなら・・」
「ずっと父ちゃんの言うことを聞いて、生きて行くつもりなんか」
「そ・・そがなこと・・」
「あのな、いつかは一匹で生きて行かにゃあかんが。そりゃ仲間もおるけんど、ずっと一緒じゃねぇじゃろ?」
「それが・・なんなら・・」
「今日、俺たちと船に乗ったんは、お前が大人になる第一歩じゃが。正直、俺たちのことが気になったんじゃろ?」
「・・・」
「だからな、もうガキみたいに喚くんはやめぇ」
「そがなこと・・言うたって・・」
「まあ、ええが。どっちにしたって、これから聞く話は、お前にとって大事なことじゃが」
「・・明日になったら帰るけんの!」
「ああ。そうすりゃええが」
「・・・」
「あ・・来たぞ」
寝そべっていたソラが、立ち上がってそう言った。
公園のあちこちから、猫の目が光るのを俺も見た。
何匹おるんじゃ・・結構、多いな。
「ほんまに待ちょったんじゃの」
トラが俺たちの前に来て、そう言った。
「当たり前じゃ!」
さっきまで「船が行ってしもうた」と落ち込んでいたフクが、大声でそう言った。
こいつの頭の中は、どうなっとるんじゃ・・
俺たち三匹は、半ば呆れ顔でフクを見た。
そして次から次へと、見知らぬ猫が姿を現した。
「俺たちは島から来たもんじゃ」
マサがそう言った。
「こいつらには、予め話をしとるけぇの」
トラがそう答えた。
「じゃけぇ、自己紹介は省くけぇの」
「ほいで、昼間の話じゃが、俺たちは一旦島へ帰ってタロウに話をするいうことで、どがいな」
マサがそう続けた。
「ほぅ・・そうしてくれるんか」
「ほうじゃが」
「まあ、それが一番ええんじゃろが、戻って来る保証はあるんけぇ?」
「保証・・?俺らが逃げる言うんか」
「まあ、そうは言わんけど、なんせ時間がねぇけの」
「どういうことなら」
「ここは・・息子のフクを置いて行ってもらおうかの」
「えっ!フクを?」
「もし・・お前らが戻って来ん場合、フクを山へ連れていくけぇ」
「そがなことは、させんぞ」
「フクならタロウと血が繋がっとるけぇの。山神さんを鎮めることができるかも知れんけぇの」
フクは、いつの間にか後ずさりをしていた。
「いや、そがなこと俺は認めんぞ」
今度はソラがそう言った。
「なんでな。フクはタロウの息子じゃろう?」
「こいつは、まだ子供じゃが。山神さんが何者か知らんけんど、こんなガキに鎮められるはずがありゃせんが」
「少なくとも、ここにおるもんより、フクが一番可能性があるけぇの」
「いや・・それは認めんぞ」
「フク・・お前はどう思うとんじゃ?」
トラはフクに訊いた。
「お・・俺は・・」
「どうすんなら」
「・・・」
「ちゃんと答えてみんか。お前、怖いんか」
「うう・・ううう・・」
そこでフクは泣き出した。
「フク・・とか言うたの・・」
そこに年老いたオス猫が、フクに声をかけた。
その猫は、黒と白の毛で覆われ、首輪も付けていた。
「な・・なんなら・・」
「まだ子供じゃけぇ、怖かろう」
「そっ・・そがなこと・・」
「じゃけどの・・どうしても山神さんを鎮めんと・・我々猫族のみならず・・この町に天災が降りかかるんじゃ・・」
「・・・」
「ちょっと、待ってくれんか」
俺はそう言った。
「フクを残す言うんじゃったら、俺も一緒に残る」
「ほほぅ・・それはええ考えじゃのう・・」
「それなら、どないな、フク」
俺はフクを見た。
「そ・・それは・・」
「それじゃったら、俺も残る」
ソラがそう言った。
「使いは一匹でええが、な?マサ」
マサはソラにそう言われ、すぐには言葉が出なかった。
「トラ、これでどないな」
俺はトラにそう訊いた。
「まあ、ええんじゃねぇか。のう?キハチさん」
「そうじゃの・・。子供だけではかわいそうじゃけぇの・・」
この老人はキハチという名前か・・
他の猫たちは一言も発することがなく、俺たちのやり取りを凝視していた。
そして、俺とソラとフクが残ることになった。
「ところで・・お前たち・・腹が減っとりゃせんか・・」
キハチが俺たちにそう言った。
「減っとるんじゃが。食いもんがあるんか?」
マサがすぐにそう言った。
「わしの家に来い。餌はたんまりとあるけぇ・・」
「ほんまか。キハチは飼い猫なんか」
「ああ・・そうじゃ・・」
「ほなら、食わしてもらうけんど、コテツ、ソラ、フク、それでええか」
俺たちは「うん」と頷いた。
実際、俺もすごく腹が減っていた。
「着いて来りゃええ・・」
キハチはゆっくりと歩き出した。
まるでそれが合図かのように、他の猫たちも散り散りになった。
やがて数分ほど歩いた先に、とても大きな屋敷が見えた。
キハチは、ここに住んどるんか。
「入られよ・・」
キハチは門を潜り抜け、俺たちも後に続いた。
やがて玄関の「ペットドア」から家の中へ入った。
「おお~・・キハチ、どこへ行っとったんかの。ありゃ・・また友達を連れてきたんじゃのぅ・・」
奥の部屋から出てきたのは、とても優しそうな男性の老人だった。
「ニャア~・・」
キハチは甘えて鳴いて見せた。
そして餌の催促をしていた。
「おお~~・・よしよし、友達の分もやるけぇの。待っちょってよ」
老人は物入れから、皿とキャットフードを取り出し、俺たちにも餌をくれた。
「ほら・・食うたらええ・・」
キハチは俺たちにそう言った。
真っ先に飛びついたのがマサだった。
マサは、そうとう腹が減っていたのか、息をするのも忘れているかのように、ガツついた。
俺とソラとフクも、横に並んで食べた。
そして老人は、水も与えてくれた。
「おやおや・・この子はまだ子猫じゃなぁ・・」
老人はフクを見てそう言い、頭を撫でていた。
「ニャア~・・」
フクは老人に鳴いて見せた。
「おお・・そうかそうか・・よしよし・・」
老人は更にフクを撫でた。
やっぱりフクは・・どうやったら人間が喜ぶかを知っとる。
俺には真似やこ、できん。
ソラとマサも呆れていた。
やがて食事も終え、俺たちはキハチの部屋へ案内された。
す・・すごいな・・
猫の部屋があるんか・・
見たところ、老人以外は誰も住んでいないようだった。
トイレも完備されとる・・
すごいな・・
「さて・・長旅じゃったの。ゆっくりと寝るがええ・・」
キハチはそう言い、小さなベッドへ上がった。
「キハチさん・・どうもありがとう」
俺はキハチに礼を言った。
マサもソラも礼を言った。
フクを見ると、部屋を見回していた。
俺も初めて見る物ばかりだ。
フクも珍しいと思ってるんだろう。
「ところで・・」
キハチが何か言いたげに、口を開いた。
「わしは・・タロウの仲間じゃったんじゃ・・」
「え・・父ちゃんの!」
フクも驚いていたが、俺も驚いた。
しかも、キハチの訳あり風な口調が、俺はとても気になった。




