二十二、消息
「あんた、コテツって言う名前らしいね」
慎平の母親が、俺を見てそう言った。
「私にはわからないんだけどね、慎平がさっきそう言って出て行ったのよ」
母親は慎平の部屋を掃除し始めた。
「あの子さ~、変な物作るのが好きでね。小学生の時かな~、猫と話したいって言って、色々と道具を取り揃えてね、それで作っちゃったのよ」
母親はブツブツ呟きながら、片づけをしていた。
「これこれ、これよ」
母親は慎平が作った機械を手にして、そう言った。
「一見、電話みたいなのよ。携帯のね。ここを押せばいいのかしら・・」
そしてスイッチを押した。
「ほらほら、コテツ、なにか話してみて」
俺は話していいかどうか迷った。
「ほら~、鳴いてみてよ」
「こんにちは・・」
「えっ!あらヤダ。今、挨拶した?」
「うん・・」
「えええ~~、ほんと?あんた、名前は?」
「コテツ」
「ぎゃあ~~~!ほんとにコテツって言ったわ!」
「そがにびっくりせんでも・・」
「ぎえ~~~!」
母親は掃除機を放り出して驚いていた。
「ヤダ・・ほんとだったのね・・。慎平ったら、すごいものを発明したのね・・」
「頭がええんじゃろ」
「うん、そうなのよ。小さい頃から勉強ができる子だったのよ」
「ええ息子じゃが」
「まあね・・。いや・・猫に褒められるとは思わなかったわ・・」
「それでの・・俺、しばらくここで世話になってもええんかいの・・」
「いいに決まってるじゃなーーい!猫と話せるなんて、びっくり~~!」
なんか・・騒がしい親じゃの・・
「それにしてもさ・・コテツ。その牙、どうしたの?」
「ああ・・これは生まれつきじゃ・・」
「へぇ~そうなんだ」
「怖がらんでもええけに・・」
「怖がったりしないわよ~。いやあ~それにしても切れ味バツグンって感じよね」
「ああ・・まあ・・」
「あっ、外に出てもいいわよ」
「うん・・後で行くけに」
「んじゃ、ここのドアも開けとくし、玄関も開けておくからね」
「ありがとう」
「きゃ~~お礼なんか言っちゃって、かわいいわね~」
「・・・」
「あれ・・?引いてる・・?」
「いや・・別に・・」
「さてと~~掃除、掃除ぃ~~」
ほんま・・騒がしい人間じゃ・・
俺は邪魔にならないよう、窓枠へ上がった。
ソラも、ここに連れて来ようかの・・
あいつ・・心配しとるじゃろうの・・
「コテツ~~」
「なんなら」
「トイレは下に降りてね」
「ああ、わかった」
「トレーを用意してあるからね」
「うん」
騒がしいけんど・・悪い人間ではなさそうじゃな・・
そして夕方になり、慎平が帰ってきた。
「コテツ~~!ただいまー」
自室へ入ってきた慎平は、俺を抱き上げ喜んでいた。
「えっと、マシン、マシン」
慎平は機械を手に取った。
「あっ!充電が切れてる!ああ~~、お母さんだな~」
慎平は文句を言いながら、充電していた。
「まったく~、使ったら充電しといてくれないと、困るんだよね。せっかくコテツと話せると思ってたのにさ~」
「まあ、ええが」
「ん?なんて言ったの?」
「ええ母親じゃが」
「わかんないよ~」
「コテツ~」
そう言って母親が入ってきた。
「お母さん!使ったら充電しといてくれないと~」
「ああ、ごめん、ごめん」
「コテツと話したんだね」
「そうなのよ~。もうかわいくって~~」
「だろ?僕の言った通りだったろ」
「ほんと、びっくりしちゃったわ」
「でもさ、コテツは色々と事情を抱えてて、あまり根掘り葉掘り訊かないでね」
「え・・事情ってなによ」
「それは僕とコテツの秘密」
「なによ~、お母さんにも話してよ」
「ダーメ。お母さん、すぐ人に話すんだから」
「そんなことしないって~」
母親はそう言って、無理やり慎平から俺を奪った。
「ほーら、かわいいんだから~よしよし」
ううっ・・もう下してくれんかの・・窮屈じゃ・・
「お母さん、もういいから出て行ってくれないかなあ」
「なによ~」
「僕、今から勉強するし」
「ああ・・そっか、わかった」
そして俺はやっと解放された。
「コテツ~またね~」
母親は手を振って部屋を出て行った。
ふぅ~~・・飼い猫いうんは、苦労しとるんじゃの・・
やっぱり俺には無理じゃ・・
「よしっ、充電完了~~」
慎平は早速スイッチを入れた。
「うるさい親だろ」
「そがなことはねぇが」
「そうかな~」
「ええ母親じゃが」
「まあね~。でもコテツの事情は訊かれても言っちゃダメだよ」
「うん・・」
「お喋りなんだ~、お母さん」
「そうか・・」
「この間なんかね、コテツの前に連れてきた猫がいたんだけど、とても弱っていたから連れて来たんだけどさ~」
「へぇ~」
「それがさ、見たこともないようなすごく大きい猫で、首をケガしてたから手当をしてあげたんだけど、もうお母さんは「動物園から逃げて来たのよ~!」と大騒ぎで」
「ほうか・・」
「それで、このマシンで話しかけたんだけど、よくわからなくてね。故障もしてたし。すぐにどっか行っちゃったよ」
「・・・」
「後で調べてみたんだけど、どうやらサバンナキャットっていう品種だったんだよ」
「え・・おい、慎平」
「なに?」
「その猫・・首にケガをしとった言うたな・・」
「そうだよ」
「サバンナキャットて・・う・・嘘じゃろ・・」
「え・・どうしたの?」
いや・・嘘じゃ・・
俺はサムを殺したんじゃ・・
そして川に流したんじゃ・・生きとるはずがねぇが・・
「その猫・・どこで見つけたんじゃ・・」
「河川敷の下流だよ」
「えっ・・」
「僕が走っていたら、川べりで倒れてたんだよ」
「ま・・まさかっ・・」
「え・・なに?知ってる猫なの?」
「俺・・そいつと戦って・・殺したんじゃ・・」
「えええ~~!」
「それで・・川へ流したんじゃ・・」
「それってマジ?」
「ああ・・」
「確かに・・瀕死の状態だったけど、生きてたよ」
「そうじゃったんか・・死んどらんかったんか・・よかった・・」
「その猫と敵同士だったの?」
「いや・・敵とかじゃねぇんじゃ。俺の牙を恐れてサムが襲うて来たんじゃ・・」
「その猫、サムって言うんだね」
「ああ・・」
俺は心底ホッとした。
生きとったんじゃな・・よかった・・よかった・・
「サムはどこへ行ったんか、知らんのか」
「知らないんだあ。いきなり出て行ったからね」
「そうか・・」
「もしかして探すつもり?」
「サムは、山神の呪いを解く方法を知っとるんじゃ・・」
「えっっ!そうなの!」
「サムに訊けば、山神は俺から出て行くかも知れんのじゃ」
「それは探さないとね!僕も協力するよ!」
「うん、頼む・・」
それから俺と慎平は、時間の許す限りサムを探して歩いた。
サムのことじゃ・・きっと縄張りに戻っとるかも知れん・・
俺はそのことを慎平に告げ、縄張りの場所まで行ってみた。
その際、慎平は俺をずっと抱いていた。
けれどもサムは、どこにもいなかった。
途中、ジロウに出くわしたが、ジロウは軽蔑の眼差しで俺を睨んでいた。
「あの猫さ、なんでコテツを睨んでるの?」
「俺が呪われた猫じゃ言うて、汚らわしい言うとった」
「そうなんだ・・酷いよね」
「それと、慎平に抱かれとるのを見て、飼い猫になったと思うとんじゃろな」
「飼い猫ってダメなの?」
「どうやら、ここらの猫は、飼い猫をバカにしとるようなんじゃ」
「そんなの差別だよね」
「まあ・・な・・」
俺は飼い猫をバカにしてないが、やっぱり飼い猫になるのは違うと思っていた。
だから少なからず、ジロウの気持ちは理解していた。
「それにしても、サム、いないよね」
「そうじゃな・・」
「あんな大きい猫、いたらすぐに見つかるはずだもんね」
「どこか、よそへ行ったんかも知れんの」
俺は川の向こうにソラがいると思うと、行きたい衝動に駆られたが、やはり躊躇せざるを得なかった。
一旦は、連れて来ようと考えたが、危険が伴うことに変わりはない。
「コテツってさ、一匹で島を出たの?」
「え・・」
「友達とかいないの?」
「それは・・」
俺は一連のことを慎平に話はしたが、ソラのことは伏せていた。
「フクって子のことは聞いたけど、他に友達いないの?」
「うん・・俺一匹で来た・・」
「そうなんだあ」
慎平は、いくら探してもサムが見つからないことで「帰ろうか」と言った。
俺も同意した。
やがて帰宅し、俺たちは慎平の自室へ入った。
「そうだ!コテツ、ルールを決めておこうよ」
「ルール?」
「このマシンが壊れた時のことを考えて、いざという時のルールを決めておくんだよ」
「どういうことなら」
「そうだな~、例えば「はい」と「いいえ」とか」
「へ・・?」
「僕が話すことに「はい」なら右脚を差し出して、「いいえ」なら左脚って具合に」
「なるほど・・それは便利かも知れんの」
「じゃ、練習ね」
「あ・・うん・・」
「きみの名前はコテツですか」
そして俺は、右脚を慎平の手に差し出した。
「おお~~そうそう。んじゃ~、コテツはメス猫だね」
俺は左脚を差し出した。
「そうそう~~!やっぱりコテツは頭がいいね」
「そうかの・・」
「慎平~~!お友達が来てるわよ~~」
階段の下から、母親の呼ぶ声がした。
「わかった~~!今、行く~~」
慎平が大きな声で返事をした。
「コテツ、ちょっと行ってくるね」
「うん」
「よしっ、この間に充電っと」
そう言って慎平は機械を充電し、部屋を出て行った。
俺はつくづく、慎平はいい人間だと思った。
慎平ならきっと、サムを探し出してくれるに違いないとも思っていた。




