表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
島ねこコテツと山神の呪い  作者: たらふく
PR
20/35

二十、別れ



俺たちは河川敷を離れることに決め、シンバに別れを告げに行くことにした。

家に到着すると、飼い主が表に出ていた。


「あら~、クロちゃんとトラちゃん、遊びに来てくれたのね。シンバは中にいるから入っていいわよ~」


飼い主の女性がそう言い、俺たちはペットドアから中へ入った。

ここの飼い主夫婦は、俺たちを「クロ」と「トラ」と呼んでいた。


「あっ、コテツくん、ソラくん!」


早速シンバは、嬉しそうに出迎えてくれた。


「入って~入って~」


シンバは自室へ案内してくれた。


「きみたちから来てくれるなんて、珍しいね」

「シンバ・・今日は話があって来たんじゃ」


ソラがそう言った。


「話ってなに?」

「実は・・河川敷を離れようと思うとるんじゃが」

「えっ!なぜ?」

「まあ・・色々とあっての・・」

「なんだよ~色々って」

「色々は、色々じゃ」

「あっ、僕が飼い猫だと思って、バカにしてるんだね」

「バカにやこ、しとらんが」


ソラは俺に気を使って、サムを殺したことは話さないようにしていた。


「なに?河川敷は住みにくいの?」

「まあ・・そうじゃな・・」

「コテツくんも同じなの?」

「え・・うん、まあ・・」

「なんだよ~ソラくんもコテツくんも、なんか隠してるよね」

「そがなことは、ねぇけに」


ソラがそう言った。


「だったらさ~ここに住もうよ~」

「またそれ、言うんか」

「ここ、住み心地、チョ~いいよ」

「それはわかっとるんじゃ。でも俺たちは飼い猫にやこ、なりとうねぇって、なんべん言うたらわかるんなら」

「そんなこと言わないでさ~」

「シンバ、俺たちはお前に別れを言いに来たんじゃ」

「嫌だなぁ、その言葉」

「お前や飼い主には世話になったけに、挨拶くらいはせんとの」

「コテツくん・・ずっと黙ってるけど、どうかしたの?」

「え・・いや・・」


俺はソラとシンバの会話を、聞くともなく聞いていた。

確かにシンバと別れるのは淋しい・・

けれども俺はそのことより、自分が呪われた猫になってしまうことの恐怖が、頭から離れないでいた。

そうなれば、俺はまさしく、化け猫になってしまうのだ・・と。


「コテツは淋しいんじゃの。のう、コテツ」

「え・・ああ、うん」

「シンバ、元気で暮らせよ」

「ソラくん・・そんな悲しいこと言わないでよ」

「ほな、なんて言うんなら」

「また会おうね、とかさ~」

「そうじゃの。また会おうな」

「それで、どこへ行くつもりなの?」

「まだ決めとらんけに」

「そうなんだ・・」

「ほな、そういうことじゃけに。コテツ、行くぞ」

「うん・・」

「コテツくん・・元気でね」

「シンバも元気での・・」


そして俺たちは家を後にした。

シンバは表に出て、ずっと俺たちを見送っていた。

別れ・・言うもんは、辛いもんじゃのう・・

フク・・どないしとるんかいの・・


「コテツ・・元気出せの」

「うん・・」

「お前、サムのこと、まだ気にしとんか」

「いや・・まあ、それもあるんじゃが・・」

「なんなら」

「俺・・いつか山神になってしまうんじゃねぇんかと・・」

「え・・」

「俺・・サムと戦うた時・・自分の意識があったんじゃ・・」

「え・・どういうことなら」

「これまでは、俺が山神になっとった時は、俺の意識はなかった。じゃが・・この間はあったんじゃ・・」

「・・・」

「それでも身体は山神に操られとったんじゃが・・俺は山神がサムを殺すところを全部見とったんじゃ・・」

「ほう・・か・・」

「あ・・それでの・・、サムは死ぬ間際に、俺の後ろで影が見えた言よった・・」

「ほ・・ほんまか・・」

「それで、呪いを解く方法も知っとる・・言よったんじゃ・・」

「えっ!それで!?聞いたんか!」

「いや・・言う前に死んだんじゃ・・」

「そっ・・そがなっ・・!」


ソラはその話を聞いて、顔を歪めて悔しがっていた。


「なんちゅうことなら・・知っとったんか・・サム・・」

「そんなサムを、俺は殺してしもうたんじゃ・・」

「違う!お前じゃねぇけに!殺したんは山神じゃ!」

「・・・」

「サムが知っとるいうことは、他の猫も知っとる可能性があるんじゃねぇんか」

「そ・・そうかの・・」

「あいつらの中の誰かが、知っとる可能性もあるじゃろ・・」

「え・・また向こう側へ行く言うんか」

「いや・・それは危険じゃけに。どがにしたらええんかいの・・」

「俺・・行ってみようかの・・」

「ダメじゃ!絶対に行ったらいけん!」

「ソラ・・」

「今度行ってみぃ、確実に襲ってくるぞ。しかも集団で。そがなことになったら、また山神があいつらを殺すことになるんぞ」

「・・・」

「俺が行っても・・襲うてくるじゃろし・・」

「ソラ!一匹でやこ、行かせんぞ!」

「ああ、わかっとる。俺じゃって、命は惜しいけにの」



そしてその日の夜・・


俺たちは夜が明けたら、ここを離れることになっていた。

隣でソラは寝とる・・

俺は何としてでも、呪いを解く方法を訊き出したかった。

そのためには、向こう側へ行かんといけん・・


こがな危険なことやこ、誰にも頼めんが・・

じゃが・・俺が行ったところで、あついらは問答無用で襲うてくる・・

襲われる前に・・なんとか訊き出せたらええんじゃが・・


俺は一か八か、行ってみることにした。

襲うて来そうになったら、その時は逃げればええんじゃし・・


俺はソラに気づかれないよう、そっとその場を離れた。

そして橋まで全速力で走った。

やがてやつらの縄張りに到着した。


俺は警戒しながら一歩ずつ歩き、周りを確かめてみた。


「あっ・・お前は・・」


そう言ったのはジロウだった。


「ジロウ・・」

「お前・・サムを殺しておきながら・・また来たのか」

「ジロウ・・話があるんじゃ・・」

「今度こそ、ここを奪いに来たんだな。やっぱりお前らの目的はそうだったんだな」

「違うけに!奪いに来たんじゃねぇんじゃ」

「じゃあ、なにしに来た」

「聞いてくれ。サムの仲間の中で、猫に憑りついた呪いを解く方法を知っとるもんはおらんか・・」

「はあ?なんだよ、それ」

「実は俺・・山神いう百年前に死んだ猫に憑りつかれとんじゃ・・」

「言ってる意味がわからないんだけど」

「俺の牙と爪、これ猫のもんじゃなかろう」

「うん、それはそうだけど」

「サムもそれを恐れて、俺を殺そうとしたんじゃろ」

「まあね」

「じゃが・・サムは俺に憑りついとる山神を見たんじゃ。せぇで、その呪いを解く方法を知っとる言よったんじゃ」

「そうなんだ・・」

「での・・サムの他に知っとるもんがおらんか思うて、来たんじゃ」

「さあ・・どうなんだろうね。僕は知らないよ」

「ほうか・・。お前がみんなに訊いてくれんか・・」

「やだね。っていうか・・ここにいた猫たちの殆どが、別の場所へ移動したよ」

「え・・」

「お前のせいだよ」

「なに言よんなら!お前が俺たちを騙してここへ連れてきたんじゃが!俺は戦いやこ、しとうない言うたが!」

「きみ、島の生まれだっけ」

「そうじゃ」

「やっぱり田舎者は、考えが甘いよね」

「なに言よんなら」

「縄張りは、奪うか奪われるかなんだよ。それが僕たち野良の掟なんだよ。よそ者が来たら、排除するのが当然の掟なんだよ!」


島にも縄張りがあるが・・

田舎もんとか、都会とか関係ねぇんじゃ・・

それくらい俺じゃって知っとるが・・

でも島の猫は、騙したりやこ、せん・・

縄張り争いは、あくまでも正面から堂々とするんじゃが・・


それをここらの猫たちは・・相手を騙してまで排除するんじゃな・・

俺には・・ついていけん・・


「お前・・サムの死体をどうしたんだよ」

「え・・それは・・」

「あの後、戻ったらなかったぞ」

「川に流した・・」

「なんだとっ!」

「そうするしかなかったんじゃ・・」

「なんて酷いことを!せめて土をかけてやるとか、できなかったのか!」

「そがなこと言うけんど、お前らじゃって、ソラを川に放り投げたが!」

「あいつが抵抗したんでな」

「ソラは生きとったんじゃ!それを川にやこ、放り投げるて、なんなら!」

「きみがそのことを知ってるってことは、ソラは生きてたんだね」

「そうじゃ!あいつは死にそうになったが、必死で陸へ上がったんじゃ!」

「ふーん、それならよかったんじゃない」

「お前らこそ、残虐で酷い猫じゃ!」

「何とでも言うがいいさ」

「お前らやこ・・猫の風上にも置けんわ!」

「あはは、よくそんなことが言えるよね。どの面下げてって感じなんだけど」

「なにをっ!」

「サムをあんな残酷に殺しておいてさ」

「・・・」

「山神とか言ってるけど、結局、お前が殺したことに変わりはないんだよ」

「・・・」

「お前は呪われた猫だよ。汚らわしい」


俺はそう言われ、黙ったままジロウに背を向けた。


なんで俺なんじゃ・・山神・・

俺はお前と血が繋がっとるかも知れん・・

じゃけど・・もう百年も前のことじゃろ・・

お前はフクを殺さん限り・・消えてくれんのか・・


「もう二度とここへは来るな!お前は猫じゃないからな!妖怪だ!」


俺がゆっくりと歩いていると、ジロウが後ろでそう叫んだ。

妖怪・・

確かにそうじゃな・・


俺はこのままソラのもとへは戻らないことにした。

やっぱり俺といると・・いつかはソラが死ぬ気がする・・

それだけは、絶対に避けんといけん・・


俺の脚は暗闇の中を、次の根城を探すように行く当てもないまま歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ