第五十五話 またまた誘拐
「……。」
「……。」
「いい加減機嫌直してくれないか?」
「直せるか糞野郎。」
苦笑いするレイラさんの横では、不貞腐れた表情のアクアさんが座っていた。
「元カレの可愛い悪戯じゃないか。笑って許してくれよ。」
「その割にはお前、本気でルイの事殺そうとしてたよな?」
「彼が結構強くてね。本気を出したんだよ。」
淡々と続く会話の中、元カレ!?とレイラさんの発言に驚いていた。だって、今のアクアさんの性別は女性、そのアクアさんと付き合っていたという事は、レイラさんは男!?
アクアさんの時といい、性別が分からない人が多すぎると思います。ファンタジーの世界で何が厄介かっていうと、性別と髪型が一致しないことが多いんですよね。
よくゲームをやる時なんかでも、男性なのにロングヘアに設定できたり、逆に女性なのにモヒカンにできたりとか、最初はこれって致命的なバグか何かじゃないのかな?と不思議に思った時期もありました。
「ところで、この可愛らしい子は紹介してくれないのか?」
「誰がお前に紹介しなくちゃいけないんだよ!?」
「アクア。」
「っっっ!」
珍しく言い負けて怒りの表情を見せるアクアさんに、私は少し驚いていた。あのアクアさんをこうも軽くあしらえる人なんているんですね。
「名前を聞いてもいいかな?」
アクアさんが何もしゃべらないと判断したのか、私に近づき名前を問いかけてきた。名前くらいなら言っても平気だろうと私は素直に名乗った。
「躑躅です。」
「ツツジか、変わった名前だね。」
名乗った途端、レイラさんは嬉しそうな笑顔を見せた。何と無くこのリアクションには覚えがあった。あれだ、孫をかわいがる老人の反応と何処となく似てるんだ。なんて言うか微笑み方がそっくり。
「森で取れた樹液から作ったキャンディをあげよう。」
そう言ってアメを手渡してくるあたり、私の予想は当たっているのだろう。貰ったキャンディを口に含みながらそう思った。
あっ美味しい。
アメを貰って、私は上機嫌になった。そんな笑顔の私とは反対に、アクアさんは不貞腐れた状態のままだった。
「まさか、こんな茶番を演じる為だけに、俺たちを誘拐した何て戯言、言うつもりないよな?」
ギロリとレイラさんを睨みつけてアクアさんは低くつぶやいた。それに答えるように、レイラさんはニコリとほほ笑んだ。そして、私を見てから返答した。
「確かにツツジは、目的があって連れてきたけど、アクアの事に関しては俺の気紛れだ。」
嬉しそうに笑いながら答えると、アクアさんが怒りの表情を通りこして無表情に変わった。冷たくレイラさんを見据えると、アクアさんは低い声でボソリと呟いた。
「今すぐに、沈めてやろうか?」
自分に向けられたわけでは無いのに、思わずゾクリとした。若干、恐怖で涙が滲んできた。
レイラさんはそんな私の様子に気が付くと、私を抱き上げて何処かの部屋に連れて行った。アクアさんは無表情のままだったのが気になったけど。
「悪いね。痴話げんかに巻き込んで。」
「いえ、大丈夫です。本当にアクアさんと交際してたんですか?」
私が率直に問いかけると、レイラさんは苦笑いになった。ポリポリと頭を掻くと複雑そうに語り始めた。
「付き合ってたというよりは俺の一方通行に近かったかな?アクアは女扱いされるのが嫌いでね。俺が女扱いすると何時もあんな感じに怒るんだよね。」
ため息をつきながら語った言葉に私は納得していた。そりゃあ、アクアさん前世は男性ですからね。女扱い云々の前に、恋愛に関しては色々と複雑だと思いますよ。精神と肉体が一致していないんですからね。
「さて、この部屋にエルフの王様がいるから、話を聞いて今回の作戦に参加してほしいんだ。」
「作戦?」
突然の状況に私は戸惑った。誘拐された後に、作戦に参加してとはいったい?レイラさんを見てもドアを開けるようにと、促していた。私は渋々ドアを開けた。木でできたドアを開けると、目の前には翠の長い髪に、薄い黄緑色の瞳、長い髪は所々三つ編みになって纏められていた。王と聞いていたのに想像とかけ離れた容姿に私はさらに戸惑った。
「あの、失礼ですけど、本当に男性の方ですか?」
本人を前に直接問いかけるほど、目の前のエルフの王様は美人さんでした。




