第五十一話 救出
「せーの!」
トルテが戦っている間にアクアは、部屋のドアの前にたどり着いていた。そして、何とかドアを破壊できないかとタックルをかましていた。
「おわっ!?」
恐らくトルテが敵を倒したのだろう。扉からは魔法が消えているのが分かった。そして部屋の奥に進んでいくと、眠っている躑躅と躑躅を膝にのせているミカエルの姿があった。
ミカエルから漏れ出る強大な魔力にアクアは思わず硬直した。少しすると、思い出したようにミカエルに話しかけた。
「躑躅を帰してもらう。」
アクアの口から辛うじて出てきた言葉に、ミカエルは微笑みながら答えた。
「いいわよ。でも、ツツジちゃんは眠ってるから、起きてからでもいいかしら?」
神々しいオーラとは裏腹にフレンドリーに話しかけてきたため、アクアは驚いた。
「あ、はい。」
咄嗟に了解の返事を返してしまうほど、アクアはテンパっていた。
「んう、」
もそもそと躑躅が動くと、パチリと目を開けた。
「あれ?アクアさん?」
キョトンと目をぱちくりとさせ、笑顔でアクアのところに駆け寄った。
「あら起きちゃったのね。まあいいわ。また遊びに来てね。」
「はい!お世話になりました。みっちゃん!」
「みっちゃん!?」
躑躅のみっちゃん呼びに、アクアはギョッと驚いた。声には出さなかったが、天界のトップに向かってちゃん付けなんて恐ろしいことを、よくできるなと。
「魔王様!ご無事ですか!?」
そんな中、ガブリエルを倒したトルテが颯爽と部屋に入ってきていた。
「あ、トルテさん!」
そして躑躅の姿を見つけると、直ぐに駆け寄り安否を確かめる。
「魔王様、お怪我は無いですか?何処か変な感覚などは?」
「大丈夫ですよ?」
誘拐されていたという自覚のない躑躅はノホホンとトルテの問いに答える。
「みっちゃんとお昼寝してただけですから。」
「みっちゃん?」
トルテは胡散臭い物を見るような目でミカエルを眺めた。
「はい、私がみっちゃんです。」
何故かミカエルが嬉しそうに、手を上げて答えた。そんなミカエルを軽く睨むと、トルテはあっさりと踵を返した。
「魔王様、帰りましょう。」
そう言って、トルテを抱き上げた。躑躅もそんなトルテの行動に慣れたのか、驚くこともなくそのままの状態で、ミカエルに手を振った。
「ツツジちゃんいつでも遊びに来てくださいね。みんな歓迎いたしますから。」
「はい!」
ミカエルも躑躅に向けて軽く手を振った。トルテは翼を出すと、窓から外に飛び立つ。
「あ、お邪魔しました。」
アクアが律儀にそう言って、トルテに続く様に飛び立つ。そしてトルテが去った後、奥の部屋からアリエルが姿を現した。
「宜しかったのですか?ミカエル様。」
「ええ、その内会える機会に巡り会えますから。」
アリエルの問いに、ミカエルが確信めいた発言をする。
「ミカエル様、ラファエルが、廊下で寝てました。」
そう言って、ウリエルがラファエルを担いできた。ぐったりとしているラファエルをアリエルがギョッとした表情で見た。
「ラファエル!泣き虫なのに、あのまま逃げずに戦えたのか!?」
「う、う。」
「おい如何した?ラファエル?」
魘されている様子のラファエルにアリエルとウリエルが心配そうな表情を浮かべる。そしてラファエルは魘されながら、呻くように言葉を漏らした。
「俺の血は赤いんだ……。」
その呟きに意味が分からないと、アリエルとウリエルは、不思議そうに首を傾げた。
「そんなの当り前だろう?」
その問いに答えるようにウリエルが返答した。




