第四十九話 結界
「なあ、せめてその殺気は抑えようぜ。な?」
「黙りなさい。そのまま喚き続けるなら、貴方から先に、」
「すいません。黙ります。」
道を分かれたというのにまた同じ道にたどり着き、トルテとアクアは合流していた。元々、躑躅とウォルフの事しか眼中にないトルテは、アクアの存在が正直邪魔でしかなかった。
そんなトルテを眺めながら、アクアは必死に走り続けていた。内心、せめてノエルが同じ道だったらよかったのに、と嘆きながら。
「見つけました。」
そう言うと、トルテは真正面にある扉に向かって、走る勢いに乗って飛び蹴りをかましたのだった。
「おい!?」
アクアが驚きの声を上げたものの、何故か扉は激しく音をたてはしたが、壊れるどころか傷一つ無かった。トルテがそれを冷静に観察すると、一言ポツリと漏らした。
「防御魔法…それに、自動で回復する魔法もかかってますね。」
「はあ!?そんなのどうやって壊すんだよ!?」
「外から壊せないのなら、内側から破壊するだけです。」
そう言うとトルテは何かを探し始めた。偶にトーンとその場で跳んだり、わざとカツンッと足音を鳴らしたり、奇妙な行動をとっていた。
「なあ、何やってんだ?」
その問いにトルテは答えず、アクアを一睨みすると直ぐに別の方向を向いた。素早く移動すると、悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!?」
「先ず1人目。」
そう言ってトルテは一人の小柄な天使を捕まえた。アクアは驚きに目を見開いた。
「おい!あんまり乱暴にするなよ!」
「魔王様の近くに居るので殺しはしません。ですが、時間もかけたくないので殺さずに、素早く仕留めます。」
「いや、仕留めるって、ある意味殺すと同じだから。」
アクアが呆れながらもツッコミを入れるもトルテは無視して話をつづけた。
「この天使たちが、結界を張っているようです。」
そう言ってトルテが姿を消すと、大量の気絶した天使を抱えてきた。その光景にアクアはギョッとする。
「これ全部が結界はってたのか?」
「ええ、それとあと一人倒せば、扉を壊せます。」
そしてトルテが走り出すと、そこには一人の天使が立っていた。
「私はガブリエルと申します。あなたの名は?」
ガブリエルと名乗った天使はトルテに対して笑顔で問いかけた。
銀色の短い髪に金色の瞳に幼い外見と、そして手には巨大な真っ白い鎌を持っていた。微笑む容姿そのものは天使だと誰もが納得するだろうが、如何せん手に持っている巨大な鎌が、その雰囲気をぶち壊している。
「おいおい、天使なのに武器が鎌って良いのかよ!?」
「目の前で持ってるんですから、いいんじゃないですか?」
「そうですね。誰かから文句を言われた訳でもないですし。いいんじゃありませんか?」
驚くアクアに対して、まったりと言葉を交わすトルテとガブリエル。でも、トルテの目は真っ黒で無機質なのに対し、ガブリエルは何処か狂気染みた笑みを浮かべていた。
その異様な雰囲気に、アクアがゴクリと唾を飲み込んだ。
「アクア、先に魔王様のもとに向かってもらえますか?」
「でも、いいのかよ?」
躑躅のところに向かわない。と言うトルテの発言に、アクアは思わずトルテを見つめた。トルテは視線をアクアには向けず、ただ一点、ガブリエルを見つめたまま微動だにしなかった。
「ガブリエルと言うこの人物は、私をターゲットに絞ったようなので、私が動くよりもアクアが動いた方が効率が良い。そう判断しただけです。」
本当に天使かよ!?とあまりに禍々しい雰囲気をガブリエルから感じ取ったのか、アクアは逃げるようにその場から走り去った。
そしてアクアが走り去ったのと同時に、トルテとガブリエルが動き出した。




