第四十八話 陽動
「ノエル、ここらで二手に分かれよう。俺はまっすぐ行く。」
「なら俺は、」
「選り好みをしている場合ではないでしょう。そのまま、近い場所の道を通りなさい。」
恐ろしい怒りの形相でトルテが睨むと、二人は冷や汗交じりに、それぞれの道に進んでいった。アクアが右トルテが真正面、そして左をノエルが進んでいった。それぞれ分かれて躑躅を探すという作戦だった。
「はあ、可愛かったな。」
ウットリと言った表情でアリエルがホゥと幸せそうな笑みを浮かべていた。
「そうだな。」
ラファエルは鬱陶しそうに棒読みで返していた。するとラファエルが、コツコツコツッと足音が聞こえたことに気付いた。この足音、この気配は、天使じゃねえ!そう直感し、足音の聞こえる方角を向くと、そこには丁度ノエルが姿を現した。
「いきなり二対一か!」
眉を歪め、憎々しげにノエルがボソリと呟いた。
「いいや、一対一で良いぜ。アリエルお前は先に部屋に行ってろ。」
「え?でも、良いのか?」
「言いっつってんだろ。おら、さっさと行け!」
乱暴な口調でアリエルをシッシと追い払うと、アリエルは心配そうにラファエルを見た後、直ぐに走り出していった。
「まて!」
アリエルを捕まえようとノエルが走り出すものの、ラファエルが道を塞いだ。ラファエルは不敵に笑うと、光の魔法を放った。
あまりの眩しさにノエルは目を閉じ、ラファエルの放った拳に気付けずそのまま顔に当たる。
「っ!?」
「戦闘の最中に目を瞑るなんて、雑魚のすることだぜ。」
「雑魚かどうかは、自分で確かめてみろよ。」
ラファエルが挑発すると、ノエルが口の中の血をペッと吐き捨て威嚇した。お互いに戦闘モードと言った状態だった。
そしてノエルが炎魔法のブレスを吐いた。ラファエルは攻撃をかわすと、忌々しげに呟く、
「ちっドラゴンか!?」
ゴオオオッと炎を周りに吐く、ノエルを睨みながらラファエルはまた光の魔法を放った。そして、それに対抗するように、ノエルが強力なブレスを光の魔法に放った。
ノエルの魔法の方が威力が大きかったのか、光の魔法が消え、ラファエルに直撃した。
「熱っ!」
その尋常じゃない反応にノエルは少し考えるそぶりを見せると、納得したかのように笑みを浮かべた。
「そうか、お前の属性は光じゃなくて、風か!」
ノエルの確信めいた言葉に、ラファエルは無言になる。
「お前、分かりやすい奴だな。」
すっかり黙ってしまったラファエルに対して、呆れた様に言った。
「態々、光属性の魔法しか使わないから、可笑しいなと思えば、」
ノエルが次々と喋ると、ラファエルの様子がおかしい事に気が付いた。
「おい、いい年こいて泣いてんじゃねえよ。気持ち悪い。」
「うるせえ!泣いてねえ!」
「なら、その流れている液体は何だ?」
ラファエルは誰がどう見ても、大人と言う部類に入るだろう。180cmはありそうな高身長に加え、細すぎず太すぎずの丁度いい体格をしている。
ラファエルは乱暴に涙を拭うと、必死にこう答えた。
「こ、これは、」
「これは?」
「血だ!」
「いや、透明な血の涙なんて聞いたことないけど?」
「天使の血は透明なんだよ!」
ラファエルは最早ヤケクソ状態で、必死にそう言い張っていた。
「なら、確かめてみよう。」
ノエルのさっきまでの怒り様が嘘の様に、顔には微笑みを浮かべていた。
「え?」
あまりの態度の変わりように、ラファエルは驚きの声を上げた。そして、続くノエルの言葉に恐怖を抱く。
「お前の体を切り刻めば、その透明な血液とやらを見れるんだろう?実は俺、透明な色の血液を見るなんて、初めてなんだ。」
満面の笑みを浮かべるノエルに、ラファエルは顔を青ざめさせた。
「い、いや、その……」
ノエルが自身の爪を尖らせると、ラファエルは後退していった。勿論そんな状態のラファエルを逃がす筈もなく、ノエルは壁際にまでラファエルを追い詰めると、笑みを浮かべながら、爪を振りかざした。
「はあ。」
そして、ため息をつくとノエルは爪をしまった。
「あれだけ生意気なこと言ってるから、結構な実力者だと思ったんだけどな。」
ノエルが残念そうに見つめる先には、気を失っているラファエルの姿があった。
「俺のところははずれだな。あーあ。」
こんな雑魚にこれだけ時間がかかってしまったら、アクアかトルテのどちらかが既に躑躅を救出しているだろう。とノエルは不貞腐れてその場に寝転んだ。




