第三十四話 パーティ
「マスター!俺チーム組むことにしたから登録よろしく。」
バンッとギルドのドアを開けて、アクアさんがそう言うと、何故か騒々しかった周りが一瞬にして静かになった。少しすると、またガヤガヤと騒がしくなっていた。
みんな口々に驚きの声をあげている。
「で、パーティのメンツはどこにいるんだ?」
アクアさんの後ろで待機している、私たちの姿がマスターの位置では見えないからなのか、そう呟いた。
「おう!ロランとノエルと躑躅だ!」
そう言ってアクアさんは前に出て私たちに、みんなに見える様に前に出てくるように視線で促された。アクアさんが場所を移動すると、私たち三人に視線が向くのが分かった。視線が自分に向いたことに気付き、思わず体が硬直した。
「若いな…戦えるのか?」
マスターは私を見ると、驚いてそう言った。まあ、どの世界でも幼女が戦おうという状況になったら最初は誰もが驚くものでしょう。私だってそんな幼女がいたら見てみたいです。
本当は料理を作るのが目的だったんですけど、戦う事前提になってきてます。でもこの際だし、憧れのファンタジー世界の経験値を積ませてもらおうじゃありませんか。
最初は乗り気になるどころか、その選択肢を破棄していたのに、こうも丁度いい条件で話が回ってきたら、思わずやっちゃおうかな?みたいな感じになるじゃないですか。
チラリとアクアさん達を眺めた、実際に戦うところを目撃したことは無いけど、魔王の部下って言っていたくらいなんだし。弱いということは無いと思う。アクアさんに至っては死んだところしか見たことないので、ちょっと不安もある。
「おーい!チーム登録するから、こっち来いよ!」
アクアさんに呼ばれて私たちはマスターのもとに向かった。何やらカタカナで誓約書のようなものを書かされていたみたいだった。
えーと何々、1,死んでも当ギルドは一切の責任を負うことは無い。初っ端から酷い注意事項ですね。えーと次は2,当ギルドの任務は基本早い者勝ちである。ただし不正をした物にはそれ相応の罰を与える。ここら辺から真面なのかな?次は、と読もうとすると書き終えたアクアさんが紙をマスターに提出した。
あっまだ全部読んでないのに。
ドヤ顔で紙をマスターに渡しているアクアさんに悪いと思ったので、私は後で聞こうと思い、紙から目を離した。
「チーム名は決まっているのか?」
「じゃあ、魔王と仲間たち、で登録しといて。」
「あいよ。」
あっさりと魔王と言う単語を使うアクアさんに顔が引きつった。魔王が混じっていても問題ないのでしょうか?あまりにもリアクションが無さ過ぎて、ドキドキしているこっちの方が馬鹿らしくなってきました。
「じゃあ、早速だけど何と戦う?」
意外とノエルさんも乗り気なのか、まるで獲物を前にした猛獣の様に、ペロリと舌なめずりをした。思わずゾクリとしたけど、私が獲物になるわけでは無いので、冷静を保つ。
「躑躅がどれくらい戦えるかわからないんだし、最初は様子を見た方が良いでしょ。」
そう言うとロランさんは、ピッと一枚紙をとってきた。紙を見ると、ウサギの様なモンスターの絵と金額そして討伐する数が書かれていた。
「コーンラビット?」
ノエルさんが残念そうに呟いた。
「私のせいで弱い獲物を討伐することになってしまって済みません。」
自分の責任であることは分かっているので素直に謝罪した。
「ううん。大丈夫。でも魔王様が強くなったら、いつか俺と戦ってね。」
嬉しそうに語るノエルさんの目が凄く怖かったです。




