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第二十九話 ユコラの実

ルイさんのとんでも発言で色々あったけど、私は無事に修行を終えて、マスターのところでまったりとしていました。


 まあ、修行と言っても、普通の修業であって、そうじゃないようなものでした。簡単に説明すると、あの修行場所は、魔法で時間の流れを止めてあるみたいでした。私たち魔族は不老という能力があるので、時が止まっている場所で何をしても、外の時間は経過してないとのことです。


 修行とは言え、私がやったのは魔力の向上です。体術は何もできなかったので、魔法だけを成長させようという話になりました。


 そしてありったけの魔術の方を読破し、魔法の使い方を一から教わり、そしてさらに魔法の使い方を教わるという、ファンタジーの世界で特典とかいっぱいついてきそうなものですけど、どうやら私には膨大な魔力と言う特典しかなかったようです。


 分かりやすく言うと、私に戦闘に関しての才能はゼロでした。話すのもおこがましいと思えるほど才能が無かったんです。アクアさんとロランさんも微妙な顔をしていました。


 時間の経過が無い空間で、どれだけの年月が経過したかを言うと私の才能のなさが分かると思いますが、ここではノーコメントとさせていただきます。


「はあああ。」


特訓の疲労で、テーブルの上で深いため息をついた。


「まあ、魔法に関しては、最強になったんだからいいじゃねえか。」


 確かにアクアさんとロランさんのおかげで、私の魔法に関しては、誰にも負けないんじゃないかと思えるほどに、強くなれました。


「君の努力で実った結果なんだから、もう少し喜んだら?」


 ロランさんは優雅に紅茶を飲みながら、そう言ってくれた。でも、あそこまで才能が無いと、色々とへこむんです。


そんな時何やら周りががやがやと騒々しい事に気が付いた。


「おっ!あいつらが帰ってきたみたいだな。」


 嬉しそうなアクアさんの顔を眺めた後、アクアさんの視線と同じ方向を向いた。するとそこには金色王族ゴールドロワイヤルの人たちがいた。


 セリアにクラウスにベランジェさん、あの時は会うことが無かったから三人がどうなったのは分からなかったけど、嬉しそうに笑っている姿を見て、また少しホッとした。


パチリとセリアと目が会った。セリアは嬉しそうにニコニコ笑いながらこちらに近づいてきた。


「可愛らしい女の子ね。あなたお名前はなんて言うのですか?」


「躑躅です。」


 最初に会った時の様に名前を聞かれて、つくづく記憶の有無を実感させられる。そして悲しみをごまかす様に、私は笑顔で自分の名前を言った。


「ツツジですか?良い名前ですわね。」


「ありがとうございます。」


「よう、セリア。クラウスとベランジェもいいか?重要な話があるんだ。」


 アクアさんは私を抱き上げて、お姫様抱っこの形になると、セリアさん達を連れて外に出ていった。クラウスさんとセリアの視線が痛かったので、アクアさんに引っ付く様に顔を隠した。


アクアさんの気遣いが、マイナスになっている。そう感じた。


「それで、話と言うのは?」


クラウスは私とロランさんを少し見た後、アクアさんに問いかけた。


「単刀直入に言う。力を貸してほしい。」


「どういった意味で?」


「ある物を探してもらいたい。」


「ある物?」


 淡々と進んでいく会話の内容に、私は疑問を感じた。ある物って何だろう?私が特訓すればいいってものじゃないのだろうか?


「ユコラの実と言うものを探してきてほしい。」


「「「「!?」」」」


アクアさんの言った言葉に、私以外の人全員が驚きの声を漏らした。


「あれがどういう能力を持った実なのか、知った上で言っているのかい?」


クラウスはアクアさんの顔をじっと見ながら問いかけた。


「ああ、ある人物を救うために、その実が必要なんだ。」


はっきりと答えるアクアさんに、納得がいったのかクラウスは笑顔になった。


「分かりました。引き受けます。」


「本当に、それで良いんですの?」


セリアが不安そうにクラウスに問いかけた。


「正直俺も不安なんですが。」


「あのアクアが頼み込んできたんだ。何とかなるだろう。」


「何とかなるだろうって、まあ、なるといいですわね。」


「本当に何とかなるといいんですけどね。」


あっけらかんと言うセリアとクラウスを、ベランジェが暗い顔で、ため息をつきながら呟いた。


 こうしてセリアさん達に依頼をした後、私たちは、ギルドの一室を借りて会話をした。


「聞きたかったんですが。ユコラの実とはいったいどういうものなんですか?」


「ユコラの実を食べたものは、魔法が使えるようになるんだ。」


 別にクラウスさん達が焦るような事でもないと思った。魔法が使えるようになる。それは、誰かが困るような事なんて起きるのだろうか?


「唯の魔法じゃない。所謂、呪いの魔法と言われるものだ。」


「呪い?」


いきなり危険な展開になりそうな気がした私は、アクアさんをじっと見つめた。


「まあ、そこは置いておく。重要なのは呪いじゃなくて、誰に食わせるかってとこなんだ。」


 呪いは重要じゃないのか。あまりに引っ張っていうものだから、絶対に重要な言葉なんだと思って真剣に聞いていたのにと、内心は不満たらたらだった。


「食わせる相手はトルテだ。」


「はあ!?」


「ええ!?」


 唯でさえ危険な相手に、さらに危険な能力を与えてどうするんですか!?と言いたくなった私だったけど、アクアさんが続けて話した。


「ウォルフを救うためにはトルテの不老殺しの体質を如何にかしないといけない。」


真剣に語るアクアさんを私とロランさんもじっと見つめた。


「でも、ユコラの実を食べさせて如何するんですか?」


「まず、トルテが持つ不老殺しの能力の発動条件は、魔法が使えないこと。」


 その言葉だけで、私もロランさんもアクアさんの言いたいことが分かった。ユコラの実をトルテさんが食べれば、復活したウォルフが、トルテさんに殺されて死ぬことは無い。


「なるほど、その実を食べさせて、トルテの殺す力を消そうって考えなわけだ。」


納得するかのように、ロランさんが話した。


「でも、そんなことトルテが知らないわけないから、正攻法で行ったって返り討ちにされるのが目に見えてるよ。」


「やっぱりそう思うか?」


 いい案だと思ったんだけどな。と離すアクアさんを眺めて私は一つの考えに至った。そして、アクアさんの服の裾をクイックイッと引っ張った。


「どうした?」


不思議そうに私を見つめるアクアさんに私はドヤ顔で語った。


「私の特技を忘れてませんか?」


「料理でしょ?」


それがどうしたの?と聞いてくるロランさんを見ながら私は答えた。


「私がユコラの実をトルテさんに気付かれない様に、料理してトルテさんに食べさせれば事は丸く収まります。」


ドヤ顔で語りきった私を見て、


「「……。」」


二人は沈黙した。


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