第二十八話 特訓
ギルドに到着する頃には、ロランさんの機嫌は最悪だった。妙に膨れた顔をしている。そんなロランさんに目もくれず、アクアさんはマスターに挨拶をしていた。
「チッス!マスター!」
「おう、久しぶりだな。」
嬉しそうに話す二人を、私はじっと見つめた。
マスターは私を見て、驚いた表情でアクアさんに私の事を聞いていた。
そうか、時の魔法を使ったから、マスターは私の事を覚えているどころか、知らない人としか認識されていないんだ。
「小さいのに大変だな。」
他人事のように話すマスターを見て、私は少し悲しくなった。でも、長々と悲しんでいる時間は無いので、私は、無言でアクアさんに視線で促した。
「分かってる。マスター、修練場借りるぜ。」
私と視線を合わせた後、マスターに掛け合っていた。何やら特訓するための場所を確保する様子だった。
「ほらよ!」
マスターは銀色に光る一つの鍵を投げた。
「おっと!」
アクアさんは難なく鍵を見事にキャッチした。
「じゃあ行くか!」
そう言って私とロランさんは、歩き出したアクアさんの後をついていった。
ギルドから外に出て裏に回ると、鍵のついた部屋が無数にあった。金、銀、銅、他にも木製のドアや鉄製のドアが沢山あった。アクアさんは迷うことなく、無数の扉のある場所を歩いていった。少しするとコツッという足音が止まった。
「あった!」
そう言うと、鍵を差し込んだ。
「おい、見つけたぞ!早くこっちにこい!」
此処がどういう場所なのか、よく分からなかった私は、ロランさんと離れた場所で待機していた。アクアさんに呼ばれて、急いで扉の前まで移動した。
「此処はどういう場所なんですか?」
異常とも思えるほどの、膨大な部屋の数が、私にとっては不思議でしょうがなかった。
「ああ、ギルドの会員だけが使える場所だ。」
アクアさんは、意地悪そうな笑みを浮かべてそう答えた。
「私はギルドの会員じゃないですけど、使っても平気なんですか?」
ギルドの人しか使えないのなら、私が使ってはいけないんじゃ?そう思いアクアさんに目で訴える。アクアさんは意地悪そうな笑みのまま、笑っていた。
「躑躅とロランは、後で会員になれば良いと思うぜ!」
アクアさんがあまりにも輝かしい笑顔で、言い切るものだから、珍しくロランさんが怯えて逃げ出そうとしてました。アクアさんは逃げようとロランさんを一瞬で水の魔法を使って拘束してました。
「アクア、覚えてなよ!第一、俺は人間とつるむなんて御免だ!俺は寝ているときが一番幸せなんだよ!」
ロランさんの訴えに心の中で納得していた。道理でいつも寝ているはずだ。
「まあ、そう怒るなよ。何も悪い事ばかりじゃねえと思うぜ。」
アクアさんはニヤリと笑いながら、ロランさんに語り掛けた。
「此処のギルドの修練場は、魔族のデータが入力されている。過去に出会ったことのある人物の記憶を読み込んでいるからだ。」
「それが何?」
ロランさんは苛つきながらもアクアさんの話に耳を傾けた。
「ルイのデータや俺のデータそれにノエルのデータも入ってるって言ったらどうする?」
アクアさんのその一言でロランさんの目の色が変わった。
「それ、本当?嘘だったら引きずり殺すよ。」
引きずり殺す?謎の死因を疑問に思いながらも、私もじっとアクアさん達の会話に耳を澄ませた。
「嘘じゃない。それに加えて今回躑躅がここで修行すれば、躑躅のデータも入る。そうなれば、お前の願いが、叶うかもしれないぜ?」
「今回は引き受けてあげる。勿論データを受け取ることはできるんだろう?」
ロランさんはさっきまでの嫌がりようが嘘の様に、まるで少年の様に瞳を輝かせて、嬉しそうに語っていた。
「ロランさんの願って何ですか?」
気になって問いかけた。
「ルイを殺すこと。」
「ええ!?」
ここでまさかの殺人予告に驚いた。親子なのに?それ以前に別に仲が悪いような、そんなイメージすらもなかった。確かにルイさんは魔法でロランさんを起こしたりしていたけど、あれってスキンシップみたいなものじゃなくて、虐待!?
思考が悶々と変な方向にずれていった。
「だから言っただろう?魔族は何処かしら歪んでるって。」
アクアさんは前とは違い、ニヤリとまるで本物の悪魔のような笑みをうかべていた。
「僕がルイを殺したいのはね。大好きだから。」
無邪気に微笑みながら語るロランさんを、ちらりと見ると私は一つの考えに至った。魔族はヤンデレ。




