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『異世界退職代行』〜魔王軍から勇者パーティまで、不当な契約をアンバインド(解放)します〜  作者: 街角のコータロー
王国・帝国連合編

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第3話:帝国の不夜城、アンバインド(停電)します

ガレリア帝国、中央通信司令部。

 そこは、魔法の灯火が一日中消えることのない、眠りを知らぬ「不夜城」の心臓部である。

 壁面に巨大な文字で掲げられたスローガンは、『進め、帝国の歯車! 24時間働けますか?』。

 「――通信兵402号! 手が止まっているぞ!

 

 

 魔力供給の波形が0.01%乱れた! 修正しろ、死ぬ気でなッ!!」

 司令官、鉄の規律のアイアンサイドが、鞭のような音を立てて机を叩いた。

 通信兵たちは、充血した眼を皿のようにして魔導パネルに向かっている。

 

 

 彼らの足元には、強力な覚醒剤(魔力ポーション)の空き瓶が転がり、空気は極度の緊張と疲労で濁りきっていた。

 「閣下……。402号は、すでに不眠不休で一週間……。

 

 

 故郷の母親の容体が悪いという手紙も届いており、精神的にも限界です……」

 隣の通信兵が必死に庇うが、アイアンサイドは冷酷に笑った。

 「手紙だと? そんなゴミ、私がすべて検閲して焼却しておいた。

 

 

 兵士に情愛は不要。家族を想う暇があるなら、帝国の未来を想え!

 

 

 我が国の栄誉は、この24時間勤務に殉じることにあるのだッ!!」

 アイアンサイドは、402号の懐からこぼれ落ちていた、家族との唯一の繋がりである「ボロボロの写真」を奪い取ると、

 

 

 その目の前で、魔法の火で焼き尽くした。

 「あ……あああ……!! 母さんが……!!」

 402号が絶望の叫びを上げ、崩れ落ちる。

 「働けない部品に価値はない。……衛兵! こいつを『廃棄処分(強制除隊)』にしろ。

 

 

 代わりの歯車はいくらでも……」

 「――いいえ。その歯車(人間)は、たった今、別のラインへと『移籍』しましたよ」

 影の中から、音もなく黒いロングコートの男が現れた。

 ゼノン。

 彼は、灰になった写真の燃えカスをバインダーに挟み、アイアンサイドを射抜くような視線で見据えた。

 「何だ貴様ッ!? 許可なく立ち入るとは死罪だぞ!!」

 「退職代行『アンバインド』、ゼノンです。

 

 

 アイアンサイド司令官。……本日、この通信司令部の全職員より、

 

 

 一括して『退職願』を預かってきました」

 ゼノンはバインダーを叩き、通信機を起動させた。

 「ルナ。……帝国の誇る『24時間稼働システム』を、アンバインドしろ」

 『了解、ゼノンさん! ――ガレリア帝国の全魔導ネットワーク、ハッキング完了。

 

 

 皆さん、今までお疲れ様でした。

 

 

 ……本日より、帝国全土に「強制就寝命令」を発令します!!』

 パチンッ!!

 ゼノンが指を鳴らした瞬間。

 不夜城を照らしていた無数の魔導灯が、一斉に消灯した。

 

 

 さらに、通信兵たちの魔導パネルには、家族からの「温かい音声メッセージ」が自動再生され始めた。

 『……体に気をつけてね』『帰ってくるのを待ってるよ』『大好きだよ、お兄ちゃん』

 静まり返った闇の中、あちこちで兵士たちの啜り泣きが漏れる。

 「なっ……ななな、何をしたッ!?

 

 

 光を点けろ! システムを復旧させろ! 働け! 働けぇぇッ!!」

 アイアンサイドが狂ったように叫ぶが、誰も動かない。

 

 

 彼らを縛っていた「24時間の呪縛」は、ゼノンがもたらした「一時の休息」と「家族の声」によって、霧散していた。

 「アイアンサイド司令官。……あなたは『24時間働けるか』と問いましたね」

 ゼノンは暗闇の中で、一歩ずつ歩み寄る。

 「ルナの解析によれば、あなたの言う『栄誉』の結果……

 

 

 この司令部での過労死率は、王国の十倍を超えています。

 

 

 これは栄誉ではない。……単なる『無能な管理者による虐殺』です」

 ゼノンは杖を振り上げ、アイアンサイドの胸元を指した。

 「――アンバインド・タイムマネジメント(狂気の解放)」

 キィィィィィィィン!!

 アイアンサイドの体に、特殊な「就業規則魔法」が刻まれた。

 「……がはっ!? な、なんだ、この、異常な眠気は……!?」

 「あなたには今後、1日最低8時間の睡眠を強制する呪いをかけました。

 

 

 眠らなければ、あなたの心臓は物理的に停止します。

 

 

 さあ、あなたが愛してやまない『24時間勤務』の現場で、……泥のように眠りなさい」

 「あ……あ、ありえ……ん……。俺が、眠る……など……」

 アイアンサイドは白目を剥き、その場に崩れ落ちて、激しいいびきをかき始めた。

 ゼノンは、402号の肩に手を置いた。

 「家族の声は、検閲などできません。

 

 

 ルナがネットワーク経由で、彼らを魔王軍の『保護特区』へ既に誘導しています。

 

 

 ……あなたも、そこへ行きなさい」

 「……ありがとうございます。……本当に、ありがとうございます……!!」

 402号はゼノンの手を取り、闇に包まれた司令部を、自由な足取りで出て行った。

 その背後で、次々と通信兵たちが後に続く。

 

 

 「帝国、辞めるぞ!」「母さんに会いに行くんだ!」「俺たちも、人間だッ!!」

 帝国の誇る「不夜城」は、たった一夜にして、静寂と安眠が支配する「廃墟」へと変わった。

 ゼノンは、司令部の屋上から昇る朝日を見つめた。

 「……さて、アデルバイド王国、ガレリア帝国。

 

 

 あなた方の『歯車』は、今や自らの意思で歩き出しましたよ」

 『ゼノンさん、次の依頼者(悲鳴)が来ています!

 

 

 今度は王国教会の聖女さん。……彼女、24時間休みなしで「回復魔法」を打たされ続けて、

 

 

 心身ともにボロボロみたいです……』

 「……聖女を使い潰す教会、ですか。

 

 

 ……徹底的に、アンバインド(解放)して差し上げましょう」

 ゼノンの黒い外套が、朝風にたなびいた。



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