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異世界ネームはメルヘンチック

 目の前では赤紫色のマントを羽織った西洋風の男がうずくまり、震えている。

 別に動けないようなケガをしているわけではない。笑い転げているだけだ。


 異世界人との初邂逅。

 挨拶と自己紹介をしたら、なぜか笑い転げられてしまった。

 

「おい、そんなに笑ってやるな、失礼だぞ」

 イケメンな獣人がうずくまる男を(いさ)める。

 だが、よく見れば口の端が歪んでおり、身体はプルプルと震えているので、笑いを堪えているのだろう。


 「フルいコトバか?よくワからなかったゾ」

 唯一バンダナの大男は平然としているが、どうやら通じてさえいなかったようだ。

 

 これは一体どういうことだ?

 この世界で言葉が通じるよう、女神に取り計らってもらったはずだ。

 現に向こうの言葉は問題なく理解できる。

 しかし、どうやらこちらの言葉は通じてはいるものの、上手く伝わっていないようだ。


 これは聞いた方が早いな。

 「鑑定」

 目の前のがさつそうな男に意識を向けながら、鑑定魔法を発動させる。


 《どうかしましたか?勇者餅太朗》

 数瞬ののち、女神とのパスが繋がる。

 

 女神さま、教えてください。今現地人と初邂逅中なのですが、どうも言葉が上手く伝わっていないようなのです。

 《おや、そうですか……一度、話してごらんなさい》


 「俺の話し方ってどこかおかしいですか?」

 「っく……悪りぃ悪りぃ。今日日(きょうび)、神殿の劇でしかそんな言い回しは聞かないからよ」

 がさつそうな男が起き上がり、そう答える。


 「閉鎖的な集落などでは今でも古い言葉を使うと聞く。こんな見てくれだ、少数部族の出なのだろう」

 イケメンな獣人が的外れなフォローを入れてくる。

 なるほど……しゃべり方が古い感じか。


 《つっ、通じているなら問題ないでしょう!?大体、人の子は簡単に言葉を変化させすぎなのです。少し距離が空けば独自の言語を作り出し、同じ場所でも10年100年ぽっちでどんどんと変わっていく。もっと愛着や落ち着きを持つべきだと思いますね、私は》

いやぁ、もちろん問題ありませんよ。むしろ、そんなすぐ変化する中、キチンと通じるように調整してくださった女神さまの技量に感服していたところですよ!

とりあえずフォローを入れておく。なんだか胸を張る音が聞こえた気がした。


 しかし、10年や100年をぽっちとは……流石女神さまはスケールがデカい。

 こりゃ下手したら、日本語換算だと江戸時代とかの話し方をしてるのかもしれないな。


 ……あれ?もしかして、女神さまが十二単を着てたのって?


 《はい、人の子の流行に合わせてみました》


 あっ、これ10年100年どころか、1000年単位でズレてるわ。

 一人称が麻呂とかのレベルだ、これ。

 これ向こうからしたら、バリバリの外人が流暢な日本語でおじゃる丸って感じか?

 そりゃ笑うわ。



 「おーい、ぼーっとしてどうした。一緒に来るんだろ?」

 がさつそうな男の声で、意識が現実に引き戻される。

 

 見れば、3人はすでに西の方に歩きだしていた。

 

 『もっちゃん、ついていくのかい?』

 ばぁちゃんが背中越しに尋ねてきた。


 『うん、森から抜ける道を知ってるみたいだし、ついていこうか』

 振り返れば、ばぁちゃんが少し疲れた顔をしている。


 そうだよな……いくら勇者特典の恩恵で、あれだけ暴れまわっても息ひとつ切れないとはいえ、疲れるのは疲れるよな。

 いつもしているように、手を後ろに回してしゃがむ。


 『ありがとうねぇ、もっちゃん』


 ばぁちゃんを背負いゆっくりと歩き出す。

 こんなに軽いのに、あれほどの力が出るのだからすごいものだ。

 

 

 ばぁちゃんを背負い、3人の兵士と並んで森を歩く。

 並んで歩ける程度には道が整備されているので、それなりに往来があるのだろう。


 「砦に向かってるんですよね?どれくらい距離があるんですか?」

 「……38.498フンくらいダ」

 バンダナの大男がすごく中途半端な数字を告げる。


 《翻訳の都合ですね。使っている尺度が違いますから》

 ポンド表記をグラム表記に直しているみたいなものですか?


 《まぁ、似たようなものです。今はデータが少ないのでこうですが、データが蓄積されれば、その内違和感なく翻訳してくれるようになるでしょう》

 おぉ、それはすごい。


 《しゃべり方も同様なので、たくさんお話しなさい》

 高性能ですね!さすが女神さまの魔法ですね!


 《ふふん、私優秀ですから。あと魔法ではなく、奇跡です》


 あれ……?魔法と奇跡って何か違うんですか?


 《はい、違いますね……勇者餅太朗は、魔法に興味があるのですか?》


 えっ……まぁ、興味ありますかね……何しろ生命線ですし。


 《そうなのですか!!それはいい心がけです!では、特別に私が魔法について教えて差し上げましょう!実は私、魔法には一家言ありまして。何しろ、魔法に()()()()神がかっていると神界でも評判なのです。ついた神号が魔法少女神なのですよ!》


 ……そうなのですね!流石女神さまです!


 《ふふん、私のすごさがわかりましたか!では、まず初めにそもそも魔法とは何なのかというところからですね。魔法とは体内の魔力を放出して触媒とし、体外の活性魔素の……》

 あの、女神さま?とりあえず使えるようになればいいので、そこまで詳しく説明していただかなくても……

 《いえ、原理を理解しているかどうかで今後の理解度に大きく差が出るので、覚えておくべきですよ。そもそも、活性魔素とは不活性魔素が活性化し……》



 「なぁ、わかり辛いけど、敬語だよな、それ?敬語なんて使わなくてもいいぜ。見たところ、歳もそう変わらないだろ?」

 まるで水を得た魚のように脳内で捲くし立てる女神に辟易としていると、がさつそうな男が話かけてきた。

 「わかった。あんまり敬語は慣れてなくてね、助かるよ」

 歳は一回り以上違うだろと思いつつも、敬語なしの方が楽なので同調する。


 「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はメープル・カンファーノ。万人族(ばんにんぞく)で19歳だ」

 がさつそうな男の言葉に思わず吹き出しそうになる。

 お前、その見た目で名前メープルかよ!ザックとかバランとかそんな名前っぽいのに。

 てか、19歳とか、本当にそう変わらないじゃないか。

 てっきり30代かと……西洋人は老けて見えやすいとかいうやつか。


 「どうした、何かおかしなことでもあったか?」

 「悪い悪い、かわいい名前だと思ってな」

 「そうか?そう言われたのは初めてだな」

 短めに刈り揃えられた金髪をガシガシと掻きながらメープルが答える。

 あれ?この世界だと男にメープルは珍しくないのだろうか?

 メープルから一歩分距離を取りながら、そんなことを考える。


 「シフォン・シュギノー。19歳だ」

 続いてイケメンな獣人が自己紹介してきた。こちらも可愛らしい名前。

 「何だその顔は。男のくせに変な名だと思ったか」

 「こいつの名前には理由があってな、実は祖父母が何とあの……」

 「おい、余計なことを言うな」

 途中、メープルのフォローが入るも、不機嫌そうなシフォンの声で遮られた。

 しかし、メープルは普通でシフォンは変なのか……異世界の基準はよくわからんな。


 「シフォンはその耳、犬の獣人とかなのか?」

 空気を変えるためにも、違う話題を振ってみる。

 「犬……だと?」

 だが、よけいに不機嫌になるシフォン。

 先端が丸みを帯びた耳、首回りのモフモフの毛……ポメラニアンか何かだと思ったのだが、どうやら違うようだ。


 「あー、わかりにくいかもしれんがこいつは」

 「メープル、余計なことは言うな。誤解されるのには慣れている、俺は気にしない」

 そう言いながら早足になり、ツカツカと一人先行しだす。


 ……滅茶苦茶気にしてるじゃねぇか。



 「悪いな、あいつ諸事情で種族にはこだわりがあってさ」

 メープルが詫びを入れてくる。

 「いや、こっちこそ気分を害してしまったようでスマン」

 「クッキーもハジメマシテのとき、犬人(ドッグ)族だとオモったゾ。イッショダナ」

 バンダナの大男がたどたどしい片言で会話に乗ってきた。

 おそらく、クッキーが名前なのだろう。

 この世界ではみんなメルヘンな名前なのか?

 というか、さっきから名詞が全部英語なんだが、これも翻訳の都合なのだろうか?


 「クッキーは何の種族なんだ?」

 先程の反省を活かし、魔族っぽい見た目だよねなどとは聞かない。

 「クッキーは蟻人(アント)族。成体ダ」

 なるほど、蟻か。そういうタイプもいるのか。

 昆虫だから魔族と似たフォルムをしているのだろうか。


 会話中にふと視線を感じて前を向くと、こちらを見ていたシフォンが顔を逸らす。

 そして、何事もなかったように歩き始めるのだが、こちらをチラチラと振り返ってくる。

 ……やっぱ犬っぽいよなぁ。


 「シフォン、犬なんて言って悪かった。俺の()か……地元じゃ俺みたいな見た目の奴しかいなくてさ、わからなかったんだ」

 「ふん、先ほども言ったが気にしていない。なに、万人族から見れば犬みたいなものだ」

 そう言いつつも、何だか今日は暑いなとか言いながら、どういうわけか胸当てを外して服を脱ぎだすシフォン。

 そして、何故かこれ見よがしに体側面を見せてくる。

 側面には毛が生えており、同じ幅の黒線と白線がひっついた一本の縦線が見える。

 それでもこちらが首を傾げていると、軽く舌打ちをした後、徐にズボンに手を入れたかと思ったら、ふさふさの黒い尻尾が出てきた。

 そして、こちらを見てくる。

 やれやれ、これで分かるだろと言わんばかりの顔をしているが、わからねぇよ。


 『あらまぁ、可愛らしい尻尾。先端が白いし、ヨコスジジャッカルかしらねぇ』

 『ヨコスジジャッカル?』

 背中からばぁちゃんの声が聞こえ、聞き返す。

 「ふん、その女の入れ知恵か。そうだ、俺は誇り高き(じゃっ)干人(かる)族だ」

 そう言って胸を張り、尻尾をブンブンと振るシフォン……やっぱ犬じゃねぇか。


 「女、名を何という?」

 「ばぁちゃんの名前は千代子だよ」

 しばらく経ってもばぁちゃんが答えないので、代わりに答える。


 「千代子か……いい名だ」

 ばぁちゃんの反応はない。

 『ばぁちゃん、いい名前だってさ』

 『あらまぁ、ありがとぉ』


 あれ?もしかして……。

 『ばぁちゃん、この人たちの言葉わからない?』

 『ばっちゃ、英語はチンプンカンプンだよぉ。もっちゃんは流暢に喋れてすごいねぇ。大学で習うのかい?』

 いや、英語じゃないんだが……。

 って、そうか。俺より先に転移したから、異世界語翻訳もらってないのか。

 どうやら、俺の仕事に翻訳が追加されたようだ。

 

 

 なお、三人の自己紹介中も、脳内では女神の魔法講座は続いており、自己紹介の際にそちらに意識を向けていた俺は、内容にまったく付いていけなくなっていた。

 今は不活性魔素?が魔力化?する過程の話をしてくれているが(多分)、適当に脳内で相槌を打っておく。


 「おう、こっちが近道なんだ」

 声がする方を向けば、獣道に毛が生えた程度の道を進みだすメープル。

 踏み固められた道を逸れ、それに続く。

 ズボンをこする草の感触に眉をひそめながら進めば、森のにおいに混ざって嗅ぎ慣れた甘い香りが漂ってきた。


 少し歩くと、見上げるような岸壁が姿を現した。

 「こっちにトンネルがあるんだ」


 指が指す先を見れば、壁に直径5mほどの大穴が空いている。

 トンネルはそこまで長くないのか、向こう側の風景が見える。

 「クッキーがムカシにホったアナダ」

 おぉ、流石蟻人族。

 「足元が悪いから気を付けろ。お前が転ぶと、千代子まで負傷するからな」

 シフォンが助言してくる。


 トンネルに近づくにつれ甘いにおいが強くなる。

 においの元を辿れば、トンネルの床面が黒い泥状のもので覆われていた。

 「これは?」

 「羊羹だ」

 「へぇ、羊羹ね……」

 「滑りやすいから注意しろよ」

 そう言って、泥状の物体に脚を突っ込み、足首まで沈んだ状態でズブズブと進みだすメープルたち。


 あぁ、どうりで嗅ぎ慣れたにおいなわけだ。

 ふぅん、羊羹ね……。



 いやいや、おかしいだろ!?




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