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土魔法が羊羹魔法になった世界

 我が実家、御手洗堂の主力商品は2つある。

 ひとつは(そう)祖母の代で考案された御手洗(みたらい)印の御手洗(みたらし)団子。

 もうひとつが、創業から変わらぬ味、(ねり)羊羹(ようかん)

 主力商品というだけあり、嗅ぎ慣れたあのにおい。


 その嗅ぎ慣れたにおいが、何故か異世界の地面から立ち上っている。


 え……?何で?

 状況がまるで理解できないぞ。


 「なぁ……メープル。羊羹ってあの羊羹なのか?」

 「そりゃあ、羊羹ったら羊羹しかないだろ」

 そう言いながらメープルたちはズブズブと羊羹の沼を進んでいく。


 「え?何で羊羹を床に敷き詰めてるんだ?」

 「床がデコボコで危なかったから、この前クッキーにうめてもらったんだ」

 「クッキー、羊羹魔法がトクイダカラな」

 そりゃまたニッチな魔法をお持ちで……しかし、何も羊羹で埋めなくても。


 「来ないのか?」

 メープルがそう聞いてくるが、羊羹を踏み越えていくのは、和菓子屋の息子としてはどうも抵抗がある。


 「はぁ……仕方ない。ファイアパーン」

 シフォンがため息を吐くと、指を鳴らす。


 すると、シフォンの指先に小さな灯りが発生し、ふよふよとこちらへ近づいてきた。


 「暗いのが怖いのだろう。それを使え」

 シフォンが気を回してくれたが、別に暗いから躊躇しているわけではないのだが……。


 「どうやって使えばいいんだ?」

 「手を近づけろ。追従する」

 小さな灯りに手を近づけ、手を動かす。

 すると、灯りは動きに合わせてふよふよと動いた。

 おぉ、なんだか可愛らしいな。

 しかし、これが魔法か。

 「ファイアパーン」

 そう呟きながら、指を鳴らしてみる。


……


 何も起きない。

 やはり、魔法を覚えるのには魔導書等が必要なのか、コツがあるのだろう。



 いつまでもこうしてても仕方ないので、意を決して一歩を踏み出す。

 柔らかいものが潰れる感触が足裏に伝わり、ものすごく不快だ。

 歩く度にスニーカーの隙間から羊羹が侵入してくるのがわかる。

 靴を脱げばよかったとすぐに後悔した。 



 トンネルを抜けると、高さ2mくらいの岸壁が正面に見えた。

 そして、岸壁には大きな泥状の塊が寄りかかっている。


 なんだか嫌な予感……。


 「メープル、あれはもしかして……」

 「あぁ、羊羹で作ったスロープだ。あれを上るぞ」


 正気か!?

 なぜスロープを羊羹で造った?


 この世界の住人は羊羹に可能性を求めすぎだろ。

 どうして素直に石や土で造らない?


 こちらの驚愕を他所に、羊羹の塊に近づき、今度は腰まで埋まりながら進む一行。

 そして、首まで埋まった状態で端まで行くと、崖の淵に手をかけ……


 そのまま上った。


 ……これ羊羹部分いらなくね?


 「何だ、上らないのか?」

 不思議そうに崖の上からこちらを見てくる、身体中羊羹まみれのメープル。


 え?何これ、何か試されている?


 「ふん、仕方ないな」

 そう言いながら、崖の上から手を差し出してくるシフォン。

 いや、折角のご厚意ありがたいのだが、その手を掴むのすごく嫌なんですが……羊羹が滴ってるし。


 しかし、ばぁちゃんを背負ったまま崖を上るのは難しいので、羊羹が寄り掛かってない部分の崖壁まで移動し、俺の背中を踏み台にしたばぁちゃんを崖上から引き上げてもらった。

 そして、自分も崖を上るために手をかけようとした時。

 「ココはクッキーにマカせロ」

 そう言って、クッキーが崖上から飛び降りてきた。


 おっ、クッキーは身体が大きいし持ち上げてくれるのだろうか。

 そう思っていると、クッキーは膝を折り、地面に手のひらをつけた。


 「頑強なる守護の盾よ、そそり立て!羊羹ウォール!」


 謎の呪文に首を傾げていると、真下からポコポコと音がするのが聞こえた。

 何の音だと地べたを見た瞬間……

 足元から大きな羊羹が勢いよくせり上がってきた!


 「うおぉ!?」


 羊羹を踏んだことがある人ならわかると思うが、羊羹はよく滑る。

 案の定、下から押し上げてくる羊羹の上ではバランスが取れず、尻もちをつく。

 羊羹は俺の体重を支えられないようで、出た端から崩れていく。

 それでも溢れるように下からせり出てきて、一瞬のうちに体中羊羹まみれになる。


 いやいや、これ何の嫌がらせだよ!

 怒りを胸に横を見やる。


 そこにはフリーズしたように、こちらをじっと見つめるクッキー。

 顔からは表情が消え、かなり不気味だ。

 

 えっ……何この展開。

 ばっと上を見れば、メープルとシフォンも同じように無表情でこちらを見ている。


 こちらが混乱していると、3人が雷に打たれたかのようにガクガク震えだした。


 えっ……何これ怖い。

 そして、震えが収まると、時が動き出したかのように、急に3人に感情が戻る。


 「おいおい、あれに乗れないとか、どんくさいなぁ」

 「すまない。クッキーの魔法、ウマくいかなかったヨウだ」

 「まぁ、こういうときもある。気落ちするな」

 何事もなかったようにこちらに話しかけてくる3人。

 

 「……大丈夫なのか?なんかすごい震えてたけど」

 「何のことだ?」

 穏やかな顔で答えるメープル。

 え、何これ。すごく怖い。



 結局、俺はメープルたちに引き上げられた。

 そして、そのまま何事もなかったように歩き出す。

 ばぁちゃん以外、皆、身体中が羊羹まみれだ。

 すごく羊羹臭い。


 一体なぜこんなことを……?

 もしかして、何か意味があるのだろうか。


 「なぁ、羊羹には魔族を寄せ付けない効果でもあるのか?」

 「いや?そんな話は聞いたことねぇな」

 「じゃあ、何で体中羊羹まみれになったんだよ」

 「おぉっ!?いつのまにか羊羹まみれだ。こりゃあ、砦に戻ったら洗い落とさないとな」

 自分の身体を見て頓珍漢(とんちんかん)なことをほざくメープル。

 そりゃあ、羊羹の塊の中を進めば羊羹まみれになるだろうよ。

 気づいてなかった訳ないだろうに、何なんだ一体。


 「おい、もうすぐ砦が見えるぞ」

 シフォンが声をかけてくる。

 前方を見れば、確かに森の切れ目が見えた。



 森を抜けた先、目に飛び込んできたのは小高い丘の上に建つ西洋風の砦だった。

 無骨で飾り気はないが、いかにも中世の砦といった見た目で、正直興奮する。

 少し早足になりながら、砦へと続く道を歩く。


 砦に近づくにつれ、灰色の城壁が所々焼けこげていたり、大きく欠けているのに気づく。

 そして、欠けた部分には黒い塊が埋め込まれていた。


 何だか嫌な予感がする。


 「なぁ、あの黒い塊って……」

 「あぁ、襲撃で崩された部分を羊羹で補修したんだ」


 出たよ!羊羹!

 何でこの世界の人々は羊羹で解決しようとするのか!?

 何、この世界じゃ羊羹は建材扱いなの?そんな万能素材じゃないよ、羊羹。埋めても城壁の補修にはならないよ。もう一度同じところ襲撃されたら容易く崩れるよ。防御力0だもん。


 「ふん、辺疆(へんきょう)出身なら知らないかもしれんが、昨年の秋にあの砦は魔族に包囲された」

 「あんときゃ流石にやばかったな。魔族の攻勢が激しい上に、食糧も尽きかけて、正直もう駄目だと思ったぜ」

 「正直な所、あと7日も攻め続けられていたら砦は落とされていただろう。だが、どういうわけか、魔王軍は全軍撤退した」

 「俺は神に祈りが通じたんだと思うぜ。天下(てんか)万人(ばんにん)千秋(せんしゅう)万歳(ばんざい)ってな」

 「ふん、くだらん。まぁ、なんにせよ助かったのは確かだ」

 「それで、砦を修復して今では元通りってわけさ」


 元通りじゃないと思うよ?


 いやいや、どうして羊羹で補修するかなぁ。

 見たところ、石造りの城壁っぽいし、素直に石で補修すればいいのに。

 これはちゃんと聞いてみたほうがいいな。


 「なぁ、さっきから不思議なんだけど、どうして羊羹で色々作ったり補修したりするんだ?」

 「え?何でってそりゃあ……」

 こちらの問いかけに、首を傾げ言いよどむメープルたち。

 

 そんな変なこと聞いたか?

 

 「ふん、変なことを聞く。木で補修するより丈夫で楽だからだろう。何せ魔法ならすぐだ。それに羊羹魔法なら使い手も多いからな」

 「羊羹魔法ってそんなにメジャーなのか!?」

 「おいおい、そんなことも知らないなんて、どんな辺疆から来たんだよ。俺だってちったぁ使えるぜ」


 まじか、この世界、羊羹魔法がメジャーなの!?

 

 「ふん、羊羹魔法は四大属性の中で最も使い手が多い。威力があり使い勝手もいいからな」

 「……四大属性?」

 「何だ、それすら知らないのか。火、水、風、羊羹だ」

 

 ……一人知らない子がいますねぇ。

 いやいや、おかしいだろ。土は?普通四大属性といったら、火水風土だろ?

 

 「羊羹魔法じゃなくて土魔法じゃないのか?」

 「つ……ち?つち……あぁ、あるぜ」

 よかった、土魔法はあるらしい。

 「クッキー」

 「アァ。破砕の戦槌よ、打ち抜け!羊羹ハンマー!」

 地面に手をついたクッキーの前から、巨大な黒い塊が飛んでいった。

 べちゃりという音と共に樹にぶつかり、黒い塊は下に垂れる。

 

 ……うん、羊羹だね。

 ハンマー……槌ってことか。いやいや、そうじゃなくてさ。

 

 これはどう考えてもおかしい。どういうことだ?

 考えを巡らせていると、頭の中で可愛らしい声が響いているのに気づく。

 そういえば、まだ女神の魔法講座は続いていたのだった。

 あまりにも長いので、かけっぱなしのラジオのように環境音として処理していたが、こういう時こそ出番なのでは?


 女神さま!教えてください!


 《そこで私は言ったのです。一人で二ヶ所を護るのが難しいのなら、一人が二人になればいい……とね》

 いやいや、何の話だよ、最早魔法の話してないくさいな。女神さま!女神さま!


 《その時の精霊神たちの驚きの表情といったらもう。優秀な私だから思いついた大胆な》

 女神さま!優秀で美しい女神さま!

 

 《おや、いいところでしたのに。どうかしましたか?》

 この世界、土魔法が通じなくて、羊羹魔法とかいう謎の魔法がデカい顔してるんですが、何かご存じないですか?

 

 《あれ、言ってませんでしたっけ?その世界は土魔法が羊羹魔法になってますよ》


 ツチマホウガヨウカンマホウニナッテマスヨ?


 《えぇ、半年くらい前でしたかね。敬虐な信徒の願いを聞き届け奇跡を起こしたのです》

 ……奇跡ですか?


 《えぇ、信徒は飢餓に苦しんでいました。優秀な私は思いました。食べる物がないなら、いくらでもある土を食べられるようにすればよいのだと。そして、その世界で普及率の高い土魔法が羊羹魔法になればよいのだと。いやはや、四大属性をいじるだけあってかなりの点数が必要でした》

 そういや、謎の白い空間で、最近大きな奇跡を起こしたばかりとか言ってたな。

 これのことかよ!


 どうやら、俺たちは土魔法が羊羹魔法になった世界に転移したそうです。


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