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もうやめて!とっくに女神さまのライフはゼロよ!

 真冬のように冷え切った空気が漂う執務室。

 この執務室いつも冷え切ってんな……まぁ、俺のせいなんだが。


 将軍は熱心な信徒だって砦長さんは言っていた。

 おそらく勇者というワードがアウトだったのだろう。

 いや、きっとそうだ。

 俺たちが勇者特典を持っていることを将軍が知らないということは、書簡に書かれていなかったってことだ。

 あの機転の利く砦長さんが、あえて書かなかったということはそういうことだろう。



 「ひっ!あなた勇者の仲間ですの!?」

 大慌てで俺から距離をとる少女。勇者嫌われてんなぁ。

 そして、将軍が無言で尻の後ろに手を宛がう。


 やばい!!黒いの投げられる!!何かいい言い訳は!?


 「私たちの故郷では、魔王を打ち倒す者のことを勇者と呼びます!そのために女神さまより授かったのが勇者特典なんです!45年前の勇者は、勇者特典を悪用したから神敵に認定されたと女神さまから聞きました!」

 訝しげな表情でこちらを見る二人。


 《勇者餅太朗、私はそんなこと言っていませんよ?》


 《女神さま!?》


 いつの間にか顕現している女神。

 今日のコーデは俺とお揃いだ。

 ミルク姫とペアルックみたいでアガる……なんて、言ってる場合じゃない!!


 《それに45年前には勇者特典を授けたり、勇者の任命などしていません》


 《いや、それはこの場を凌ぐための方便……それよりも大ピンチなんです!なにか誤解を解くいい方法ありませんか!?》

 

 《奇跡を使えばよいではないですか。人の子で奇跡が使えるのは使徒だけです》

 

 《……そうなんですか?》


 《そもそも、女神より奇跡と使命を授けられた人の子のことを使徒と呼ぶのです》


 ……え?マジで知らぬ間に使徒にされてたの?


 《勇者はともかく、この者は敬虔な信徒みたいですし!女神の使徒であることが判明すればこの場は収まるでしょう》

 

 《なるほど……ところで、普通の人に奇跡と魔法の区別ってつくんです?》

 

 《……つかないのですか?》

 

 《神官のメープルや魔法使いのシフォンは何も言ってきませんでしたね》

 

 《とっ、とにかく何事も挑戦です!》


 そんな投げやりな……しかし、やるしかない。



 「将軍、私が女神の使徒であることを証明したいと思います……ステータス」

 目の前に集まる光。

 落ちてきたプレートを将軍に渡す。

 

 「餅太朗殿……これは?」

 

 「私が女神さまより授かった奇跡のひとつ、ステータスの奇跡です。ほら、この石板を見てください。ここに女神の使徒と書いてあるでしょう?」


 「そんなのただの羊羹魔法ですわ!文字もあなたが刻んだのでしょう!?」

 ぐっ……材質が全然違うだろと言いたいが、この世界の人間にはそう見えるのか。

 

 「しかし、ラクラ殿。表面に文字を刻める羊羹魔法など聞いたことがありません。そして、何より、知らぬ記号のはずなのに意味が理解できる……まさか、本当に奇跡なのでしょうか?」

意外なところから突破口が見つかった!


 《流石女神様!ステータスの奇跡にはそんな機能がついてたんですね!》


 《……へ?もっ、もちろんです!何せこの私が作った奇跡ですからね!》


 ……あれ?これ女神も知らない仕様なのか?



 「奇跡を行使できるのは女神の使徒だけ。これは認めざるを得ませんね」

 一気に柔らかな雰囲気に戻る将軍。


 「ワタクシは認めませんわ!それにまだ勇者の件は片付いていませんことよ。ワタクシ、汚らわしい勇者の一味と一緒になど戦いたくなくてよ!」


 「ふむ……確かにこの板には勇者と読める文字が刻まれていますね。その横には暴君の蒐集とありますが、これは一体どういった意味なのでしょうか?」


 やべ、ここはごまかすか。

 《慧眼ですね!さぁ、勇者餅太朗、この者たちに高らかに宣言するのです!この私が直々に選んだ勇者特典のその偉大なる効果を!》

 やべ、ごまかせねぇ。


 「えっと……女神さまより私が授かった能力で、他人の家のタンスを漁ったり壺を割っても怒られなくなります」

 

 「……」

 「……」


 なんともいえぬ空気が漂う。


 「たっ、ただの盗人ではありませんか!!露出狂で畜生道な上に盗人だなんて、あなたが赴くべきは戦いではなく牢獄ではなくて!?」


 「ラクラ殿、そんな力は聞いたこともありませんし、仮にあったとしても、能力を有しているというだけで疑うのはよくありません。餅太朗殿のことを信用しなくては」

 そう言いながら、壁際の壺を隠すようにカニ歩きで移動する将軍。


 欠片も信用してねぇじゃねぇか!

 勇者ムーブかますぞ、コラ!


 「それに、天上におわす女神がこんなしょうもない能力を授けるわけないですわ!やはりこの者は大ほら吹き!偽証罪に詐欺罪と罪のミルフィーユなのですわ!」

 おい、しょうもないとか言うな!

 完全に同意だが、本人……本神も聞いてるんだぞ!


 「それは確かに……名称的にも能力的にもどちらかというと悪魔の取引……」

 おいおい、悪魔の取引とか何て罰当たりな……俺も最初思ったけどさ!


 《しょうもない……悪魔》


 《そんなことないですよ!女神さま!》


 ほら、女神がショック受けてるだろ!

 ミルク姫の容姿なんだから悲しませちゃ駄……はっ!これは84話でセサミ王子が冤罪で投獄されたシーンの再現!?こんな曇った表情だったし、ミルク姫の衣装も今の格好に近かった!いっそこのまま眺めているのも……はっ、いかんいかん。


 

 「それに石板が出るだけだなんて……奇跡にしては随分とチープではありませんこと?羊羹バレットで事足りるではありませんか」

 「確かに、大司教や大神殿長の奇跡と比べると聊かお粗末ですね」

 

 おいおい、勇者特典だけじゃ飽き足らず、女神お手製の奇跡までディスり始めたよ。

 お粗末とか言うなよ!俺の個人情報ならどんなことだって載せられるんだぞ!

 それに土魔法が羊羹魔法になった今、事足りなくなったんだよ。わかる?ステータスの奇跡だけが石を出せるの。ナンバーワンかはともかく、オンリーワンなんだよ?

 

 《お粗末……私の奇跡がお粗末……下位の精霊神が授けた奇跡より劣っている……》

 やばい、女神の目が死んでいる。


 《そんなことないですよ!とっても役にたってますよ!》

 それこそ、そんなことない気がするが、ここはフォローをいれておく。


 「そっ、そうだ!ほかにも授かった奇跡があるんですよ!アイテムボックス!」

 掌の先に黒円が出現する。


 「ほぅ、二つも奇跡を授かるとは……これにはどういった効果が?」


 「えぇっと……中に物を入れられます」

 

 「……それはただの収納魔法では?」

 

 「……容量が無限です」

 「ほぉ、それは凄い!輜重部隊にぜひ欲しい能力ですね!」

 「盗人にぴったりの能力ですわね!」

 

 「……ただ、中に入れた物は取り出せないんですよ」

 

 「……」

 

 「……それ、収納魔法の下位互換ではありませんこと?」

 だから、そういうこと言うなって!!

 

 

 《ふふ……私の奇跡は魔法の下位互換……》

 ほら、女神が膝抱え始めちゃったじゃん!


 《そんなことないですよ!女神さま!ほら、収納魔法じゃ攻撃を防いだりできないですもん。最初クッキーも驚いてましたよ!》


 《そもそも、私はそんな使い方をするなんて想定してませんでしたし……私の奇跡が優れているのではなく、勇者餅太朗の発想力が優れているだけですよ》

 膝の天辺に指で円を描きながら、口を尖らせいじける女神。

 あー、もう面倒くさい……てか、女神のくせに打たれ弱すぎだろ!


 《翻訳の奇跡!あれはすごく助かってますし優秀ですよ!あれがなければ現地人と意思疎通がとれずに、詰んでましたもん。今ここにいられるのもあれのおかげですよ!》

 まぁ、砦長さんに殺されかけたのもこれのせいだが。


 《翻訳の奇跡は元からあったものに少し手を加えただけ。元が優秀だったのでしょう》

 あー、だから高性能なのか……それに翻訳の奇跡だけ、やけに完成が早かったもんな。

 ……て、いかんいかん、納得ではなく説得しなくては。


 《私が作った奇跡はどれもポンコツ……ふふふ、ふふふ》

 やばい、なんか女神の周りにどす黒いオーラが見える。

 将軍たちの方もなんとかしないといけないのに。


 《女神さま!魔法が使えないことに絶望していた私に、一縷(いちる)の希望を与えてくださったのは他でもないあなたです!女神さまの奇跡がなければ、それこそ俺は、剣も魔法も使えないただの凡人です。魔王を倒すどころか、これから戦っていくことすらできないでしょう。女神さまの奇跡は俺の希望なのです!ポンコツだなんて言わないでください!》

 膝に埋まった頭がピクリと動くのが見えた。


 《それに女神さまもおっしゃっていたじゃないですか。特製の奇跡だから応用が利くと。発想次第で戦闘に奇跡を応用できているのは、元がいいからこそですよ!》

 耳がピクピク動いている。


 《他の誰がなんと言おうと、女神さまの奇跡は偉大な奇跡です!崇高な奇跡を愚かな地上の民は理解できないようですが、これはその力を存分に引き出せていない私の実力不足が一番の原因ですね。しかし、これから日々研鑽し、女神さまの奇跡の偉大さを俺が証明していきます!どうか見ていてください!》

 


 《……ふふん》

 すくりと起き上がる女神。


 《まぁ、優秀な私が自ら作った奇跡がポンコツなわけないですからね!勇者餅太朗、よく言いました!存分に精進し、偉大な奇跡を世界中に知らしめるのです!》

 高らかにそう宣言する女神。ご満悦の表情だ。

 よかったよかった、無事に復活したようだ。

 復活させる必要があったのかだって?


 ミルク姫には笑顔が一番似合うからな。


 

 さて、内側の問題は解決したが、次は外側の問題だ。

 相変わらずなんとも言えぬ空気が漂う執務室。

 

 しばらく女神を宥めるために脳内神話にかかりっきりになってたから、二人から見たら突然黙りこくったように見えているんだろうな。

 どう挽回したものか。

 

 「失礼します」

 ふいに扉が開き、いかにもデキる秘書っぽい見た目の女性が入ってきた。

 女性の背中には大きな翼が備わっており、何故か(あご)から下向きに(くちばし)が生えていた。

 鳥系の獣人なのだろう。


 「ラクラ隊長、全軍準備が完了いたしました。いつでも出発できます」

 「あら、わかりましたわ。今ゆきます」

 「その者たちが噂の異界の旅人ですか。彼らはどちらへ配置いたしましょう?」

 「彼らはお留守番ですわ」


 「ラクラ殿!」

 少女を戒める将軍。


 「先ほども言ったではありませんか。勇者と一緒に戦いたくなどないと」

 「しかし、今は一人でも多くの戦力が」

 「お黙りくださいまし。今回の総指揮官はワタクシですわよ!」

 言われたとおりに黙り込む将軍。えっ、この少女、そんなに偉いのか?


 「よろしいので?最前列に配置して使い潰すことも可能ですが」

 秘書っぽい人がさらりとひどいことを少女の耳元で囁く。

 「貧弱な奇跡しか使えぬような異界人の力添えなど不要ですわ!さぁ、行きますわよ!」

 そう言って、秘書っぽい人を連れだって出ていく少女。

 このまま出ていくかと思いきや、入口でくるりと優雅に反転する。


 「あなた方は指をくわえて、ワタクシたちの凱旋をまっているとよいですわ。悪しき魔王軍は、このワタクシ!ラクラ・クッコロ=ネート=マジデ・チュロスキーが打ち破ってみせますわ!」

 そう高らかに宣言し、今度こそ出ていく少女。



 ……え?大丈夫?

 すごいフラグマシマシな名前なんだけど。

 オークとかに捕らえられたりしない?くっ殺されない?



 そして、案の定というか、お約束というか。

 「緊急報告!我が軍は敗走!総指揮官は敵に捕縛されました!」


 クッコロさんが捕まったという報告がもたらされる。


 かかったタイムは59分46秒。


 何と驚愕の1時間切りである!


 多分これが一番早いと思いますってか?

 ……いやいや、いくら何でも早すぎるだろ!?


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