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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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私の知らない事

練習が終わり…私は恭君と裕二さんと帰路を辿っていた。私は昼休みに聞いた遠江先輩の過去に驚きを隠せずにいた。それは今も続いていて…帰り道ずっと無言を貫いた。

「初めて廻の過去を知って驚いたかい?」

「えっ!?」

恭君がそんな言葉を言った時私は、そんな反応しか出てこなかった。驚いてるままの私を他所に…恭君は言葉を続ける。

「いやね…僕も今日初めて聞いたんだ…いや…琴葉君を除いて全員が初めて聞いたが正しいかな?でもね…僕は予想していたよ。人の道を外れた事があるんだろうなぁ…ってね。」

そんな言葉を恭君は淡々と言っていく。流石…遠江先輩の友達…と私は勝手に関心していた。

「でもさ…あいつは…廻はそんなロクデナシじゃないって思えるんだ。だってあいつが居なかったらこのバンドも存在しなかったからね。」

恭君がそう言うと後に続いて裕二さんが語り出す。

「そうだぜ。あいつは…無口で…ぶっきらぼうで…優しいすんげぇヤツなんだ。でもそれが故に俺らに自分の事を隠しちまうのさ。」

そんな二人の言葉を聞き…私は前まで働いていた会社に入社した当日を思い出していた。二人が言っていることが本当なんだなと思える事が入社当日から私にはあったのだ。


一年前の春。私は地元の町工場に就職する事になった。勤務初日に、チーフから私の指導役の方を紹介されたのだ。

「あっ…いた。遠江!ちょっと良いか?」

チーフにそう言われ…立ち上がりこちらに向かってきたのは…一人の青年でその顔付きは私の様な同年代の顔付きでは無く…何処か目が鋭く…能面の様に表情が無かった。

「この子が今日からお前の後輩になる子だ。すまんが面倒見てやってくれ。」

チーフがそう言い終わると…私は遠江先輩に挨拶を交わした。まぁ…反応を見て凄く掴みにくそうな人だと思ってしまったが…。

「あ…あのっ!今日からお世話になります小夏 侑李 という者です!まだ入ったばかりの者ですが…よろしくお願いいたします!」

「……………。」

私がそう挨拶をするなり遠江先輩から返ってきたのは無音と工場内で響く機械音だけ。すると…チーフがバチの悪そうな顔をして私にこんな補足説明をしてくれた。

「あちゃ〜…そうだった…小夏…この人な…全然喋らないから!」

私はその言葉に驚愕してすぐに「えっ?いつもこんなんですか!?」とこんな質問を聞き返していた。その言葉を聞いて…私はこの人と上手くやっていける自信が無かった。

「…新入りだったけ?まぁ…頑張れ。」

そう淡々と語った遠江先輩の顔は…またまた能面の様に表情が無く…怖かった。


入社し…一ヶ月が経った。思ったより仕事というのは大変で…それを現実が非常にも私に叩き付けてくる。遠江先輩が言った「まぁ…頑張れ。」と歯切れの悪い言い方はこれが理由みたいだ。

「ふぅ…また今日も残業か…まぁ…仕方ないよね!私の経験が浅いから!うん!よぉし!残りの時間もがんばるぞぉ!」

そう自分に言いつけて缶コーヒーを買っていると…後ろから物音がし振り返ると…遠江先輩が休憩室に入ってきていた。

「………。」

相変わらず無言だったが…私と同じ様に缶コーヒーを買おうとする遠江にこんな声をかけてみた。何時も仕事中はある程度アドバイスを貰うだけで、休憩中に他愛のない会話をしているか?….と聞かれるとそんな事入社してから一度もしていない。

「あのぉ〜?」

「………。」

そんな私の声も空に消すほど無言を貫き通す遠江先輩。それでも負けじともう一回声をかけてみた。

「あのっ!…遠江先輩?」

今度は、絶対に聞こえるであろう大きさの声で声をかける。すると…ようやくと言って良いのか遠江先輩は、私の声かけにこんな答えを出していた。

「耳元ででかい声を出すんじゃない。ここはコンサート会場か?」

と少し呆れたかのような顔つきで私を見てそんな言葉を返していた。ようやく反応した事に私は喜びを感じ…色んな質問をしてみる。学生時代はどんな感じの人だったか…休日出勤何をするのか…好きな食べ物は何か…だがこの質問全てに返ってきたのは無言というものだけで…遠江先輩は答えてくれなかった。

「…え〜っ…一つ位答えてくださいよぉ〜…」

私はそう言い不貞腐っていたが…遠江先輩は缶コーヒーを買い終わると…あの能面の様な何も無い表情を浮かべ私にこんな言葉を言いその場を去っていった。

「明るいだけが取り柄なのか?だとしたら…相当お前の頭は愉快なんだろうな。」

私はこの時「この人は絶対冗談とか通じないんだろうなぁ〜友達とか居なさそう。」と思い込みながらその日の休憩時間を過ごしていた。だから意外なのだ。そんな人が友人のためにそこまでするのが…。


そんな思い出と二人の発言を照らし合わせて…私は入社半年目の事を思い出す。琴葉さんには言った事は有るが…私が難しい仕事で残業になった時…カバーに入ってくれた人は遠江先輩だけだった。そう考えると不器用なのかも知れないが…。

「…ぶっきらぼう?…いや…あれをぶっきらぼうって呼ぶのかなぁ?…」

そう小さな声でブツブツ言っていると私を呼ぶ声がした。どうやら私は自分の家の前だと言う事に気が付かず…そのまま真っ直ぐ歩こうとしていたらしい。

「侑李?侑李?おーい…侑李!」

私はその優しい声にハッと我に返る。私は優しい声色で呼んだ恭君の方に振り向き…慌てて言葉を口にした。

「えっ!?あっ…えっと?どうしたの?」

すると恭君は私の家を指さし…バチの悪そうな顔をしながらこんな事を言ってきた。

「ほら…侑李の家着いたから…ここだろ?」

その言葉に私は恥ずかしさで頬を紅くし別れの言葉を告げた。なんで気が付かない程考え込んでしまっていたんだろう。少し気にし過ぎてしまっているようだ。

「あっ!ホントだ!ごめん!ありがとう!またね!」

そう言い帰路につく恭君と裕二さんの背中を私は見つめ…見えなくなってから家の中に入る。夕焼けで紅く薄暗くなった玄関で私は考えた。それでも結論は出てこない…何故私や恭君…裕二さんにも自分の過去をあの人は隠していたのだろう。

「分かんないや…」

そう呟き私は自室へ荷物を置きに行った。

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