どうせなら最期に
あれから…琴葉が寝てからどれだけの時間が経っていたのだろう。どうやら僕も寝てしまっていたようで…起きた時にはもう外は真っ暗になっていた。
「…しまったな夕飯の支度はおろか買い物もしていないぞ?」
僕はそう言い携帯を開く時刻はとっくに午後十時を回っている為…ここからスーパーで買い物…なんて事は確実に不可能だった。それを知ってしまった僕は深いため息を零して。そしてヘッドから這い上がり…僕は玄関のある一階へ降りることにした。そうして琴葉の部屋のドアを開け階段を降りようとした時だ。下から物音が聞こえる。いやもうこんな時間だ…流石にあの人が帰ってきている事なんて考えなくても分かるだろう。と自分に言い聞かせ階段を降りた。すると…やはりと言うべきか…リビングいやダイニングから声がして…同時にある人物が、僕の名前を呼びながらこちらへ近ずいてきた。
「あっ!廻君ーっ!今日ありがとうねー。」
と…そう言い僕の元へ駆け寄ってきた三十半ばか後半か位の女性は琴葉の母親だった。この人は何時まで経っても変わっていないような…そんな気がする。
「あははは…お久しぶりですね…亜希子さん。」
僕はそう言い苦笑いを浮かべる。琴葉のお母さん…亜希子さんは、現役で働いてるキャリアウーマンで良く仕事の商談で帰りが遅くなる時…僕か祐介の家に琴葉を預けて仕事に励んでいた。最後に顔を見たのは…確か中学の時だった気がする。
「…いえいえ…幼なじみなんで。当然ちゃ当然の事をしたまでです。それでは今日はこの辺で…。」
そう言い僕が琴葉の家を出る為玄関に向かおうとするが…亜希子さんの言葉と共に、暖かい手が帰ろうとする僕を遮った。
「ああっ!待って!?廻君…お夕飯まだ食べてないよね?…その…琴葉の事のお礼も兼ねてだけど…どう?」
と亜希子さんははにかみながら僕に提案した。今現在の現状を知ってしまった僕はその言葉に甘えることにする。
「…ありがとうございます。頂きます。」
亜希子さんの提案に甘え…一時間は経った頃だった。錦山家のダイニングテーブルの上に…夕食が置かれ…亜希子さんが座りながら僕にこんな言葉を言う。
「色々手伝いありがとうね…さ!食べようか!」
そう言われた後僕は椅子に座りながらその言葉に答えを返す。
「いえいえ…居させて貰ってる身なので…頂きます。」
そうして僕は作られた夕食に手を付ける。野菜炒めに…白米…味噌汁…とごく一般的な夕食…いや夜食は空になりかけていた僕の腹に入るかのように無くなっていった。なんだろう親子だからなのか…味付けが何処と無く琴葉と似ている。
「ごちそうさまでした。」
全て平らげた直後僕が、そう言葉を出すと亜希子さんは笑顔を浮かべながらこんな言葉を呟いていた。
「うふふ…お粗末さまでした。」
コトン…そうダイニングテーブルが音を立てた後置かれていたのは珈琲の入ったマグカップ…どうやら少しばかし夜更けに行われるのは…お茶会ということらしい。
「なんか…見ないうちに大人なったなぁ〜」
僕を見ながら珈琲を啜ろうとする亜希子さんが言った言葉がその言葉だった。僕は苦笑いを浮かべながらその言葉に返答を返す。
「いえいえ…そう大して変わってないですよ。未だに夢を追い続けてるんで。」
僕がそう言い珈琲を啜ると小さく笑い声が聞こえ…亜希子さんは僕に諭す様にこんな言葉を言い放つ。
「いやぁ?小さい時に持った夢を叶えようとする…今の大人じゃできない事をやろうとしてる廻君はホントの意味で大人なんだよ…懐かしい…琴と祐君と…廻君…何時も揃って行動してたもんね。…私が祐君の事気付いてあげていれば…」
そう言った直後…亜希子さんはまるで「後悔」のようなそんな言葉をマグカップに入った珈琲を見つめながら呟いていた。その言葉を聞いた僕は何も返せなくなる。だって…僕も亜希子さんと同じような考え方をしているからだ。でも過ぎてしまった今それを嘆いていたとしても…祐介が帰ってくる事は無い。
「嘆いていても仕方ないのは分かってる…琴と何時も一緒に居てくれる子は廻君含めて…皆優しいから安心してる…ほらあの子抜けてる所あるでしょ?だからね…祐君や廻君と一緒にいるところ見てると安心するのよ。だからね…」
そう亜希子さんが言うタイミングを見計らい僕は言葉を絞り出す。まるで全て分かっているかのように…
「「何も言わないでさよなら」はして欲しくない…ですよね?大丈夫ですよ…そんな事しないでしょうし…それに…」
と最後の最後で言葉が出なかった。だって僕の命は後僅かな時間なのだから。
夕食を頂き…短いお茶会を済ました後僕は錦山家を後にすることにした。
「それでは…おいとまします。」
玄関の前でそう言葉を出すと亜希子さんは微笑み…こんな言葉で僕を見送った。
「ええ…楽しかったよ…また今度ゆっくり話しましょ。」
そうして僕は自宅へ向かうのだが…自宅の前に一人人が立っているのが見えた。街頭で照らされいるが…数少ない光の中で誰かすぐに特定出来なかったが…微かに聞こえる鼻歌の声を聞いただけで誰だかすぐに分かった。
「どうしてこんなとこで突っ立ってんだ?裕二?」
僕はその人影にそう言葉をかけると…聞き覚えのある声でバーに飲みに僕を誘った。
「おう!廻!いやぁ〜たまたま近くよったからよぉ〜…な?今から飲みに行かねぇか?大丈夫!金は俺が奢るよ。」
そう言い街頭の光の中で裕二が僕を飲みの席へ誘う。僕はまるで吹っ切れた様な笑顔を見せ…裕二にこんな回答を言い出した。
「ほほう…じゃあ行こうか。」
裕二と出会い十五分経過した頃。僕らは目的の店のカウンター席に並んで座っていた。既に何を飲むか決まっていた僕らは…着いて早々オーダーを取っており…後は待つだけ。そんな中裕二が僕にある質問を投げかける。
「なぁ?廻?おめぇ近々旅行とか行く気ねぇか?」
そんな突拍子の無い裕二の質問に僕は呆れながらもどうしてそんな事を聞いてきたのか…質問した。
「いや…どういう風の吹き回しだ?今の所予定は無いが…なんなんだ?」
そう言った後裕二は着ているジャケットのポケットから、二枚の紙切れのような物を僕にチラつかせ自慢げにこんな事を言ってきた。
「いやな…今日コンビニのくじで当たってよ!俺使わねぇし…誰か使う人居ねぇかな〜?って。」
そう言いこちらに視線を飛ばす裕二に僕はため息をつき…さらに深く質問する。
「いや…んで僕にそれを渡すってのか?でも生憎お前が持っているのは二枚。じゃもう一人人が余る。残念だが僕にはそんな相手…」
と言いかけた時…ふと琴葉の事が頭によぎった。何故琴葉なのだろう。他に当たってみるのもアリなのかもしれない…だが…それ以外思い付かなかった。
「おいおい…どうしたんだよぉ?なんだ?なんで二枚か気になったか?教えてやっても良いが…多分お前は…」
そう言いまるで「取ってください」と言わんばかりに僕のいる右の手で紙切れの様な物をチラつかている裕二を他所に…僕はその紙切れを強引に持っていく。
「あっ!?ちょっ!おい!」
そう言い焦る裕二。僕はその紙切れの様な物の掴んだ時それの正体を知ることになる。
「コレって…!?」
僕が強引に裕二から持っていったそれは…旅行券だった。なんで裕二は僕にこれを見せてきたのだろうか…それを考えていると…当の本人がこんな事を口にする。
「いやほら…おめぇなら興味あるかなぁ…ってな?気に入らなかったら別のヤツに渡すからよ?」
僕は裕二のその言葉に対する答えをすぐに返す。すると…僕の答えが意外だったのか…目を見開いていた。
「そういうことか…受け取っておく…ありがとう。」
「え?でもおめぇ…」
そう言葉を出すしか出来ない裕二に僕は振り向き…笑みを見せながらこんな言葉を吐く。僕しか言えない…いや…今の僕にしか言えない言葉を絞り出していた。
「どうせなら最期に…遠い場所に行ってみたいんだ。一日だけ今の自分を全て忘れてアイツと…さ。」




