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林檎の実と僕の後悔  作者: 穂先ロア
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ロクデナシと出会った日 ロクデナシと言われた日

時刻は二時を回ろうとしている中廻からこんな事を提案される。僕らは廻のそんな言葉に耳を傾け首を縦に降っていた。まぁ…時間も時間だから仕方ない事なのかもしれないが…。

「よし…この演奏練習で最後にしよう。もう夜も遅い。」

その言葉の後に、エレキベースとエレキギターの音色が音楽を奏で始める。それに少し遅れてやってきたのは廻の歌声だった。

「役立たずと罵られて 最低と人に言われて 要領良く演技出来ず 愛想笑いも作れない。死んじまえと罵られて このバカと人に言われて うまい具合に世の中と やって行くことも出来ない。」

その歌い出しを聞いた瞬間僕は一つ小さな声で言葉を出していた。理由は…今演奏している曲は、廻が良く歌っていたからだ。

「ロクデナシ…か。」

そう言って僕の記憶から蘇って来るものは廻と初めて会った時だった。


廻と出会ったのは高一の時…とは言っても最後らへんだ。正直最初見た時の雰囲気や廻の行動は人として最低だった。僕も こんなヤツが居るからこの学校は悪い噂しか立たない と思っていた位に酷かったのを覚えている。

「音楽室…ピアノでも弾いて落ち着こう。」

僕は高校の時よく放課後に音楽室に行ってはピアノを弾いていた。両親の件で僕が家を出たのは確かだ…でもそれが理由で罪悪感も湧いていた時良く弾きに行ったもんだ。でもその日音楽室に入ることになったのは僕一人だけじゃなかったらしい。ピアノで演奏を開始しようとした途端…閉めていたドアが勢い良く開かれる。ガタンッとドアと木製のサッシが当たる乾いた音が響き渡った後ドアを開けた人物は気だるげにこんな事を言った。

「うげ…先客いるじゃん…ま…いっか。」

ドアを開けた人物はそう言い背負っている長めの鞄…恐らくギターケースを開けある物を取り出す…取り出し終わった物を横目で確認するとやはりというべきか…エレキギターが入っていた。それをアンプと繋ぐ事もなく件の人物はエレキギターを弾き始めた。僕は、それならピアノを弾くのに支障が無いだろうと思いピアノを弾き始める。しかし…ピアノの音と共にアンプも繋いでいないエレキギターの弦だけが爪弾かれる音が入ってしまい…僕はテンポを崩していた。

「あの…別にアンプ繋いで良いんだけど…」

僕がそう口を開いた瞬間…その人物は少し不機嫌な顔をして僕に近付いてきた。

「あ?うるせぇ…俺は後に来たんだから…先客であるお前に譲るのは当たり前だろうが。」

暴君のようにそう言い放った廻の見た目は普通だった。何処にでも居る生徒…そう想像出来るのだが…この口の悪さだ。相当な事をしているに違いない…僕はそう勝手に解釈していた。

「あー…そう…じゃ好きにやらせてもらうよ。」

そう言ってまた僕はピアノの鍵盤に指を置く…そしてまた僕はピアノ演奏を始めた。しかしどうやら時間っていうものは…僕の演奏が気に入らないらしい。またドアが強く開く音が音楽室に響き渡った。その場に入ろうとしたのは いかにも と言わんばかりの外見をした男子生徒三人だった。その三人のうち一人がギターを弾いていた彼に指を指し…怒号をあげる。

「遠江!今日という今日はおめぇをぶっ殺してやるよっ!」

それを聞いて察しが着く。どうやら廻はこの三人組と因縁があるようだ。全くそれから逃げる為に音楽室に駆け込んだのなら…いい迷惑だ。

「あ?何?俺今からギター弾く予定だったんだけど…」

そう彼が言った刹那三人組の一人が彼…廻に殴りかかる。その速さは常人の僕にとっては尋常じゃない速さだった。

「ふざけんなっ!」

しかしその拳が廻の頬を捉えることは無かった。その前に廻がその拳を、平手で止めていたのだ。その時彼らは驚きを隠せていなかったのに対し…廻はニタッと笑いながらこんな言葉を口にする。

「あれぇ?お前ら喧嘩の経験あるんだよなぁ?そんなストレートに殴って良い訳?」

その後廻は拳を握った方の手を背中まで回し…左腕で相手の首を軽く締めかけていた。正直ゾッとした…だってその時の廻の顔は…化け物だったから…。

「あらよっと…。」

そう言い放ちながら抑えていた相手を廻は、壁に叩き付ける。壁にぶつかった相手は声を上げる前に廻に弄ばれた。廻がその人物の顔が見えるようにした刹那…廻の拳は殴りかかってきた人の頬を完全に捉えていた。バコッそんな音が響き渡ると同時に出たのは悲痛な叫び声だった。

「あぁぁぁぁぁっ!痛ぇっ!痛ぇよ!うわぁぁぁっ!」

殴りかかってきた一人がそんな叫び声をあげるのが…決め手だったのだろう。残りの二人は殴られた一人を抱え怯えながら音楽室を後にする。

「おい逃げるぞ!駄目だあいつ化け物だっ!」

そう言い焦ってその場を後にする三人組を見て廻はこう言葉を零す。

「あーあ…弱いなら喧嘩売るなよ。」

そう言って廻もギターをケースに入れ音楽室を後にした。その時の彼の手には血が滲み着いていた…。


演奏をしながら僕は廻と最初に出会った時のことを思い出す。今思えば当時の廻のような人間がロクデナシと呼ばれる部類なのだろうと…。

「生まれたからには生きてやる!」

今そう廻が歌った場面…それを聞いた途端その後日談も懐かしく思えた。それを思い返すとふと笑いが込み上げてくる。


廻と出会った次の日のこと。僕はまた音楽室に立ち寄っていた。でもその日僕は一番乗りに音楽室へ行けれなかった。

「よぉ…昨日ぶりだなピアノ演奏家君。」

そう言う廻を見て僕は嫌気が指した。どうしてあの時人を殴ったのか…僕には理解出来なかった。どうやらそれが行動に出てしまっていたらしい。僕は廻の言葉に耳を傾ける事をしなかった。

「おーい…あれ?無視ですかい?」

そんな呑気な言葉を口にする廻に僕は声をあげる。その声は僕が出せる声の中で一番大きかった。

「昨日…昨日あんな事をした人間なんだぞ!?君は!君みたいな人間…ロクデナシってヤツなんだって何故分からない!?」

僕がそう言うと…廻はまるで聞き流してるかの様な顔をしてこんな腑抜けた事を僕に聞く。

「ふーん…ならさ…なんでお前ピアノ弾いてんの?お前…ピアノ弾く時めっちゃ辛そうな顔してんじゃん。」

そう言ってきた廻に僕は全てを話した。いや…話さないといけなくなってしまったと。言った方が正しいのかもしれない。そうして僕は全てを廻に話した。どうして僕が両親と住んでいないのか…等も。

「…君には分からないかもしれないな…親に期待されるだけされて…失敗したら失望される人の気持ちが。」

そう言った直後僕は廻が放った言葉に驚いた。あんな汚い言葉で前に進んでみようと思えたのは初めてだった。

「ふーん…じゃお前も俺と同じロクデナシだな。期待されるだけされて…失望されて罵られる。そうさせる奴らは分かっちゃいないんだよ。失望されて罵られる側の気持ちをさ…だから俺はそんな奴らの言葉に耳を貸さないようにしてる。だって意味無いもん。昨日の奴らもそんな奴。」

その言葉に僕は何も言い返せなかった。負けた気がした。だから僕は…笑う事しか出来なかった。僕もロクデナシだったんだなって…それと同時に…遠江 廻 という人間が面白く感じた。


そんな物思いにふけながら演奏を続けていると…いつの間にか終わっていた。僕はエレキボードの鍵盤を見るなりまた一つ言葉を呟く。

「ロクデナシと出会った日はロクデナシって言われた日だな。」

そんな言葉が聞こえていたのか…廻がこんな事を聞いてきた。

「どうしたいきなり?」

僕は素っ頓狂な顔をしてそんな事を聞く廻に笑いながらこう言った。

「いや…一つ思い出を懐かしんでいただけだよ。」

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