エピローグ
それから数カ月後のある日曜日。私は今まで住んでいた家の隣の駅に引っ越した。だいぶ広くなった新居のマンションの一室で、缶ビールを片手に出前で取ったピザを囲んでいた。
「かんぱーい!」
カチン、と音を立てて缶ビール4本が当たる。今日は私とディランの新居引っ越し祝いで景子と高達さんを呼んだ、お家パーティの日だ。
「はー! 美味しい!」
「引っ越しお疲れ様ー!」
引っ越しは実質私の荷物だけを運べばよかったので、簡単なものだった。それでも、いつの間にか物が増えていて、いらないものを捨てたりするのは結構大変だった。ようやくこうして落ち着けたことにホッとしている。
「それにしても、オシャレねー」
景子は辺りをぐるりと見渡す。
「流石ヨーロッパって言うの? 家具もアンティークっぽくてちゃんとしてるしさ、すごいねディラン」
「ありがとう」
私も部屋にある家具を眺める。しっかりとした食器棚に、オシャレな飾り棚。ピザを置いているダイニングテーブルだってしっかりしているし、同棲にしてはすごくちゃんとした家具が揃っていると思う。
これらの家具はロンド王国から持ってきてくれたものだ。と、いうか、何とジュークさんがすべてくれたらしいのだ。
「使ってない家具が多いから」とのことで、あのお城のような屋敷にある家具の中から、使えそうなものを見繕ってわざわざ魔術で送ってくれたらしい。しかも、ディラン曰く、実はあの屋敷で見たこともなかった家具も含まれるらしく、ちゃんと言わないけれどどうやらディランのために購入してくれたものもあるみたい。
口にはしないけれど、ディランのことを思ってくれるジュークさんに心が温かくなる。私はディランと顔を合わせて微笑んだ。
「それにしてもさ、驚いたよ。ディランが翼さんの遠い親戚だったなんて!」
ピザを頬張りながら景子が興奮気味に言う。
「そんな偶然ある!? って感じ。驚いちゃった」
ロランさんがどう工面してくれたのかはわからないけれど、ディランの日本戸籍がちゃんと手に入った。新しいディランの名前は「羽田ディラン」。なんと、ロランさんの親戚ということになっていた。
つまり、ディランと高達さんは遠い親戚になったということだ。
「血は繋がってないけどね」
「それでもさ、びっくりしたよ。だけど、確かに翼さんも日本人離れした見た目してるけどさ。なるほどねって感じ」
高達さんはしっかりロンド王国の血を継いでいる。景子は高達さんのお祖父さんが外国人だと聞いたらしく、高達さんの顔を見ながら何度もうなずいていた。
魔術師のことはなるべく人に言わないほうがいいということで、景子には言っていない。いつか言えたらいいな、とは思うけれど。
「だけどさ、いくら血が繋がってないとはいえ、瑠璃もディランと結婚したら翼さんと遠い親戚になるんだよねぇ」
「いつか景子とも親戚になるかもね」
「それは……まぁわかんないけど」
景子は途端に恥ずかしそうに口ごもる。チラチラと高達さんを見る表情が可愛らしい。
しかし、ディランはなんとも微妙な表情をしている。まだどうも高達さんのことが受け入れ難いらしく、親戚になったというのに微妙な心持ちなのだろう。高達さんは気がつかないようにただ微笑んでいるだけだけど。
「瑠璃はこれから結婚準備だもんね」
「うん」
私はディランにプロポーズもされ、これから式に向けて準備をする。手始めに来月、私の両親に挨拶に行くことになっている。
「一年前までは彼氏もいなかったし、結婚も考えてなかったから不思議だよ」
「進みが早いよね。だけどさ、二人共お似合いだもん。いいと思うよ」
「そうかな」
ディランを見ると、優しく微笑んでいた。ようやく一緒に暮らしはじめたばかりだけれど、これからもずっと一緒だと思うとやっぱり嬉しい。
ちなみに、結婚式には絶対に行くと宣言したジュークさんは、魔法陣の改良を進めているらしい。もし、もっと気軽に日本との行き来ができるようになれば、時間を構わずジュークさんがやってきそうだと、ディランは苦笑いしながらもどこか嬉しそうだった。
「結婚式には招待してよね!」
「もちろんだよ」
「俺も招待してくれるんだよね?」
「ツバサは……」
「しますよ、します。ロランさんも呼びますからね」
ディランは不満そうに口を尖らせていて、子供みたいな仕草にくすりと笑う。
「瑠璃の結婚式かぁ。ウェディングドレス姿楽しみだな」
「絶対に綺麗だよ」
二人がいるにも関わらず、ディランはそう言って甘い笑顔を私に向ける。思わず顔が熱くなって、そんな自分が恥ずかしい。
「本当は誰にも見せたくないけど」
「ディランって意外と独占欲強いよね……」
景子がそう言って笑う。私の友達とディランの友達。そして、隣には大好きなディランのいる結婚式。欲しいものすべてを手に入れたような結婚式を想像して、思わず私は微笑んだ。
ディランと目が合うと、笑顔を返してくれる。
「これからはずっと一緒だよ」
そう幸せそうに笑うから、私もより一層の幸福感に満たされて、笑顔を返すのだった。




