後日談
夜。
仕事終わりの、いつもの時間。
ソファに腰を下ろしたレオが、ふと思い出したように口を開く。
「今日さ」
「職場で聞かれた」
ラーナはちらっとだけ視線を向ける。
「“レオ先生ってご結婚されてるんですよね”って」
「……ふうん」
「“奥さん、どんな方なんですか?”って」
一瞬、間。
「……で?」
「困った」
「……なんで」
「正直に答えると惚気っぽくなるから」
「……なんて言ったの」
「“しっかりしてて可愛い人”って言った」
「……惚気になってるじゃん」
「たしかに」
あっさり認める。
「……やめてよ」
「なんで」
「普通に恥ずかしい」
「今さら?」
少しだけ、笑う。
「でもさ」
一拍。
「最初からああだったよね」
「……何が」
「しっかりしてて、近寄りがたい感じ」
「……」
「で、ちょっと崩れると可愛い」
「……やめて」
「褒めてるのに」
軽く言って、レオはソファに背を預ける。
「今思うとさ」
「初対面の時から、たぶん惹かれてた」
「……は?」
ラーナは視線だけ向ける。
レオは気にせず続ける。
「表情から感情が読めなくてさ」
「全然わかんないのに、ちゃんと見てる感じがして」
「気になった」
「……私は第一印象最悪だったけど」
「だろうね」
レオは少しだけ笑う。
「だる絡みしてたし」
「自覚あるんだ」
「あるよ」
「だから面白かった」
「……最悪」
ラーナは小さく息を吐く。
「ラーナは?」
「……なにが」
「いつから俺のこと好きだったの?」
少しの沈黙。
「……知らない」
「えー、教えてよ」
「ほんとにわからない」
ラーナは視線を逸らす。
考えるように、言葉を探す。
「ずっと、ムカつくやつだと思ってた」
「うん」
「邪魔してくるし」
「普通にしたいのに」
少しだけ、間。
「……集中できなくなって」
その言葉が落ちる。
「……ふーん?」
レオが、わずかに笑う。
「なんで集中できなくなったんだろうね」
「……知らない」
「ほんとに?」
少し、距離が詰まる。
昔と同じように。
「……近い」
「懐かしくない?」
「ない」
「俺はなるけど」
軽く言って、レオはそのまま続ける。
「最初からさ、ちゃんと見てたでしょ」
「……」
「俺のこと」
ラーナは答えない。
けれど。
「……見てた」
小さく、落ちる。
「やっぱり」
レオが、小さく笑う。
「たまにさ」
「絶対こっち見てるときあった」
満足そうに笑う声。
「……ムカつく」
「知ってる」
即答。
「でもさ」
少しだけ、声が柔らぐ。
「そのムカつくやつと結婚したの、ラーナだよ」
「……」
言い返せない。
「……ほんと最悪」
「ひど」
同じ調子で返す。
そのまま、少しだけ沈黙。
けれど、不思議と嫌じゃない。
昔と同じ距離で。
今は、隣にいる。
ご愛読ありがとうございました!!
次回作でまたすぐお会いしましょう。




