第8話:全部は渡さない
金運最強、人運最悪だった男が――
異世界で“真逆の運命”を背負わされます。
ゆるく読める逆転系コメディです。
「……いいよ」
俺の一言で、盗賊の顔がぱっと明るくなる。
「お、話がわかるじゃねぇか」
肩をバンバン叩かれる。
痛い。
だが――
(時間は稼げた)
横を見る。
レナは、何も言わない。
だが、視線だけが動いている。
周囲、人の数、距離。
全部、見ている。
「で、どれくらいくれるんだ?」
盗賊が手を差し出す。
完全に“もらう前提”の顔だ。
(さて、どうするか)
選択肢は三つ。
全部渡すか。
戦うか。
逃げるか。
どれも、ダメだ。
(なら――作るしかねぇ)
「ちょっと待って」
俺は手を上げる。
「なんだ?」
「ここじゃ目立つ」
周囲を見る。
人は多い。
視線も集まっている。
「場所変えない?」
一瞬、空気が止まる。
(ここだ)
「……はは」
盗賊が笑う。
「気が利くじゃねぇか」
――乗った。
「じゃあ、こっち来い」
人混みから外れる。
少し離れた路地。
人気が減る。
(いい流れだ)
そして――
「で?」
盗賊が振り返る。
「どれくらい出す?」
俺は、ゆっくりと袋を取り出す。
中には、今日稼いだ金。
――その“半分”。
「これでどう?」
「……少ねぇな」
眉が寄る。
「全部じゃない」
俺は言う。
「でも」
一歩近づく。
「これからも稼ぐ」
盗賊の目が、わずかに細くなる。
「ほう?」
「今日だけじゃない」
「明日も、その次も」
「……で?」
「その代わり――」
一瞬、言葉を切る。
「見逃してほしい」
沈黙。
(頼む、乗れ)
だが、ただのお願いじゃない。
これは――
(“餌”だ)
「俺たちが稼げば、あんたらも得する」
盗賊の顔が、少しずつ変わる。
「毎回全部奪うより」
「少しずつ取った方が、長く取れる」
完全に、ビジネスの話だ。
そして――
「俺は逃げない」
はっきりと言う。
「逃げても、どうせ見つかる」
事実だ。
この人運じゃ、どこ行っても目立つ。
「だから――」
袋を差し出す。
「“続く方”選ばない?」
沈黙。
数秒。
長い。
(まだか……)
「……くく」
盗賊が、笑った。
「やっぱお前おもしれぇな」
(来た)
「いいぜ」
手が伸びる。
「今回はそれでいい」
袋が、奪われる。
だが――
(半分は残った)
完全な負けじゃない。
「でもよ」
盗賊が顔を近づける。
「次もちゃんと持ってこいよ?」
「……ああ」
「逃げたらどうなるか、わかってるよな?」
「わかってる」
笑う。
向こうも笑う。
最悪の意味で、成立した。
「じゃあな、リオ」
盗賊たちは去っていく。
完全に見えなくなってから――
「……はぁ」
息を吐く。
「最悪」
レナが呟く。
「わかってる」
「搾取構造できた」
「でも、全部取られるよりマシだろ」
「……まぁね」
少しだけ、間。
「でも」
レナがこちらを見る。
「これ、“負け”だから」
「……ああ」
否定はしない。
これは勝ちじゃない。
ただの延命。
(でも――)
手元には、金が残っている。
全部じゃない。
だが、ゼロでもない。
(前よりはマシだ)
「次、どうする」
レナが聞く。
俺は少し考えて――
「潰す」
「は?」
「この状況ごと」
あいつらも。
この構造も。
全部まとめて。
(奪われる側で終わる気はねぇ)
こうして俺は――
“奪われながら稼ぐ”という最悪の状況から、抜け出すために動き出した。
読んでいただきありがとうございます!
よければブックマーク・評価してもらえると嬉しいです。




