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【書籍①巻 8/3発売!】 推しの悪女の侍女になりました 〜断罪フラグ? 推し愛で全てへし折ります〜【コミカライズ進行中】  作者: 海城あおの
第四章 ソレイユ学園編

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10. おもしれぇ女

 

 後日、私は一人で旧校舎裏のベンチでサンドウィッチを食べていた。

 今日はロザリア様が商会の仕事で学園をお休みされている。私も一緒に休もうとしたのだが、ロザリア様から「休むほど成績に余裕はないでしょう?」と叱られてしまった。正論すぎて言葉が出ない。

 ロザリア様がいない以上、高位貴族用の談話室は使えない。かといって食堂へ行くにも、気軽に一緒に食事ができる友人はいない。


(ぼっち飯なんて全然寂しくないけど!)


 自分に強く言い聞かせながら、サンドウィッチを一口かじる。ハムと卵が挟まれていて大変おいしかった。寂しくなどない。

 ぼっちに優しいこの場所を見つけたのは偶然だった。

 薬草学の授業は旧校舎で行われている。その帰り道、校舎裏にある小さな庭園を見つけたのだ。

 きちんと手入れはされているものの、本校舎の庭園に比べれば規模はかなり小さい。だがその分人通りがほとんどなく、静かだった。

 少し離れた場所では、雨上がりの葉が風に揺れている。湿った土と草の匂いがかすかに漂っていた。

 サンドウィッチを食べ終え、そろそろ勉強しようと参考書を開こうとした、その時だった。


「やあ」


 穏やかな声が背後から聞こえて心臓が跳ねる。

 振り向いた先に立っていたのは、ユリウスだった。


「で、殿下……!」


 私は慌てて立ち上がろうとする。

 しかしユリウスは軽く手を上げた。


「ああ、いいよ。座っていて」


 子爵家の娘である私にも、驚くほど気さくな物言いだった。

 とはいえ、相手は第二王子である。座ったままというわけにもいかずに戸惑っていると、ユリウスは当然のように隣へ腰を下ろした。


「ほら、君も座って」

「……失礼いたします」


 促されるまま、私はぎこちなく再びベンチへ腰を下ろした。一方で頭の中は、完全に混乱していた。


(なぜユリウスが私のところへ……!?)


 普通に考えれば辺境の子爵家の娘であり、しかも侍女でもある私など、第二王子が興味を持つ相手ではない。

 だが彼はまるで以前からここへ来るつもりだったかのように、穏やかな顔で隣に座っている。

 彼はゆっくりと口を開いた。


「前に、ロザリアに兄上ともう一度婚約してほしいという話をしただろう?」

「……はい」


 私は警戒しながら頷いた。あの提案を聞いたとき、正直なところ怒りで頭が沸騰しそうになった。

 ロザリア様がどれほどひどい形でアランから婚約破棄されたのか、全て最初から語って差し上げようかと思ったくらいである。

 するとユリウスは驚くべきことを言った。


「その件、君からも説得してくれない?」

「──は」


 間抜けな声が漏れた。あまりにも予想外すぎて、開いた口が塞がらない。喉の奥から怒りがせり上がるが、感情のまま言葉をぶつけるわけにはいかない。

 どうにか不敬にならないよう、私は慎重に言葉を選んだ。


「私は一介の侍女に過ぎません。主人の意向に口を出すことなど……」

「君ならできるだろう?」


 確信めいた口調にぎくりとする。

 ユリウスの緑の瞳が、すっと細められた。まるで盤面上にある駒の位置を確認するように、私を見ている。


「あのロザリアが、自分に関わる話に侍女を同席させるなんて普通はありえない」

「……」

「それに、王妃の地位を捨てたこともね。あれは、彼女が長年望んでいた地位だったはずだ」

「それは、以前のロザリア様が望んでいたものです」


 思わず反発していた。言ってから、しまったと思う。

 けれどユリウスは怒るどころか、面白そうに笑うだけだった。


「やっぱり、君はロザリアの変化をよく知っているんだね」


 指先で私を示しながら、ユリウスは続ける。


「君にとっても悪い話ではないはずだよ。ロザリアが王妃になれば、君は王妃付きの侍女になれる」

「……」

「今の地位と比べれば、よほど名誉な立場だ」


 世間一般から見れば、ユリウスの言葉は正しいのだろう。

 王妃付きの侍女。それは確かに名誉ある地位だ。子爵家の娘としては望んでも簡単に届く場所ではない。

 だが、私にとってそんなことはどうでもよかった。

 私は名誉のためにロザリア様のそばにいるのではない。私がいたいのは、ロザリア様が望む未来の中だ。

 膝の上で拳を握りしめる。


「私は、自分の利益など興味ありません」


 声が、思ったよりはっきり出た。

 私はユリウスの緑の瞳をまっすぐ見据える。


「私が願っているのは──ロザリア様の幸せだけです!」


 そう言い切った瞬間、ユリウスの瞳がわずかに開かれた。

 彼はしばらく、まじまじと私の顔を観察する。恐ろしく整った顔で見つめられると、ひどく居心地が悪い。

 だが、ここで目を逸らしたら負けだ。そう思って私は必死に視線を逸らさず見つめ返した。

 やがてユリウスは楽しそうに笑った。


「へえ。君、面白いね」


 その瞬間、ぞわりと悪寒が走った。嫌な直感が走る。

 どうやら私は、とんでもなく厄介な人に興味を持たれてしまったらしい。

 ユリウスはベンチから立ち上がり、私の前に立った。おそおそる見上げると、彼は相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。


「ロザリアが休みの日、君はここにいるのかな?」

「……ええ」

「なら、僕も時々来ることにするよ」

「へ!?」


 とんでもない提案に、思わず声が裏返った。

 嫌だ。ユリウスと二人きりで昼食など、平穏な学園生活に大きなヒビが入る。いや、ヒビどころか粉砕される。

 私は苦肉の策で言葉を絞り出した。


「で、殿下が、私なんかと二人きりで昼食を取っていると噂になれば、殿下にもご迷惑が……」

「ここは人通りが少ないから、噂にはならないと思うよ」

「そういう問題ではありません!」

「では、ロザリアのところへ行こうかな。彼女に直接相談した方が早そうだ」

「ここでお待ちしております!!」


 即答だった。

 ロザリア様はただでさえお忙しい。

 学園の勉強に、商会の仕事。そのうえ、アランや王家に関わる問題まで背負わされている。

 ここでさらにユリウスの相手までさせるわけにはいかない。


(私がここに来ることで済むなら……!)


 私に選択肢などなかった。ロザリア様の幸せのために、できることをするだけだ。

 観念した私を見て、ユリウスは満足そうに笑った。




「おもしれぇ女」枠に入っちまいましたね・・・。


次回からは、毎月第1日曜日の夜に更新予定です!

のんびりお待ちいただけたら嬉しいです!




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