表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍①巻 8/3発売!】 推しの悪女の侍女になりました 〜断罪フラグ? 推し愛で全てへし折ります〜【コミカライズ進行中】  作者: 海城あおの
閑話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/60

番外編:ルジェが女神に惹かれた理由


ルジェがフィローレに執着するようになったきっかけのエピソードです。




 ある日の放課後、ルジェはいつものように学園の大聖堂を訪れていた。ここは学園の生徒なら誰でも祈ることができるよう、常に開放されているのだ。

 ステンドグラスは月明かりを受けて輝き、アストレイヤ様の彫刻は世界を見下ろすように佇んでいる。その沈んだ静謐が、ルジェは好きだった。

 特に生徒たちが帰った後の、完全な静寂が訪れる時間がお気に入りだった。

 だが、その日は違った。先客がいたのだ。

 桃色の髪を持つ女生徒が、祭壇の前で深く祈りを捧げている。祈りに没頭するあまり、ルジェが入ってきたことにも気づいていない。


(この女性は……)


 名前は何度も耳にしていた。フィローレ・ランシェ。

 元々は平民だったが、光の魔法に目覚めたことで男爵家へ引き取られた女性。

 教会派の間では、彼女を巡って意見が割れていた。

「女神の祝福を受けた存在として讃える者」と「平民上がりだと不満を漏らす者」。ルジェはどちらにも属さず、周りの動向を冷静に観察していた。下手に関われば、勢力争いに巻き込まれ、今まで積み上げてきた地位も評判も一気に崩れ去ってしまう。もちろん、フィローレ本人にも必要以上に近づかないよう注意してきた。


(出直した方がいいか)


 ここで関わりを持ってしまえば、今までの努力が水の泡だ。踵を返そうとしたその瞬間、祈りを終えたフィローレが顔を上げた。水色の瞳が、こちらをまっすぐ射貫く。

 そして静かに──微笑んだ。

 ステンドグラス越しに差し込む月明かりが、色とりどりの影を大聖堂の床へ落としている。

 アストレイヤ様の彫刻は半分だけ光を受け、もう半分は闇に沈んでいた。大聖堂には風の音すらなく、世界が息を潜めているようだった。

 フィローレは歌うように名を呼んだ。


「ルジェ様、ですね?」

「ど、どうして僕の名前を……」


 声が掠れていた。一歩後ずさりする。

 フィローレは軽やかに近づいてくる。石床に響く革靴の音だけが、静寂の中でやけに大きく響いた。

 そしてルジェの前に立ち止まり、小首を傾げる。桃色の髪の毛がさらりと揺れ、月光を受けて淡い輝きを宿した。


「ずっとお話ししてみたかったんです」

「なぜ……」


 問いかけようとした瞬間、フィローレは両手をそっと目の前に差し出した。

 まるで壊れやすい大切な何かを守るような優しい仕草。すると手のひらの間で、温かい光が生まれた。ぽわり、と淡い光が花開く。

 その光を眺めていると、胸の奥がじんわり緩んでいくようだった。酔ったように頭がぼうっとし、思考が甘く溶けていく。

 ステンドグラス越しの月明かり。アストレイヤ様の神秘的な横顔。風の音さえも聞こえない夜の静けさ。

 その中心で──フィローレが美しく微笑んでいた。

 世界を構成する全てが、神話の一ページのように思えた。


(あぁ……僕は今、女神の前にいるんだ)


 この瞬間のために生きている。そう思うほどの恍惚だった。

 もっとだ。もっと深く、もっとすべてを。

 命のすべてを、この方へ捧げなければ。

 胸が熱くなり、魂が震えた。

 心臓が締め付けられるほどの崇拝がこみ上げ、膝が折れそうになる。

 そんなルジェの様子を見ながら、フィローレは小さく呟いた。


「ふふ、効き目は十分ね」


 何のことか分からない。ただフィローレが満足そうに笑っている。その事実だけで十分だった。

 彼女は言葉を紡ぐ。


「貴方にお願いしたいことがあるの」

「はい、何でもおっしゃってください」

「ふふ」


 フィローレは小さな宝物を手に入れた子供のように、かわいらしく微笑んだ。

 彼女のお願いを聞き終えたルジェは、迷いなど微塵もなく、大きく頷く。


「お任せください。『手札』として使える女が何人かいますから」

「手札?」

「えぇ。勝手に僕に惚れて、勝手に僕に尽くしてくれる連中です」

「まあ……なかなかの良い性格ね。原作通りだわ」


「原作」という単語が何のことか分からなくて、ルジェは首を傾げる。しかしフィローレは曖昧に微笑むだけだ。

 ルジェもつられて微笑む。意味など分からなくてもよかった。

 フィローレが望むのなら、きっとそれが正しいのだ。

 たとえ自分の手が汚れようと、たとえ誰かの人生を踏みにじろうと、ルジェは構わなかった。

 フィローレが笑ってくれるなら、全て報われるのだから。




番外編をお読みいただき、ありがとうございます!

久しぶりに(クズキャラ)ルジェ君を書けて楽しかったです(笑)


そしてお知らせです!


このたび、本作が8/3に書籍として発売されます!

予約ページも公開されております。

発売日にも改めてお知らせしますので、気になる方はぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

(下にリンクがあります)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



【書籍版、8月3日発売です!】

皆さまの応援のおかげで、
『推しの悪女の侍女になりました』が
書籍になりました!

書籍版では、WEB版の加筆に加え
書籍でしか読めない
書き下ろし短編を2編収録しています。


さらに
初回限定・電子書店限定特典もあります!


ロザリアとソレイユの物語を、
ぜひ書籍でも楽しんでください!


▼ 8月3日発売・ご予約受付中

『推しの悪女の侍女になりました』書籍版予約受付中

Amazonで予約する

その他の販売サイトは こちら

特典情報は こちら

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ