静謐な聖堂(2)
「――では、現状を説明いたします。現在、聖王国の各地でアンデッドが大量発生しております。正確な数はわかりませんが、一日に数百件の目撃情報が寄せられることも珍しくはありません。一体だけであったり群れであったりと、遭遇する数はまちまちですが、これだけの規模でアンデッドが発生したことは、これまでに一度もありませんでした」
そういえば、聖王国では過去に一万体ほどのアンデッドが発生した事があったんだったな。そのときは氷室が解決に尽力して、事なきを得たんだったか。
「これだけの事が起こっているのです。なにか原因があるはずだと思い調べてみたところ、ある方向でのアンデッドの目撃情報が一際多いことに気がついたのです」
「ある方向とは?」
アリスがセレスにたずねる。
「メイソンという町がある方向――つまり、ここ王都からベネット王国の逆方向です。そして、その方向に今回の元凶があると考えられます。しかし、その方向のほぼ全域が深い森なのです。とても常人が調査を行えるような場所ではありません」
「そこで僕の出番というわけだ。でも僕だけじゃさすがにキツイからね、それで三人に協力してもらうことになったんだ」
つまり、今回調査を行うのは深い森の中というわけだ。
正直森の中に泊まるのはもう懲り懲りなのだが、今回は別に一人というわけではない。それがある分、少しだけ心持ちは楽だった。
「その森はどのような所なんですか?」
「そうだね……普通に歩いているだけでも、Bランクの魔物くらいなら一日に何度も遭遇するくらいには危険な場所だよ。かく言う僕も何度か入ったことがあるけど、正直一人だとかなりきつかったね」
アリスの質問に氷室が答える。
……いやまて、一日に何度も高ランク魔物に出会うとか、望んでいるときならまだしも、望んでいないときにそう何度も遭遇するのは相当めんどくさいな……。
「別にそこまで魔物が強いわけではないんだけど、その数が尋常じゃないんだ。一体の魔物と戦っていたら違う魔物がやってきて、そしてその戦闘音を聞いた魔物がさらに押し寄せる。そして最終的に強力な魔法を使わざるを得ない状況になって、仕方がなくそれを使うとさらにその音を聞いた魔物が押し寄せる……。そして、魔物たちを完全に倒しきる頃には、あたりは血の海で肉の山さ」
『うわぁ……』
俺たちから同じような声が漏れる。アリスとアルバニアも、俺と同じような心境のようだ。
氷室がいるからまだいいが、俺たちだけだったら死ぬか、確実にけがを負うだろう。いつも狩りをしている所とは危険度があまりにも違いすぎる。
もっと気を引き締めなければ。
「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫さ。今回の目的はあくまでも調査だ、戦闘じゃない。それに事前調査では、魔物の数が明らかに少なくなっていたらしいんだ。魔物にはできるだけ見つからないように行動するし、もし見つかったとしてもすぐに倒したり、場合によっては逃げればいい。そう気負うことはないさ」
「確かにお前がいるしそれは大丈夫だろうが、どれくらいの期間森の中にいるつもりなんだ? 調査なんだから、数日なわけがないしな」
「原因が判明すればすぐにでも帰ってこれるけど、遅くても一ヶ月くらいかな。その頃には持っていく食料も尽きるだろうし、あまり長居するのは精神的にもよろしくないしね」
氷室の言っていることには共感できる。俺は森の中に数日いただけでつらくなったしな。
そのときは一人だったが、それを考慮したとしても森の中に長居するのは精神的にもよくないことは、身をもって実感したことだ。
「それもありますが、一度調査報告を持って帰ってもらわないといけませんからね。食料を一ヶ月分しか渡さないのは、それも理由にあります。アンドレに限って死ぬことはないでしょうが、お三方は心配でなりません。一ヶ月以上帰還しないのであれば、こちらとしても捜索隊を出さなくてはいけないですからね」
俺たちはそこまで心配されるほど弱くはないが、確かに氷室と比べればどうしても弱く見えるのは仕方のないことか。
「『アンドレに限って』ってなんですか、私でも普通に死にますからね?」
「アンドレを殺すならSランクの魔物を十頭は用意しなくてはならないでしょう? 冗談がきついですね」
「……いや、冗談きついのはどっちですか。私の方がセレスティア様の冗談にびっくりしてますよ」
セレスはからかうように笑い、氷室は呆気にとられたようにげんなりとした表情を浮かべた。
……ずいぶんと仲いいな、二人はいつもこんなやり取りをしてるのか?
「――って、それはいいんですよ! 話の続きをしてもよろしいですか?」
「かまいません」
「……とにかくここを発つ日時は未定だけど、近いうちには出発しようと思っている。宿はこっちで用意しているから、きちんと準備を整えておいてほしい。なにか質問はある?」
「いや、今はない。わからないことがあれば随時聞くことにするさ」
今すぐにと言われてもなにも思いつかなかったが、またあとから出てくだろう。それからでも遅くないはずだ。
「わかった。じゃあ奏多、この後少しいいかな?」
「なにかするのか?」
「うん、奏多たちの強さがどれくらいが知っておきたいんだ。つまり、模擬戦をしようか――」




