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まさかの再会

 俺たちは聖王国の王都へと到着した。


 ここに来るまで四度も魔物の襲撃を受けたのだが、そのうちの三回はアンデッドによるものだった。それほど強くなかったので苦戦はしなかったが、これだけの短期間に何度もアンデッドと出会うのは明らかにおかしい。

 やはりと言うべきか、予想していた通り生態系が狂っているようである。



 日もまだ高いので、俺たちは集合場所である教会に行くことにした。

 前に来たときに教会の位置は把握しているので、迷うことなく教会に来ることができた。


 教会のに入ると近くに人が立っていたので、その人に用件を伝えるとそのまま教会の中にある一室に案内された。

 どうやら先にアンドレアスと顔を合わせるらしく、ここで待っているように言われたのだ。


 俺たちは出された紅茶と焼き菓子を食べながら時間をつぶす。そして、三十分ほど待っていると、部屋の扉がノックされアンドレアスが中に入ってきた。


「――失礼、お待たせしました。わざわざ足を運んでくださり、誠にありがとうございます。私がここ、聖王国の勇者である『アンドレアス・ボールドウィン』です。お見知りおき、を……え?」


 アンドレアスはなぜか俺を見て動きを止めた。

 俺の背に冷たいものが走る。まさか俺のしたことがばれたのかと。


「えっと、奏多(そうた)……だよね?」

「……確かにそうだが、どうかしたか?」


 アンドレアスは恐る恐るといった様子で、俺に尋ねてきた。

 急になにを言ってんだこいつ……まるで意図がわからないし、不気味なことこの上ない。


「や、やっぱり奏多だ……っ!」


 アンドレアスはそう言うと、俺の両手を握ってきた。俺はアンドレアスの突拍子もない行動に意表を突かれ、硬直する。


「奏多、僕だよ! 『氷室(ひむろ)伊織(いおり)』だよ! 覚えているよね!?」

「……は? 氷室? おい、それって……っ!」


 俺には心当たりがあった――いや、心当たりしかなかった。

 氷室伊織。高校のクラスメイトだったやつの名前だ。別にそこまで仲が良かったわけではなかったが、クラスの中では一番気が合ったやつだ。

 しかし、疑問が残る……なぜそんなやつがこんなところにいるのかと。


「よかった、覚えててくれたんだね!」

「ほ、本当に氷室なんだよな?」


 俺は念のためもう一度確認する。それくらい衝撃だった。


「もちろんさ! よかった、奏多に会えて……っ」


 氷室はうすく涙を浮かべた。

 ……確かに、今思えばアンドレアスの性格は氷室とほぼ同じと言っていいほどに酷似していた。


「なぁ、もしかしてお前は『転生』したのか?」

「うん、()()()()()だね。こっちの世界に来たとき、すごく驚いたのを今でも覚えているよ」


 二十一年前……? もしかして、転生と転移ではこちらの世界に来るまでの時間に差があるのか? そうじゃなきゃ説明がつかない。


 ……それにしても、アンドレアスが氷室だったのか。

 かつての知り合いに剣を向けてしまった。罪悪感を覚える。胸が塞がる思いだ。


「…………えっと、ソータ? 状況を説明してほしいんだけど?」

「え? あっそうか! わかった、説明する」


 俺でさえ混乱してるのだ。ただでさえアリスたちは事情を知らないんだし、理解不能になるのも当たり前か。


「前に俺が転移者ってことは言ったよな?」

「そうね」

「はい」


 俺が転移者だということを二人はすでに知っている。

 アリスはかなり前に言ったが、アルバニアにも少し前に伝えたのだ。別にそこまで隠す必要のないことだしな。


「こいつは俺が元の世界にいたときの、知り合いが転生したやつだったんだ」

「友達じゃなかったけ?」

「いや、クラスメイトで知り合いだっただろ?」


 どうやら俺たちには認識に齟齬(そご)があるみたいだな。まぁ、前からよくあったことだが。


「つまり、転移前の知り合いってこと?」

「まぁ、そんな感じだ」


 まさか再びこいつに会うなんて思ってもみなかった。姿が変わろうと、明らかに性格は氷室そのものだ。

 ……なんで今まで気がつかなかったんだろうか。


 俺たちは依頼のことは忘れて、今までのことを話し合った。

 こっちに来てからのこと、仕事のことなど、たがいに結構苦労していることがわかった。


 俺は氷室にこの世界に来た経緯を質問する。


「――ところで、お前はなんでこっちに来たんだ? 向こうでなにかあったのか?」

「あったと言えばあったね。学校から帰っている途中、道路に小さな女の子が飛び出したのを見たんだよ。トラックに轢かれそうだったから咄嗟に助けたんだけど、無理に助けたものだからそのまま僕が轢かれてしまったんだ。……まぁ、その行動には後悔してないよ」


 俺はその話に既視感のようなものを覚えた。どこかで似たようなものを見た気がするんだが……いつだったか。

 少し考えていると、その既視感について思い出した。


「そういえば、ここに来る前にネットのニュースで似たような記事を見たな」

「えっ……? 本当に?」

「あぁ、その記事の見出しにも『女の子を助けた高校生がトラックに轢かれた』って書いてあったしな」


 確か『全身を強く打ち』とも書いてあったが、これは言わない方がいいだろう。自分の死体がどんなことになったのかなんて、誰も聞きたくはないだろうしな。


「ねぇ、助けた女の子は無事だったかわかる?」

「軽い打撲はあったらしいが、無事だったはずだ。……あんまり覚えてないから、たぶんだが」

「そう……ならよかった」


 氷室は心底安心した様子で息を吐く。

 相変わらず、氷室は利他主義的な人間であるようだった。俺とは真逆の性格ではあるが、なぜか不思議と馬が合うんだよな……。本当に不思議だ。


「……なぁ、そういえばここでずっと雑談しててもいいのか?」

「あっ、ごめんっ! そういえばそうだった! 僕についてきて、会ってほしい人がいるんだ!」


 氷室は『やってしまった』といった表情を浮かべ、急いで席を立つ。俺たちも席を立つと、氷室の後ろについて部屋を出ていった。



 ――いや、ちょっと待て。氷室が勇者だったんなら、無理に研究所に侵入しなくてもよかったんじゃないか?

 勇者というくらいなんだから、ある程度の権力は持っているはずだし、少し頼めば資料くらいなら見せてくれた気がする。ていうか、普通に見せてくれただろう。

 ……骨折り損もいいとこだな、マジで……。

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