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欷歔

「……アリス、やっぱりソータさんのことが心配ですか?」

「へっ!? え、えぇ、まぁ」


 私は急に姉さんに話し掛けられたので驚いてしまった。

 私たち襲撃部隊は、もう少しで帝国軍の本陣に着くところまで来ている。……途中で現れた転移者をソータが足止めしてくれているおかげで――。


「大丈夫です、ソータさんならあのくらいの者でも、決して負けることはありませんよ」

「……そうね、そうよね! ソータならきっと大丈夫よね!」


 少し前に聞こえてきたものすごい爆発音、そして木々をはるかに上回る高さまで上がった爆炎。それらはソータが転移者と戦っているあたりから発生していた。

 きっとソータがやったのだろう――私はそう思うしかなかった。そうでないと、耐えがたい不安がこみ上げてくるから。

 私は、ただ祈ることしかできなかった。


「……」


 私の行動は、これで合っていたのか? あのとき、無理を言ってでもソータと一緒に戦うべきじゃなかったのか?

 もちろん、あそこでソータが私たちを逃がしてくれた理由はわかる。

 転移者の攻撃を見たけど、ソータは一度攻撃を受け止めただけで苦しそうに声を上げていた。あれを何度も受けるのは、いくらソータでも無理なのだろう。


 私がいても邪魔だったかもしれない。けど、だとしてもソータに敵を押し付けるのは、あまりに酷な選択だったと思う。

 私は下唇をかんだ。


「――おおかた、私はアリスがなにを悩んでいるのかがわかりますが、心配し過ぎです。ソータさんはできないことをできると言いません。それに、もしソータさんが危険な状況に陥ったとしても、あの方なら無理をせずに一度撤退すると思いますよ」

「だといいけど……」

「ともかく、今は目前のことに集中してください。今のように上の空では心配でなりません」


 ……そう、よね。いくら心配しても、特に意味はないものね。

 確かにこのまま注意力が散漫な状態では、取り返しのつかない失態を演じかねない。ソータが頑張ってくれているのに……私は情けないわね。自己否定を繰り返しても、(かせ)にしかならないじゃない。


「アリスちゃん、もう大丈夫?」

「えぇ、もう大丈夫よ。クレアにも心配かけたわね」


 私が立て直したのを察したのか、クレアが私に話しかけてきた。


「ごめんね、私はあまり人を励ましたりするのは得意じゃないから、ただ見ていることしかできなくて……」

「別にかまわないわよ。もとはと言えば私がくよくよしていたのが悪いんだし」

「ごめんね、私はなにもできずに」

「いいわよ、気にしないで」


 私たちがそんな話しをしている間にも馬は進んでいき、帝国軍の本陣のかなり近くまで来た。


「――いたぞ、あいつらだ!! 馬から引きずり降ろしてぶっ殺せっ!!」

「やはり私たちのことはばれていましたか……」


 そこには三十人ほどの兵士が待機していた。

 私たちを見つけると、指揮官と思われる男が私たちに攻撃するように兵士たちに命令を下した。


 なんで切り札の転移者がわざわざ私たちのいる場所に来たのか疑問だったんだけど、どうやらすでに私たちのことはばれていたらしいわね。

 いつばれたのかは分からないけど、この様子だとこちらの動向は最初からばれていた可能性が高い。


 私たちは襲いかかってきた兵士たちの迎撃を開始するのだった。


 ――  ――  ――  ――  ―― 


 俺が帝国軍本陣のテント群に着くと、そこは業火に包まれていた。

 いたる所から火の手が上がり、魔法使いたちが水を作り出しては消化しようとしているが、あまりにも広範囲に燃え広がっているためか、一向に収まる気配はない。


 俺は襲撃部隊がどこにいるのかを探していると、一ヶ所から激しい怒声や罵声に悲鳴のような声が聞こえてくる。俺はそこへと行ってみることにした。


「ソ、ソータ! 無事だったのね!」

「あぁ、なんとかな!」


 そこでは、襲撃部隊が押し寄せる帝国軍兵士たちを、次から次へとなぎ倒しているところだった。

 別にすべての者が戦っているわけではなく、違うところではにらみ合いが起きていたりもした。


 帝国軍兵士は圧倒的に襲撃部隊の人数を上回るほどいるのだが、まったくと言っていいほど相手になっていない。なぜなら、帝国軍兵士たちの多くはなぜか農具で戦っていたからだ。

 中には剣や槍などを持っている者はいたのだが、その数は少ない。そして、兵士たちの装備は一様にして粗悪品だった。


 俺は最初、帝国には兵士が元からたくさんいるのかと思っていたのだが、どうやら違ったようである。それは、農具を振るっている者たちの動作は素人そのもので、とても戦いを生業にしているとは思えなかったからだ。

 どうやら、帝国軍の大多数は普段は農民をやっている者たちで構成されているようである。


「よかった、ソータが無事で……!」


 襲撃部隊のいる場所へ近づくと、アリスは俺の腰に手をまわして抱き着いてくる。出し抜けにそんなことをされ、俺はあまりの事に驚愕した。


「ちょっ!? おいっ!」

「ソータが無事で……本当に、本当によかった……」


 アリスを離そうとしたが、俺は手を止めた。



 ――アリスは、泣いていたのだ。



 俺の腹部に顔をうずめ、アリスは弱々しくすすり泣いていた。

 どうやら、俺はアリスに心配をかけていたようだ。それも、泣き出してしまうほどに強く。


「……すまんな、心配をかけて」


 俺はアリスの頭に手を置いて、優しくなでた。


「ぐすっ……本当よ、私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

「本当にすまなかったって。でも、あのときは仕方がなかっただろ?」

「……まぁ、そうだけど」


 しばらくして、アリスは落ち着いてきたのか俺から手を離した。俺は、それが寂しいような嬉しいような、複雑な感覚をおぼえた。


「落ち着いたか?」

「えぇ……ごめんなさい、迷惑をかけたわね」

「気にするな、アリスが落ち着いたならそれでいいよ」


 ちょっと向こう見ずな行動だったか。仕方がなかったとはいえ、アリスを泣かせてしまった。

 とっさに判断だったとしても、もう少し冷静に、そして一声かけておくべきだったか。


「もう大丈夫そうですね」

「あぁ、しばらくすまなかった」


 俺はアルバニアに謝罪を口にする。

 アリスを落ち着かせている間はずっと兵士たちを牽制しててくれていたからな、本当に悪いことをした。


「ごめんね、姉さん」

「かまいません。しかし、そろそろ戦線復帰をお願いします」

「了解」


 俺は先ほどのことを払拭すべく、帝国軍兵士のいる場所へと走り出す。


「う、うおおおおおぉっ!!」


 すると、一人の男が俺に突撃してきた。

 その男は青銅で作られていると思われる鉈を俺に振り下ろしてくる。だが、どこか動きがぎこちない。

 俺はストレージからバスタードソードを取り出し、男の持つ鉈へと強く打ち付けた。


「うぐっ!?」


 男はあまりの衝撃に持っていられなかったのか、鉈を手放してしまった。鉈ははるか遠くへと飛んでいき、地面に突き刺さる。

 俺は体勢を崩した男の首元へバスタードソードを振るい、男の首を斬り裂いた。


「死ねやガキィッ!!」


 今度は斧――それも伐採用だと思われるものを持った男が、俺にその斧を振り下ろしてきた。

 俺は斧をバスタードソードで受け止めた。周囲にすさまじい金属音が鳴り響く。


「なっ……!?」


 男は驚愕を顔に浮かべ、声をもらす。

 先ほど高畑の振るうグレートソードを受けたからか、男の振るう斧は異様に軽く感じてしまい、受け止めるのに苦はなかった。


 俺は斧を横へとそらし、男の首を斬り裂く。

 なんていうか、全体的に弱い。帝国軍にはもちろん戦いに身を置く者もいるのだろう。しかし、まともな装備を持っていないような者の動きは素人同然であり、相手にならない。

 拍子抜けだ、もっと苦戦すると思っていたんだが。


「ブラストウォーター!」


 俺はアリスを見た。そこには、爆発する水球を放って帝国軍兵士たちを気絶させているアリスの姿があった。

 どうやらアリスはわざと威力を落とし、気絶させるに留めているようだ。だがその代わりにアリスは水球をいくつも放ち、かなりの人数を気絶させていた。


「襲撃部隊の皆さん、撤退を開始します! 総員撤退!!」


 フレッドの副騎士団長は、襲撃部隊の全員に聞えるように声を張りあげた。

 見ればテント群のその八割は炎に包まれており、これで目的は達したと判断したのだろう。


 俺の記憶が正しければ、事前の予定では森の中に自由にしていた馬を呼び戻し、馬に乗って撤退するんだったか。

 まぁ、確かにこんな場所まで連れて来ると馬も守らなければならなくなるか。それはいろいろと面倒だし、その判断は間違っていないだろう。


 俺たちはしつこい追手を振り切りながら、フレッドへと撤退したのだった。

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