善悪とは、場合によって変わるもの
「……てめぇ、なにしやがったっ!?」
「もしかして、なにもわかってないのか?」
髙畑はどうやら、なんで自分が血を吐くようなけがを負ったのか理解できていないようだ。
苦しそうな表情の内には、明らかな戸惑いが見て取れる。
「いまお前は爆発したときに生じた衝撃波で、肺とかの臓器が傷ついている状態なんだ。だからお前は血を吐いているんだよ」
髙畑の体には爆発時に飛散した破片によってできた傷や火傷がいくつかあったが、あまり大きな傷ではなかった。しかし、内部の臓器にはすさまじい影響をもたらしたようだ。
爆発による怪我にはいくつかの種類がある。
まずは、爆発によって生じた蒸気なんかで負う火傷や、有毒な粉塵や煙なんかを吸入することで内部が焼かれたりする火傷。
次に、爆発することで発生する破片によって負う傷。今回の場合はブラストボールが何にもおおわれていなかったので、そんなに影響はなかった。
――そして、爆発によって生じた衝撃波が肺や消化器なんかの空気をふくんだ臓器を傷つけることで負う傷。これは防具で防ぐことはできず、喀血したり呼吸困難になったりする。
確か、爆発が原因で死亡する一番の要因がこれだったはずだ。
ほかにもまだいくつかあったはずだが、今回はあまり関係ないだろう。
ちなみに俺は森にあまり被害が出ないように、ブラストボールの効果を限定的にコントロールしていた。衝撃波はそのままに、爆炎を上部に逃がして森に引火しないようにしていたのだ。
最近は魔力の繊細な操作にもある程度慣れてきて、魔法の効果を一部だけだがコントロールできるようになった。ただ、飛行魔法を完全に使いこなすにはまだ少し足りないんだがな。
「――つまり、お前はこのままだと時期に死ぬな」
「なっ!? ――うっ! ゲホッ、ゲホッ!! ……ふ、ふざけんなっ!! 俺にこんなことをして許されると思ってんのかっ!?」
髙畑は血を吐き出しながら、俺に叫んだ。地面に鮮血が滲む。
「お前はなにを言っているんだ? 自分から襲いかかってきて、返り討ちにされたら相手に罪を問う。俺にはその感覚はいまいち理解できないんだが。自分から攻撃したんだから、殺されても自己責任だろ?」
「ふざけんなっ!! 俺は帝国軍幹部の一人なんだぞ!? こんな事してただで済むとは思うなよ!!」
「はっ、立ち上がることもできない奴がなに言ってるんだ?」
それにしても、『帝国軍の幹部』ね。生かしておいた方が……いや、こんな奴は生かしておくだけ無駄か。
こいつを生かしておいても、ろくな事にならないだろう。
「……まぁ、もういい。早く死んでくれ、目障りだ」
「ま、待ってくれっ!!」
俺がバスタードソードを向けると、髙畑は俺を制止した。
必死の形相であり、懇願しすがるような態度である。
「……なんだ?」
「お前を攻撃したのは謝るよ!! だから、だから見逃してくれ!!」
「はぁ……」
俺は呆れ混じりのため息を吐いた。
正直言って、俺はこいつの態度が気に食わなかった。一方的に攻撃してきたと思ったら、今度は形勢逆転すると見逃せと言う。
これは少し前に聞いた話なのだが、帝国軍がルーサーを攻め入った際、こいつは嬉々として逃げ惑う一般市民を虐殺したらしい。
親の前で子どもを殺したり、すぐに殺すことができるというのにわざわざ嬲り殺しにしたりと、とても人の行いとは思えないような行為を平然と行っていたという。
――きっと、こいつにとって人殺しというのは、『遊び』と同じような感覚なのだろう。
俺は、こういう人間が大嫌いなのだ。
「……お前は、人を殺す際に制止の声を聞いたのか? 『やめてくれ』『死にたくない』そんな声を聞いて、お前は手を止めたのか?」
「そ、それは……!」
「お前はいったい何人の無実の人間を殺したんだ?」
高畑へと問いかけたが、その答えはかえってこない。
口を堅く閉ざし、高畑は何も言うことができないようだった。
「……やっぱり覚えていないだろ? そんなお前が命を乞う資格はあるのか?」
「……っ!」
すぐにでもこいつを殺してやりたいが、その前に言っておかないと気の済まないことがある。
「虚構と現実の区別をつけろよ、外道」
俺は人を殺すこと自体が悪だとは思っていない。だが、無実の人間を殺すのは決して許される行為ではないのだ。
確かに、殺人はいけないことだ。しかし、世の中には時として殺人が正義の行いになるときがある。
――それは、『戦争』だ。
戦争で敵国の人間をたくさん殺せば、英雄になることができるのだ。
いくら敵国では悪魔と言われようと、自国では英雄である。なぜなら、『敵』をたくさん殺したからだ。
それにこの国ではかなり曖昧だが、殺されそうになった場合にやむおえず相手を殺したとしても、それは正当防衛になる。正当な防衛なのだから、罪にはならないのだ。
だがしかし、権力や力によって押さえつけてなんの罪もないのに殺すなど、言語道断である。
こいつは敵国の人間なのだ。こいつの行いが帝国では正義だとしても、王国では悪である。同郷の者だとしても、俺に見逃す筋合いはない。
「これ以上は話していても無駄だな。――死ね」
「嫌だっ!! 嫌だぁっ!!」
俺は這って逃げようとした髙畑の背中を踏みつけて逃げないようにし、バスタードソードを背中から腹部へと突き刺した。
いくら弱っているとはいえ、これぐらいで死ぬことはない。
「がぁっ!? や、やめろっ!! 死にたくないっ!! 嫌だぁっ!! 死にたくな――っ!!」
俺はバスターソードを引き抜くと、今度は首元へ横薙ぎに振るった。すると、髙畑の首は斬り裂かれて声が途中で途切れ、おびただしい量の血で地面を汚しながら息絶えた。
頚椎を斬ったし、即死だっただろう。
これで少しでも、こいつに殺されたやつの無念が晴れるといいんだが。
俺は髙畑の体から血がどくどくと流れ出ていく様子を、冷めた目で見ていたのだった。




