同郷者との死闘
「――お前、もしかして転移者か?」
男は俺を見ながら、唐突にそうつぶやいた。
「……なんでそうだと?」
「そりゃあ、白髪まじりだが黒髪に黒い目でそんな顔つきのやつは、ほぼ転移者にしかいないらしいからな。見る人が見ればすぐにわかる。まぁ、一概には言えないんだがな」
男は小ばかにしたような態度でそう説明した。
別に隠していたわけではないが、転移者だとばれることがあるのか……。こればかりはどうやっても対策できないな。
「俺の名前は『髙畑 強志』だ。お前の名前は?」
「……『東雲 奏多』」
「東雲だな。まぁいい、お前のことはしばらくは覚えておいてやるよ」
「そうか、勝手にしろ」
俺は自分以外の異世界人を見たことがない。なので少し話をしてみようかと思ったのだが、その気は一瞬にして消え失せた。
たとえ敵対国の人間だとしても、元は同じ世界の住民だ。ならばなにかしら話ができるかと思っていたのだが、そんなことはなかった。
こいつは俺の嫌いなタイプの人間だ。はっきり言って、不快だ。
「そんじゃあ、とりあえず死にさらせっ!!」
「ファイアボール!!」
「ちっ!」
髙畑はこちらに走ってきた。しかし俺が近づかれる前に火の玉を放つと、髙畑はグレートソードを盾にして防いだ。
「てめぇがそういう手でくるなら、俺だって考えがあるぜ!」
髙畑はそう言うと、グレートソードを盾のように構えた。そして――。
「うおらああああああぁっ!!」
「はぁ!?」
そのままの状態のまま、高畑はこちらに突っ込んできた。俺はそんな行動に意表を突かれた。
「早く死ねぇっ!!」
「ぐっ……!」
髙畑はグレートソードを振り下ろし、俺はそれを横に受け流した。しかし、完全に衝撃を殺すことはできなかった。
俺は手の痺れを我慢しながら髙畑へと突きを放つ。だが、髙畑は体を反らしてよけた。
「そんなぬるい攻撃当たるかよっ!! おらぁっ!!」
「ぐふっ!?」
俺は横腹を高畑に蹴られ、体勢を崩した。
「死ねぇっ!!」
体勢を崩した俺にグレートソードが振り下ろされた。しかし、俺はすんでのところで転移魔法を発動し、少し遠くへと転移して回避する。
転移した場所からさっきまで俺がいた場所を見た。すると、そこは地面が真っ二つに叩き切られていた。
……今のを食らってたら、完全に真っ二つになっていたな。
「ちっ、転移魔法か、多芸な奴め」
高畑は顔を怒りで染め、舌打ちをしそう吐き捨てた。
……まずいな、打つ手がなにも思いつかない。このままいくとじり貧なのはわかっている。早々に手を打つ必要があるのだ。
なにか、なにか手はないのか……!
「アイシクルアロー!」
俺は氷の矢を五本放つが、髙畑はまたしてもグレートソードで防いだ。
「ウィンドカッター!」
続けて風の刃を放つ。だが、やはり結果は同じだった。やっぱり小規模の魔法は効果が薄いか。
「ちまちまとうぜぇんだよっ!!」
髙畑はグレートソードを振るう。俺はそれを転移魔法でよけると、遠くからロックシュートを打ちこんだ。
「ああああああああぁっ!! ちょこまかとっ! 早く死ねえええぇっ!!」
髙畑は飛んできた岩を叩き落とすと、獣のような咆哮を上げてグレートソードを振り回した。どうやらかなり腹が立っているようで、動きが最初とくらべて粗雑になっている。
察するに、高畑はかなり怒りっぽいようだ。
――そんなことを考えていると、俺はあることを思い出した。フェリクスの森で狩りをしていたときに経験したことを。
うまくやれば、大きな隙を作ることができるかもしれない。
「くそがっ!! 早く死にやがれぇっ!!」
腹が立っているのもいい、正気じゃないから罠にもかけやすいしな。
俺はこちらに突っ込んできた髙畑の攻撃をよけ、先ほど見つけた絶好のポイントまで移動し始めた。
「逃げんなぁっ!!」
俺が走り出すと髙畑は怒りで顔を歪め、俺の後ろをついてくる。俺は目的地点に着くと、そこに背を向けて髙畑を迎え撃った。
「死ねぇっ!!」
そして、髙畑はグレートソードを俺に振るった。すると――。
「なっ!?」
高畑が振るったグレートソードは、俺の後ろにあったもの――幹の太い木に深くめり込んだ。俺はこのときを待っていたんだ!
大きな隙をさらした髙畑へ、俺は横薙ぎにバスタードソードを振るう。髙畑は即座にグレートソードを引き抜くと、後方に跳んだ……のだが。
「ぎぃっ!?」
それは間に合わず、横腹を俺の振るったバスタードソードが斬り裂いた。
傷は大きくないので内蔵がこぼれるといったことはない。だが高畑は痛みに耐えかねてか、地面に膝をついた。
「――っ! リジェネレーションっ!!」
「させるかっ!!」
当然というべきか、高畑は回復魔法を発動する。
ここまで大きな傷を受けていながら魔法を発動させることができたのは、ひとえに良くも悪くも高畑の気が強かったからか。
「ウインドバリアーっ!!」
魔法を妨害するために走り出したが、高畑が風で俺を吹き飛ばす。それにより、俺は回復を許してしまった。
地面へと着地し高畑を見る。それと時を同じくして治療が完了し、高畑は立ち上がった。
しまったな……、回復魔法を使う可能性を考慮して事前になにか手を打っておくべきだったか……。
「……てめぇ、やるじゃねぇかっ!!」
髙畑は不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。
心底楽しそうではあるが、同時に怒りに耐えかねているようにも見える。
ダメージをあたえることはできたが、回復されてしまっては意味がない。
……仕方ない、ホントはあまりやりたくなかったが、魔法で防御不可能なほどの攻撃をくわえる方向に移行しよう。
この後も戦闘があるだろうし魔力を温存しておきたかったが、このままの状態を長引かせるよりは何倍もましだ。
「ファイアボール! ウィンドカッター!」
「ちっ!」
俺は火の玉と風の刃をいくつも放った。しかし、髙畑はグレートソードを盾にして魔法を防ぐ。
数で押すのは得策ではないか。
「《ウィンドブレット》!」
俺は風の弾丸を髙畑へと放った。だが髙畑はぎりぎりのところでそれをよけ、風の弾丸は奥にあった木を盛大に揺らした。
「ブラストウォーター!!」
髙畑はお返しとでもいうのか、水の玉を俺の方に放つ。俺がよけると水の玉は生えていた木に当たった瞬間、爆発を起こした。
しかし、収縮が甘いな。アリスならもっと小さな水球で、より大きな爆発を発生させることができるだろう。
やはり、高畑は近接戦闘の方が得意のようだ。
「いい加減早く死ねぇっ!!」
髙畑はグレートソードを振り下ろしながら、殺気まじりに叫んだ。俺は髙畑から離れたところへ転移する。
そして、練り上げていた魔力を一気に魔法の発動に使った。
「ブラストボール!!」
「――っ!!」
俺が打ち出したのは、赤々と燃える火の玉。しかし、それは先ほどの魔法とはまったく違った。
火の玉は高畑へと真っ直ぐ飛んでいく。高畑は横にとんでかわした。
真っ直ぐ飛んでいった火の玉は高畑はがよけたことにより、先ほどまで髙畑がいた場所の地面へと着弾した。そして、周囲に猛烈な熱と衝撃波をほとばしららせる。
それは、一瞬にして俺の視界を赤く染めた。
「がああああああああぁっ!?」
髙畑は爆発によって吹き飛ばされた。
俺と爆発地点とは二十メートルほども離れていたのだが、ここでさえも熱を感じることができた。今の爆発にどれだけの力があったのかは想像に難くない。
「――ゲホッ! ゲホッ、ゲホッ!! な、なにが……」
高畑は血を吐き、困惑していた。
立ち上がろうともしているがそれはできないようで、ヒューヒューと苦しそうに息を漏らすだけだ。もはや回復魔法を発動することさえもできないようである。
……ていうか、今の爆発をもろに受けてもまだ生きてるのか……。どんだけ生命力が高いんだか。
まぁ、でもよかった。俺の保有魔力の三割をつぎ込んだこの攻撃で無傷だったら正直お手上げだった。
さすがにそれはないだろうと思ってはいたのだが、無傷のまま無駄に終わるという可能性も捨てきられずにいたのも事実だ。
俺はうまくいったことに安堵しながら、血を含んだ咳を吐いている髙畑へと近づいていく――。




