苔むした廃城
俺はレナード帝国を目指し、着々と移動を続けていた。
特に変わったことはないが、しいていえば町に入るときはギルドカードを使わずにお金を払っていることか。
さすがの俺でもここでギルドカードを出すような馬鹿な真似はしない。あれって名前やランク以外にも性別が書かれてるからな。
そんなのを出しても明らか不審に思われるだろう。
それと乗合馬車に乗らない理由は、乗るのにきちんとして身分証が必要になるからだ。
ギルドカードでもいいのだが、そのためだけに作りに行くというのは少々めんどくさい。
まぁ、しばらくはこの体で動くことになるんだ。この体に慣れるという意味でも、歩いて行くというのはそこまで悪いことではないだろう。
俺はあまり使われていない苔むした道を歩く。
なんでもレナード帝国の方に行くには一般的に使われている街道よりも、こっちの旧道を経由した方が近いらしい。
旧道なので魔物や盗賊がよく出るそうだが、よほどの事がない限りは問題はないだろう。
「――ん? なんだあれ?」
旧道を歩いていると、なにかの建物が見えてきた。
石造りの小さな城のような建物で、手入れがされていないのかツタに浸食されている。
俺は少し休むついでに、なんの建物か気になったので中に入ってみることにした。
中に入り、しばらく内部を探索する。
ある程度探索してわかったことといえば、ここは元々誰かが住んでいたというより、詰所や出張所のような場所だったみたいだ。
ある部屋には劣化して壊れた二段ベッドがいくつも置いてあったり、厨房には風呂のように巨大な鍋が放棄されていたりと、集団生活をしていた痕跡がいくつも見つかった。
おおかた、以前に旧道を管理していた組織の詰所だろう。
ただ一つ不気味なことは、最近のものと思われる焚き火の後が見つかったことか。
消えてからまだそれほど経っていなかったようで、まだ煙がうっすらと出ていた。
それに、近くにはなにかの肉を食い散らかした後があった。それも決して一人や二人では食べることができないような数の骨の山だ。異臭もしなかったし、かなり最近のものに見える。
もしかしたら何者かがここに住んでいるのかもしれない。こんな場所に住んでいるんだ、絶対にまともなやつじゃないだろう。
俺はここから離れるために、足早に歩き出した。だが、どうやら少し遅かったらしい。
遠くから足音が聞こえてくる。それも数人といった規模ではなく、もっと大人数の足音だ。
しばらくして、それらは姿を現した。
「――あ? 誰だ?」
「ガキがなんでこんなとこにいるんだ?」
「迷い込んだんかね」
姿を表したのは、みすぼらしい格好をした男たち。
髪や髭は伸び放題になっており、服もヨレヨレで様々な色の染みがある。中には赤色の染みもあった。
俺はこの男たちの容姿に既視感があった。
「……盗賊か」
「おぉ、よく分ってんじゃねえか」
「んだぁ? ガキが迷い込んでるぞ?」
「ふひひひっ、本当だ本当だ」
男たちは続々と部屋に入ってくる。そして、俺のまわりを取り囲み始めた。人数は二十人以上にもなる。
「こらぁかなりの上玉だぜ!」
「ひひひっ! ガキは具合がいいからなぁ」
「前のガキはすぐに壊れやがったからな。できるだけ傷つけるんじゃないぞ」
――あぁ、もういいや。こいつらは全員殺そう。
めんどくさかったので見逃してやろうと思っていたが、こいつらの態度を見て気が変わった。
男たちはまるで品定めをしているかのように、まじまじと俺を見てくる。男たちの視線は非常に気持ち悪く、悪寒を感じ虫唾が走る。
「最初は俺がもらうぜぇ!」
「あ、てめぇっ! ずりぃぞ!」
一人の男が俺に手をのばしてくる。だが俺はそれより前に、ストレージから冥府の短剣を取り出して男の手首を斬り裂いた。
「いっ!? ぎゃああああああああぁっ!?」
「ヴァルツ!?」
『ヴァルツ』と呼ばれた男の手首からは、鮮血が噴き出す。ダガーで斬ったので手首を切断することはできず、血が噴き出すだけだ。
男は後ずさり、腰にあったポーチから一つの瓶を取り出した。
その瓶には薄い赤色の液体が入っており、男はそれを一気に飲み干す。
確か、あれは『回復のポーション』だな。飲んだり直接患部に掛けるとたちまち傷が再生するという、《ヒール》と同じような効果があるものだ。
無論グレードのようなものがあり、その効果にも限りがある。
さすがにあのポーションでは無くなった腕を生やしたりすることはできないだろうが、例え安物でも今の男の傷くらいならば治すことができるだろう。
――冥府の短剣で斬られていなければだが。
「な、なんでっ!? 傷がっ、傷が治らない!?」
男は傷が一向に治らないことに焦り、取り乱し始めた。
冥府の短剣でつけられた傷は、『解毒のポーション』を使うか《キュア》を掛けなければ、どれだけポーションを飲もうがどれだけ回復魔法を掛けようが、決して治ることはない。
……いや、かなり高価な回復のポーションを使ったり、通常の何倍も魔力を使ってヒールを掛けたりすれば治りはするだろうが。
「てめぇっ!! よくもヴァルツを!!」
一際体格の大きい男が俺に殴り掛かってくる。
俺はしゃがんで拳をかわすと、すれ違いざまに男の脇の下を斬りつけた。
「があああああぁぁぁっ!? くそがぁっ!! てめぇら、そのガキを殺せぇっ!!」
男がそう叫ぶと、俺の周りにいた男たちはそれぞれの武器を抜いた。そして、俺へと斬り掛かってくる、が。
「ひぎっ!? ああああああああぁっ!?」
「痛いっ、痛いぃっ!?」
「ぎゃあああああああぁっ!? 死ぬっ、死んじまうっ!!」
周囲は阿鼻叫喚と化す。
男たちはなんと言うか……弱い。
連携は滅茶苦茶だし、一人一人の実力もあまり高くないので簡単に攻撃が見切ることができた。
「――なにする!? や、やめろぉっ!!」
俺はブロードソードを持った男の後頭部をつかむと、勢よく壁へと投げつける。
すると男はそのまま壁に激突し、頭蓋が割れて血肉をまき散らしながら地面に崩れ落ちた。
しばらくすると、立っているのは俺だけになった。
地面には数名血をだらだらと流しながら倒れ込んでいる者もいるが、時期に失血死するだろう。
「……試しにできるだけ魔法を使わずに戦ってみたが、戦えないことはなさそうだな」
身体強化の魔法は使ったが、そこまで戦いづらいわけではなかった。
火力不足は否めないが、そこは魔法で補えばなんとかなるだろう。
ちなみになぜバスタードソードを使っていないのかというと、単純にこの体では扱いづらいからだ。
よくフィクションで異様に大きな武器をいとも簡単に振り回すような者がいるが、現実的にはかなり難しい。
身体強化の魔法を使えば持ち上げることはできる。だが、どうしても思い通りに振るおうとすると武器に振り回されてしまい、うまく扱うことができないのだ。
実際にここに来る前、魔物相手にバスタードソードで戦ってみたのだが、どうにもいつも通りに扱うことができず、かなり苦戦してしまったのだ。
なので、この体のときは冥府の短剣を主武器にして戦うことにした。
そんなこんなしている内に男たちは全員失血死したようで、呻き声が聞こえなくなった。
男たちの死体を回収しておこうかとも考えたが、やめておくことにした。
褒賞金をもらおうとすると、必ず警備兵に引き渡さなければならないのだ。あまり目立つわけにはいかないし、なにより余計な詮索をされるのはまずい。
それに、できるだけこいつらに触りたくはないしな。
俺は日が暮れる前に次の町に到着するべく、その場を後にした。




