出立
「――ん、んん……ここは?」
「アリス! 目が覚めたのですね!」
「えっ!? ちょっ、ちょっと姉さん!?」
アルバニアはアリスが目を覚ますと、手を背にまわし抱きついた。アリスはかなりびっくりしたようで、目を見開く。
ここは屋敷にあるアリスの部屋だ。
現在ここには俺やアルバニアにクレアを含む四人がいた。
普段は断りがなければここには入ったりしないが、今回ばかりは許してもらおう。
「アリスちゃん、体はどこもおかしくない?」
「クレア? ってソータも!? ど、どうしたの!?」
アリスは混乱しているのか、なんで自分の部屋に俺たちがいるのか分かっていないようだ。
「もしかして、なにがあったのか覚えてないのか?」
「なにがあったのかって……っ!! そうか、私知らない男たちに襲われて……」
アリスはハッとした表情を浮かべる。
ようやくなにがあったのかを思い出したようだ。
「そうだ、『アリスが攫われた』ってクレアが俺たちを呼びに来てな。それでなんとか助けることはできたんだ。一応あざがあったから《ヒール》を掛けておいたんだが、どこか痛いところとかあるか?」
「えっと……たぶん大丈夫よ」
「まったく、次からは気をつけろよ?」
俺はアリスの頭を撫でる。さらさらと手触りの良い感触が手に伝わってきた。
うん、ずっと撫でていられそうだな。
「ちょ、ちょっと! 子ども扱いしないでよ! 私、これでも十六なんだけど!」
「……え?」
ん? アリスはなんて言った? 確か『十六』って聞こえたんだが……年齢のことだよな? もしかして、アリスって十六歳なのか? てっきり、俺は十歳ぐらいかと思っていたのだが……。
「……ねぇソータ、もしかして今まで私の年齢はもっと下だと思ってたの?」
「は、はははははっ、どうだろうなー……」
俺は威圧感のただようアリスの笑顔にそっぽを向いて、笑って誤魔化したのだった。
―― ―― ―― ―― ――
二日後の朝、俺とアリスにアルバニアそしてクレアは、城門の外に来ていた。
「ねぇソータ、本当に行くの?」
「あぁ、遅くても二ヶ月もしたら絶対に帰ってくる」
俺はレナード帝国に行こうとしている。
魔剣を奪おうとしたことはまだいい。だが、アリスに手を出したのはどうにも許容できない。
アリスがつらい思いをしたのに、命令した張本人が城でのうのうと玉座でふんぞり返っているのは俺は決して許すことができないし、今後俺たちに手を出すことができないよう徹底的に叩き潰す必要がある。
こればかりはゆずることができない。
それと、俺がレナード帝国に行こうとしていることはアリスたちに知らせてはいなかった。
さすがに止められるだろうし、絶対に多大な心配をかけるだろう。だから、俺は黙っていることにしたのだ。
「気をつけてね」
クレアが心配そうに言った。
「気をつけるもなにも、ただちょっと急用ができただけだ。そんな心配することじゃないさ」
「……そう、ならいいけど」
「それよりも、クレアは二人のことを頼むな」
「えぇ任せて頂戴! 二人のことは絶対に守るから!」
何十日も二人だけにするのは不安だったので、クレアにはしばらくの間二人と一緒に活動してもらえるように頼んでおいた。
俺が二人とパーティーを組む以前は何度か臨時でパーティーを組んだことがあったらしいので、混乱はそれほどないだろう。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「気をつけなさいよ」
「絶対に帰ってきてくださいね」
「気をつけてね、ソータ君」
「あぁ、行ってくる」
俺は三人に見送られながら街道を歩いて行く。
しばらく歩いて周囲に誰もいないことを確認すると、俺はストレージから仮面を取り出して顔につけて魔力を流した。すると、急激に体が熱を持ち、体が作れ変えられているかのような不快な感覚を覚える。だが、前程の不快感はない。
いま使ったのは『虚実の仮面』だ。
なぜ虚実の仮面を使用して姿を変えたのかというと、単純に正体を晒したくなかったからだ。
俺は皇帝を暗殺しようと思っているのだが、さすがにそのままの姿で実行に移すのは躊躇われた。その点、この姿なら最悪ばれてもそこまで問題はない。
それと、現在俺は最初に着ていたフードがある黒いドレスを着ていた。
服を脱いで違う服に着替える事はできるのだが、一度元に戻って再度虚実の仮面を使うと、なぜかまたこのドレスを着ているからだ。
アリスにねだられてこれまでに何度も使用しているのだが、飾り気のない服を着ていようものなら無理やり着替えさせられるため、最近はこのドレスにもすっかり慣れてしまった――ていうか、このドレスの着心地が良すぎて着替える気は特に起きなくなっていた。
……慣れって、本当に怖いと思う。
「さて、行くか」
俺はレナード帝国を目指し、歩き出したのだった。




