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克服

 俺はアルバニアが作ってくれた夕食を食べ終わると、自分の部屋で本を読んでいた。

 たまに外で食べる事もあるが、ほとんどは屋敷でご飯を食べているのだ。


 俺はある程度しか料理を作ることができないのだが、アルバニアは料理全般を問題なくこなすことができた。

 もしアルバニアが料理をできなかったら、外食ずくめになっていたことだろう。


 ちなみにアリスはというと、典型的な料理音痴だった。

 つねに火は強火だし、急に独創性を出そうとしたり、塩を入れすぎと言われたら今度は砂糖を入れようとしたりと、俺が見ていても分かるぐらい色々と酷いものだった。

 ……まぁ、結局そのときに出来上がった『()()()()()()』は、誰の胃袋にも収まることはなかったのだが。



 本を読んでいると、急に来客を知らせるベルがなった。

 そばに置いておいた懐中時計を見ると、時刻は午後十時半を回っている。


「……こんな夜中にいったい誰だ?」


 俺はめんどくさく思いつつも、来客を確認するために部屋を出る。すると、ちょうどアルバニアも部屋から出てくるところだった。


「あ、ソータさん」

「来客は俺が出るから、アルバニアは寝てていいぞ」

「すいません……では、お言葉に甘えて」


 アルバニアは欠伸をしながら部屋へと戻っていった。

 俺は屋敷を出て門にどんな者がいるか確認する。すると、そこには見慣れない男がいた。


「夜分遅くに失礼いたします、ソータさんでお間違えないでしょうか?」

「確かにそうだが、こんな遅くにギルドの職員がなんの用だ?」


 男の胸元には、冒険者ギルドの職員だと示す名札がついている。

 急にギルドから人が来るなんて思ってもみなかった。


「ギルドマスターより、緊急の用向きがあると仰せつかっております」

「オーウェンから?」

「はい」


 こんな夜中に呼び出すなんて、なにかまずい事でもあったのだろうか?


「わかった、ギルドに行けばいいのか?」

「はい。馬車を用意しております、どうぞこちらへ」


 俺は塀の外に出て、門の戸締りをする。

 その男の示す先には、やや小ぶりな馬車があった。


 男は俺を中に座らせると、御者席に座り馬車を走らせた。

 道にはたまに見掛ける警備兵以外に歩いている者はおらず、馬車はかなりの速度を出している。

 そうしてしばらくすると、冒険者ギルドにつき馬車が止まった。


「到着いたしました」


 男が扉を開けると、俺は馬車を降りる。

 そして男についていき、オーウェンの執務室の前に着いた。


 この時間は普段なら通常の営業は終了しているはずだ。だが、ここに来るまでに通った場所では、職員がなにやら慌ただしい様子で書類を運んでいるのを何度か見ることあった。

 やはり、なにかよくないことがあったようだ。


 男は執務室の扉を数度叩く。


「失礼します、ソータさんをお連れしました」

「入れ」


 男は扉を開け、俺が中に入ると一礼して扉を閉めた。


「すまなかった、こんな夜中に呼び出して」

「あぁ。それで、なにがあったんだ?」


 俺がソファーに座ると、オーウェンも執務机から立ち上がって俺の前に座った。


「実は先ほどこんな連絡があった。チェイス近辺で目撃されたものと同一個体と思われるクレイジータイラントによって三つの村が壊滅、二つの町が被害を受けたと。内、一つの町は初動が遅れ甚大な被害を受けたらしい」

「……それ、本当か? ていうか、クレイジータイラントは十日もすれば死ぬんじゃなかったのか?」


 オーウェンが容易に信じがたいことを言い出した。

 すでにクレイジータイラントと遭遇してから十五日が経っている。オーウェンの言っていたとおりなら、もうとっくに死んでいるはずだった。


「そのはずなんだが……どうやらそいつは死ぬことなく、脱皮不全を『克服(こくふく)』してしまったらしいな」

「克服?」

「魔物が病気なんかに打ち勝って、耐性を得ることをそう言うんだ。多くの場合、なにかしらを克服した魔物は、通常の者と比べると強力な傾向にある。応戦した者の報告では、体を包む外骨格はあらゆる攻撃を弾き、全く攻撃を受けつけなかったらしい」


 前に一度戦った時は全くダメージをあたえることはできなかった。唯一足の棘を破壊することはできたが、全くダメージにはなっていないだろう。

 この前調べてみたのだが、通常のクレイジータイラントの外骨格はあそこまで硬くはないらしい。もしかしたら、最初に出会ったときにはすでに脱皮不全を克服していたのかもしれない。


「ギルドはこの事態を重く見ていてな。報告と同時に、ベネット王国の冒険者ギルド本部からは、最大限警戒するようにと通達された。そして、今回の騒動の元凶であるクレイジータイラントには、『鏖殺(おうさつ)』という異名が付けられ、ランクはSに指定された」


 ランクS、か。……まぁ、確かにあの強さならSランクで妥当といったところか。


「非常事態なのはわかった。で、結局オーウェンは俺になにをさせたいんだ?」


 色々とまずい状況なのは理解したが、呼び出された理由についてはいまいち理解できなかった。


「今回の事態を受けて、チェイスでは鏖殺を討伐するために腕の立つ冒険者を数十人ほど各地に派遣することになった。それにお前たちのパーティーも参加してほしいんだ」

「なるほど……わかった、それに俺たちも参加しよう」

「ん? いいのか? 勝手に決めて」

「そのことについては大丈夫だ、二人も参加には賛成するだろうしな」


 二人は鏖殺を仕留めることができず取り逃がしたことを未練に思っていた。あの感じだと、参加することに反対はしないだろう。

 それに、俺も仕留め損なったままだとなんかスッキリしないしな。


「そうか、助かる。それじゃあ、詳細な説明をするからよく聞いててくれ」


 オーウェンの話は十二時を回る頃まで続いたのだった。

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