殺戮に呻く者
俺たちは今日もフェリクスの森で狩りをしていた。
少し前にベヒモスが襲来したことでここいら一帯の生態系が狂っていたのだが、最近はそれなりに落ち着いてきた。
しかし完全に元通りとはいかず、たまに前には見かけなかったような魔物が見つかったりもする。
「キシャァァァァッ!」
俺は振るわれる甲虫の金属質の鎌をバスタードソードで横にそらし、外骨格同士の間にある隙間にバスタードソードを突き刺した。
甲虫はバスタードソードを突き刺された事で暴れだすが、俺たちはかまわず攻撃を続ける。
しばらくすると腹を上にして倒れ、動かなくなった。
この甲虫は、『マサクルタイラント』というCランクの魔物だ。
黒光りする金属質の硬い外骨格を持っており、昇華した影響か前脚が発達して鎌状になっている。
この魔物の面白いところは、成虫となっても脱皮することだ。そのため、すでに成虫となっていたとしても大きくなり続けることができるのだ。
今までに発見された中で一番大きいものは、なんと体長が十メートルを超えていたというのだから驚きだ。
まぁ、今倒したものは二メートルくらいしかなかったのだが。
こいつも最近この辺に姿を見せるようになった魔物の一つだ。
そんなに強くないので特に問題にはなっていないが、近頃は結構な頻度で見られるようになった。
最近魔物の襲撃が何度かあったのだが、オーウェンから聞いた話ではその原因の二割はこのマサクルタイラントらしい。
「……本当に、なんでこんなところにこの魔物がいるのかしら?」
「まぁ、一時期よりは大分ましになってるんだがな」
「本当ですね、あのときは本当に酷い状況でしたし」
ベヒモスを討伐したら事態は落ち着くと俺は思っていたのだが……まぁその後も酷い状況だった。
魔物が町に定期的に襲撃しにくるわ、街道に魔物がたくさん出るから大規模な魔物狩りを行うことになるわで、むしろベヒモスを討伐してからの方が大変だった気がする。
「まだ日は完全に昇ってないし、もう少し狩りを続けるか」
マサクルタイラントの死体をストレージに収納すると、俺たちは再び歩き出した。
―― ―― ―― ―― ――
「――うわっ……なんだこりゃ」
濃い血の臭いがしたので気になって来てみると、そこには血肉が無造作に散乱していた。
よく見てみるとそれらは全ての魔物の死体で、身体中が斬り裂かれており四肢が切断されていたりもした。その数は数え切れないほどで、様々な種類の魔物が折り重なるようにして転がっている。
なにか目的があって殺したというより、ただ殺すことが目的のように見える。
そんなことを考えていると、遠くからなにかしらの魔物の悲鳴や金属を打ち付けるような音が聞こえてきた。
「行ってみますか?」
「……そうだな、見に行くか」
気乗りはしないが、この先に何かがいるのは間違いない。
俺たちは争う音の聞こえる方へゆっくりと進んでいく。
次第に音は大きくなっていったが、途中でピタリと音は治まった。
「いた、……ん?」
そこにいたのは、先ほども見かけたマサクルタイラント。
体長は三メートルほどだが、先ほどの個体とは明らかに何かが違った。
妙に気が立っており、体を覆う外骨格は通常のものよりも色が濃い。
そして、マサクルタイラントは一心不乱に巨大なトカゲの魔物の腹を貪っていた。
「……あのマサクルタイラント、何かがおかしいわね」
確か、今マサクルタイラントが食べている魔物はランクBだったはずだ。
通常のマサクルタイラントにランクBの魔物を倒すことができるほどの強さはない。偶然死体を見つけただけかもしれないが、その可能性は限りなく低いだろう。
「とりあえず、討伐しておいた方がよさそうだな」
「そうね、放っておくのはまずそうだし」
俺は物陰から飛び出し、マサクルタイラントがいる場所へと走り出した。
「ギシャアアアァァァッ!!」
マサクルタイラントは素早く俺に気がつくと、すぐさま食事を中断し鎌を振り上げた。
俺はストレージからバスタードソードを取り出すと同時に、マサクルタイラントに振りおろす。だが、バスタードソードは鎌によって受け止められ、周囲に金属音が鳴り響いた。
マサクルタイラントはもう片方の鎌を俺に振りおろしてくる。俺はそれを横に跳んでよけると、再びバスタードソードをマサクルタイラントの外骨格の間に突き刺そうとした。だが、マサクルタイラントは微妙に体を動かして、バスタードソードを外骨格に当てることで防いだ。
「なっ!?」
すでにマサクルタイラントとは何度か戦ったことがあり、一度だけ外骨格に突きを放ったことがあった。
そのときは完全に突き刺さることはなかったが、表面を削り取ることはできていたのだ。だが今回のマサクルタイラントは表面を削り取るどころか、外骨格には一切傷がついていない。
どうやら、こいつは通常のものよりも外骨格が硬いらしい。
「ウォーターカッター!」
アリスが魔法を放つ。
水の刃はマサクルタイラントの外骨格に当ったが、傷さえついていない。
今度はアルバニアの放った矢が前脚の付け根に当る。しかし、当然の如くなんともなかった。
「どんだけ硬いんだよ!!」
俺はマサクルタイラントの後ろに回り込み、今度は全力で突きを放った。だが、マサクルタイラントはびくともしていない。
マサクルタイラントは後ろに振り向くと、鎌を横薙ぎに振るう。
「くっ!」
俺は鎌を上にそらしマサクルタイラントの横へ回り込むと、後脚にバスタードソードを振るう。
「ギシャアアアアァァァッ!?」
完全に切断することはできなかったが、表面にあった棘を破壊することができた。
……ダメージには全くなっていないみたいだが。
マサクルタイラントは後退すると、翅を広げる。
その行動を疑問に思っていると、マサクルタイラントは翅を羽ばたかせながら俺の方へと突っ込んできた。
「――っ!!」
俺はすれすれのところで横に体を投げ出すようにして突進をよけた。
マサクルタイラントは俺と接触する瞬間鎌を同時に振り俺を斬り裂こうとしてきたが、なんとか当たらずにすんだ。
すばやく起き上がると、俺はマサクルタイラントが突進していった方向を見た。しかし――。
「え……?」
俺の口から素っ頓狂な声が漏れる。
気がつくとマサクルタイラントの姿はどこにもなかった。だが空を見ると、そこにはマサクルタイラントの姿はあったが、遥か遠くへと飛び去って行くところだった。




