思わぬ事態
第二章のタイトルを変更しました。
『死を纏う者』→『死を統べる者』
本格的に夏へと入り、強烈な日差しが地面へと降り注ぐ。そんな中、町を歩く者たちはそれを鬱陶しく思いつつも、晴れてくれたことに感謝していた。
そんな光景を、俺は冷房のマジックアイテムのおかげで涼しい建物の中から見ていた。
俺がいるここは、チェイスにある図書館だ。
一回の入場で金貨一枚も払わなければならないが、一日中好きなだけ本を読むことができるのだ。
すでにアベルから屋敷をもらってから一ヶ月が経っている。
本格的に夏を迎え、気温もかなり高くなってきた。……まぁ、日本に比べたら充分涼しいんだがな。
俺たちの冒険者ランクは、この間に全員Cまで上がっている。
ほぼ毎日魔物狩りをしていたので、かなりのペースでランクを上げることができていた。
現在、俺はこの世界のことについて調べていた。前々からきちんと調べようとは思っていたが、ちょっとタイミングが合わなかったからな。
俺のいる机には様々な分野の本が積みあがっており、時々その光景を見た者が奇妙なものを見るような目で見てきていた。
いま読んでいる本は、この世界の環境について書かれたものだ。
――この世界には、地球と同じように生態系があり、様々な生物が生息している。
俺はこの世界でちゃんとした動物を見たことがないのだが、どうやらこの世界にも動物はいるらしい。そしてそこで疑問に思うのは、『魔物』とはなんなのかということだ。
それを説明するには、まずこの世界の環境の成り立ちについて説明する必要がある。
この世界には地球と同じような環境がある。だが、時々魔力を多く含む草花が生えることがあるらしい。それは水を使って魔力を作り上げたり、光合成によって魔力を作り上げる種であったりする。
少量であれば特に影響はないのだが、稀に大量発生することがあるそうだ。
動物は一度魔力を多く含むものを食べると今度はそればかりを好んで食べるようになるそうで、それによって体の中に魔力が蓄積していく。すると、今度はそんな草食動物を食べる肉食動物にも魔力が蓄積し、それが連鎖していく。
動物たちの体中に蓄積した魔力はやがて体の構造に大きな影響をおよぼし始め、次第に変異していき魔物となる。
魔物となった動物は総じて体が大きくなり、凶暴になる。中には食性が完全に変わる種まで存在するそうだ。
動物が魔物に変異することを『昇華』というらしい。
そして、そんな環境が長く続けば、次第にその地域に存在する魔力の濃度が高まる。そうなると、その地域には魔物しか存在しない場所となるのだ。
チェイス近辺もそれに当てはまるので、チェイスの周辺には魔物しかいないらしい。
俺は持ってきていた本を一通り読んでそれをすべて棚に戻すと、屋敷に戻るべく図書館を出たのだった。
―― ―― ―― ―― ――
俺は屋敷の二階にある自分の部屋にいた。
今日は雨が降っていたので狩りは中止し、屋敷でゆっくりすることになったのだ。
「――ねぇ、これなに?」
アリスが笑みを浮かべた不気味な仮面を手に取って、俺に渡してくる。
現在、俺はアリスとストレージに入っている物の整理をしていた。
最近ストレージの中に物がたまりすぎて、なにがあるのか分からなくなってきていたのだ。
雨が降っていて特にやる事がなかったので、この機会にと整理を始めた次第である。
なお、すでに屋敷には一通り家具が設置されていた。
家具だけでミスリル硬貨三枚も使ったが、長く使うものなのでよしとしておこう。
「どこかで手に入れた仮面だな。マジックアイテムみたいなんだが、確か使い方が分からなかったんだよな」
俺は仮面を受け取ると顔に付けてみる。しかし、なにも起こらない。
「魔力は流してみたの?」
「あぁ、魔力を流してみたがなんにも起こらなかったな」
「顔に付けたままは?」
「……それはやった事ないな、やってみるか」
俺は再び仮面を顔に付けると、魔力を流してみる。すると――。
「……っ!? ぐああああああああああぁっ!?」
急に体が燃えるように熱くなり、俺は地面にうずくまった。
仮面を取り外そうとするが、なぜか顔に張り付いて取ることができない。
「ちょっとっ!? ソータ!!」
アリスの声が聞こえるが、今はそれどころではない。
まるで体を作り変えられているような不快な感覚と異常な発熱。体中のあちこちで激痛が走る。
急に俺から大量の魔力が吸い取られ、体が魔力の煙で包まれた。
激痛で意識が飛びそうになるが、歯を食いしばってなんとか耐える。
しばらくすると突然不快感がなくなり、体を包む煙が俺の体に吸収されるようにして消えていった。
「――かはっ! い、一体なんだったんだ……」
俺は止まっていた呼吸を再開し、そうつぶやく。
あまりにも唐突な出来事に、気持ちがついていかなかった。
「……え? ソ、ソータ?」
「なんだ?」
「かっ、かっ、かっ……!」
アリスは目を大きく開くと、口を手で押さえた。
「可愛い!」
そう口にすると、アリスは俺に抱き着いてきた。
心なしか、急にアリスが俺と同じ背丈になったような奇妙な感覚を覚える。
「なっ!? ちょ、ちょっと待てって!?」
俺は抱き着いてきたアリスの勢いに負け、押し倒される。
カーペットをしいていたので痛くはなかったが、後ろに手も付けずに倒れるというのはかなり怖いものだった。
「可愛いっ! 可愛いわ!」
アリスは俺に抱きつきながら撫でまわしてきた。
恥ずかしさのあまり頭が沸騰しそうになり、アリスを押しのけようとする。しかし、なぜか力をうまく出すことができなかった。
ちゃんと力を入れているのに、脱力したように力だけが出てこない。
「や、やめっ……落ち着けって!! 急にどうしたんだよ!?」
「あっ! ご、ごめんなさい。可愛くて、つい……」
アリスは俺の上から退くと、そっぽを向きながら謝った。
「な、なんなんだ……」
そこで、俺は体の動かし方に違和感があることに気がついた。
思うように体を動かすことはできるのだが、なにかしら体を動かす感覚がいつもと違う。それに気のせいかもしれないが、俺の声が高くなったような気もする。
俺はその違和感を確かめるために、部屋に置いてある姿鏡を見た。
「はぁ!?」
あまりの光景に俺は驚愕する。
そこにいたのは、驚愕の表情を浮かべた少女だった。
少女はセミショートの金髪で赤い目をしており、フードの付いた黒いドレスを着ている。
姿鏡を掴み、全体像をよく見てみる。
身長はアリスと同じくらいで、顔はかなりの美形だ。
ただ、今は驚愕によってその顔は曇っている。
「ソータ! さっきのマジックアイテムがなんなのか、多分わかったわ!」
「あ、あぁ、なんなんだこれ?」
俺の常識が悲鳴を上げている。
はっきり言って、理解不能な事態だ。
「さっきのマジックアイテムの名前は、たぶん『虚実の仮面』といわれるものね」
「虚実の仮面?」
「えぇ、一度本で見たことがあるだけで詳しいことは分からないのだけど、確か偽りの体に成り代わるというマジックアイテムよ。それと一度誰かが使用すると、以後その人以外は使えなくなったはずね」
なるほど、『偽りの体に成りかわる』か。言い得て妙だな。
そして、そこで一つ不安が脳裏によぎった。
「……な、なぁ、もしかして元の体に戻れないとかそういうのはないよな?」
「確かそんなことはなかったはずよ。もう一度魔力を流してみて」
俺は言われた通りに、顔に魔力を流す。すると、体が魔力の煙で包まれ、発熱してきた。しかし、先ほどのような不快感はない。
「……戻ったか」
俺は自分の姿を確認する。
冒険者がよく着る頑丈な服を着ており、体もアリスより一回りも二回りも大きくなっている。
「……もう二度とこれは使わない」
俺は仮面をストレージに収納した。
捨てるのはもったいないし、永久封印だな。
「えー! せっかく可愛いかったのに!」
「いや、今後絶対に使わないからな」
俺は抗議の声を上げるアリスを意図的に無視して、ストレージの整理を再開した。
突然のTS要素。
意外とこの話は今後の展開に重要だったりします。




