討伐依頼
翌日、俺の姿は銀狼亭の食堂にあった。
時刻は八時をすぎており、そのおかげか食堂には客は四人しかおらず、昨日とは打って変わって静かなものだった。
俺は店員を呼んだ。
「おはようございます、ご注文でしょうか?」
「あぁ、この野菜のスープと黒パン。それと、猪のステーキと水で」
「かしこまりました、全部で銀貨二十八枚になります」
俺はストレージから金貨を一枚を取り出して店員に渡した。
店員は一旦厨房に行き、再び白い袋を持って戻ってくる。どうやら、麻のような植物を編んで作られているらしい。
「こちらがお釣りの銀貨七十二枚になります、料理はもう少々お待ちください」
店員は下がっていった。
十分ほど本を読みながら待っていると、さっきの店員が料理の乗ったトレーを持ってくる。
「お待たせしました、野菜のスープと豚のステーキ、それと水です」
「ありがとう」
「それではごゆっくり」
俺は料理を口にする。
期待通りの出来で、非常に満足するものだったためか、あっという間に注文した料理を食べ終えてしまった。
クレアがここの料理はおいしいって言っていた理由がよくわかる。
俺は席を立って、外へと歩き始める。
とりあえず、今日は冒険者ギルドで依頼を受けてみることにした。
持っている本を一日中読むのもいいが、『冒険者というのがどういうものか経験してみたい』という好奇心に負けたかたちだ。
エントランスに着くと、受付には昨日と同じ女性がいた。
女性はなんらかの書類を見ている。
「……あ、ソータさん。お出かけでしょうか?」
「あぁ、冒険者ギルドへ行ってくる」
「そうですか、お気をつけて」
女性が手を振ってきたので、俺も手を振り返した。
外に出ると、昨日とは比べ物にならないほどの人が歩いていた。
「昨日は夕方だったから分からなかったが、この町はかなり人が住んでいるんだな」
冒険者ギルドの方へ歩きながら周囲を眺めてみる。
店の売り込みをしている者や、道端で串焼きを食べている者など、多種多様な人たちがいた。
ゆっくりと歩いていき、三分ほどすると昨日も来た冒険者ギルドに到着する。昨日みたいな面倒ごとが起きなければいいんだがな。
俺はギルドの扉を開けて、中へと入る。
中にいた人数は昨日よりも明らかに少なかった。
酒を片手に談笑している者や、硬貨を重ねなにやら計算している者など様々だ。
扉を開けたことによって鐘が鳴り、扉の方に視線が集まるが、すぐに全ての者が今までしていたことへと戻っていった。
受付は全部で五ヶ所あり、今は三ヶ所に人がいる。
俺はその中の眼鏡をかけた女性の方へと歩いて行った。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「依頼の受け方について聞きたい」
「かしこまりました、それではギルドカードを見せてください」
俺はストレージからギルドカードを出し、女性に渡した。
「ソータさんですね。依頼を受けるには、まずあちらにある『リクエストボード』と書かれたところで受ける依頼書を選んでいただきます」
女性は受付の横にある大きな板に指先を向ける。
そこにはたくさんの紙が画鋲で板に貼り付けられていた。
「そして、依頼書には番号が振られていますので、その番号を受付の方へ言っていただければ、その依頼を受けることができます。依頼には期間があるものもございますので、よく見てからお受けください。採取の依頼は現物を、討伐の依頼は討伐したと証明できる部位をここに持って来てください」
「討伐を証明できる部位はどこでもいいのか?」
「いいえ、例えばゴブリンは右耳を持ってくる必要があります。ほかの魔物にもそれぞれ証明部位がございますので、あちらにあります本でご確認ください」
「なるほど。ありがとう、依頼書を見てくる」
「はい、それではまた」
俺はリクエストボードの方へと歩いて行く。
依頼はランクごとに分けられており、ランクSのところは一枚も無いが、ランクCのところは依頼書が所狭しと並べられていた。
俺のランクはGなので、Gと書かれた所を見ていく。すると、そこには採取や討伐などと書かれており、様々な依頼内容が貼り付けられていた。
「……採取はよく分からないし、討伐の依頼を受けるか」
採取の依頼には『ヒール草』や『キュア草』を一定数採取するなどと書かれているが、ヒール草やキュア草を知らないのでこの依頼は受けることはできない。
討伐の依頼を見てみると、そこには『ゴブリン』五匹討伐など様々な魔物の討伐依頼が書かれていた。
ちなみに、ゴブリンは緑色の肌に醜い顔をした人型の魔物だ。
知能や身体能力などは低く、よほど強い魔物などが生息するような場所以外は、どこにでも生息しているような魔物らしい。
俺はゴブリン討伐の依頼書を見る。
「……ゴブリン五匹か。報酬は銀貨五十枚、悪くないんじゃないか?」
依頼書の番号を見る。そこには『G04』と書かれていた。
俺は受付の方へと歩いて行き、先ほど対応してもらった受付口に来た。
「受ける依頼はお決まりになりましたでしょうか?」
「あぁ、G04で頼む」
「かしこまりました、G04ですね。G04は……ゴブリンの討伐ですか。この依頼に決定しますか?」
「あぁ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
女性はそう言うと、なにかの書類に俺の名前を書き記した。
「これで完了しました、ほかにご用はありますか?」
「あぁ、『フェリクスの森』について聞きたい」
俺はゴブリン討伐の依頼書で指定されていた場所について聞いてみる。
「フェリクスの森というのは、この町から出て街道の左側にある森のことです。比較的穏やかな森で、最高でもランクDの魔物しか生息しておりません。しかし、高低差があるため魔物の隠れやすい場所がたくさんあります。ですので、お気をつけください」
「じゃあ、右側は?」
確か、右側の森は俺が元々いた場所だ。
「右側の森は『果ての森』と呼ばれている場所です。この森は非常に危険で、最低でもランクD最大でランクAの魔物が確認されています。そして、この森の奥には『ワイバーン』の巣がありますが、巣と森の間には高い山があるので、基本的にこちらに来ません。ですが、時々こちらに迷い込んでくることがありますので、かなり危険な場所となっております。基本的にこの森は最低でもランクCの冒険者しか入ってはいけないことになっておりますので、絶対に入らないでくださいね」
ワイバーンとは、空を飛ぶランクAの魔物のことだ。
性格は非常に凶暴で、『ドラゴン』とは似た姿をしているが、ドラゴンとは違い前脚と翼が一体化しており、尻尾には毒を持っている。
……俺はなんて場所にいたんだ、危なすぎだろ。
「……わかった。それじゃあ、行ってくる」
「はい、ご武運を」
俺はギルドを出て、城門の方へと歩いて行く。しばらく歩くと、城門へたどり着いた。
城門には十人ほど並んでいたので、俺はその後ろに並ぶ。
しばらくして、俺の番となった。
「おや? ソータさんではありませんか」
そこには、昨日もここで門番をしていたカーシーとチャールズがいた。
どうやら、今は人を二手に分けて対応しているようだ。
「どうして俺の名前を?」
カーシーには俺の名前を言ってないから、知らないはずだが。
「昨日隊長から聞きました。それで、町の外へ出るんですよね? 用事を聞いてもいいですか?」
「あぁ、冒険者ギルドでゴブリンを五匹討伐する依頼を受けてな。それでフェリクスの森へ行こうと思っている」
「なるほど、フェリクスの森ですか。比較的安全と言っても、充分死の危険がある場所ですので、気をつけてください」
「あぁ、わかってる」
「それでは、手続きをしますのでギルドカードを出してもらってもいいですか?」
「ん? なんでギルドカードを?」
確か、昨日は入試税を払ったが、ギルドカードは要求されていない。
いったい何の違いだ?
「冒険者であれば入市税や手数料などが免除されるんですよ。出していただいた方がお得です」
「なるほど、確かにそれはいいな」
俺はストレージからギルドカードを取り出し、カーシーに渡した。
カーシーはギルドカードを受け取ると、手に持っていた板に数行なにかを書いた。
「これで手続きは完了です、ギルドカードはお返ししますね」
俺はカーシーからギルドカードを受け取り、ストレージへと収納した。
「それでは、お気をつけて」
門を出て、左の森へと入っていく。
地面が踏み固められ道になっている場所があったので、それに沿って歩いて行くことにした。
「すぐに見つかるといいんだが」
俺はそうつぶやき、周囲を見回しながら森の奥へと入っていった。




